力のヒールとヒーロイド
ここしばらく大谷とともに行動していていくつか分かったことがある。
まず、こいつは素直だ。
だまし討ちみたいな手段にすぐに引っかかるし、脇坂に吹き込まれたかっこいいヒーロイド用語をそのまんま使っている。
必殺技はブラスト・レイ。
変身時にまとう光はアーマー・レイ。
ヒーロイドのケガの治りが早いのはヒーロイド・オーバーヒール・システム。
他にもいろいろ。
一応書類などにはそう表記するようになっているらしいが、普段から言ってるような人はいない。
俺も初めて聞いた。
大谷は素直だ。
そして、それ故に馬鹿である。
直情的ともいえる。
言葉より先に拳が出る。
現に初対面で色気ゼロの壁ドン食らったし。
俺はこいつを心の中でだけこっそり「ビックリ箱」と呼ぶことにした。
我ながらひどいネーミングだが、ブラスト・レイよりはマシだろう。
ああ、それと。
なんだかよくわからないけれど。
大谷は、ヒールに対してとんでもない敵意を示す。
さて、情報整理完了。
「おい、いつまで寝てるんだ」
「別に寝ては無いんだけど……てか助けろよ」
「なんで偉そうなんだよ」
血だらけのボロボロになった大谷に、瓦礫の山から引き起こされる。
あー、クソ、最悪だ。
あれだ、ウサギヒールの時くらいダメージがでかい。
もうなんか、全身が痛いなんてもんじゃない。
多分死にかけてる。
だって自分の意志で体が動いてる感じないもん。
大谷なんかに頼りたくはないが、頼らざるを得ない程度には全身ボロボロだ。
そして、大谷もまた血みどろのボロボロ。
そしてここにはヒールもいないし、ヒールを倒した時の爆発の跡も無い。
二人そろってこんなにもボロボロになっている理由はもう大体わかると思うけど。
俺たちは、ヒールに敗北した。
ヒーロイドになって初めてのことだ。
--------------------
「はい、じゃあまず今回の敗因は何かな?」
「こいつが無謀な突撃をしてエネルギーの無駄遣いした挙句オーバーヒートしたことだな」
「後ろで何もしてなかったやつが言うか!?」
「仕方ないだろ、サポートしようとしても銃もワイヤーも目潰しも全部お前が食らうんだから」
「お前の狙いが悪いだろ!!」
「無計画に突撃されたらこっちはもうお手上げだっての!」
「はいはい、そこまで!!」
脇坂が発した大声で、ヒートアップしていた口論が一旦収まる。
うーむ、どうもムキになってしまう。
「今回の反省をちゃんと生かさないと、今度から命が危ないってこともあるからね!?」
さて、いつも通りのMACTの溜まり場。
あちこちに包帯やガーゼ、シップをつけた俺と大谷は並んで椅子に座り、テーブル越しに向かいの席に着いた脇坂にお叱りを受けていた。
理由は、先日のヒール戦での敗北である。
突如として街中に出現したヒールは、何故か人気の無い廃ビルを攻撃。
俺と大谷が二人で向かったがその頃にはすでに、五階建てのビルが半壊していた。
向かい合ったヒールは大柄なやつが一体。
全身鎧を着た西洋の騎士の上半身が肥大したようなゴリラっぽい見た目で、なるほどこいつなら確かに鉄筋コンクリートのビルくらい破壊できてしまうよなと。
例によって激しい敵意を剥き出しにした大谷が、ゴリラヒールに対して果敢に攻撃を仕掛けるが、なかなか倒せず。
喋っていたので多分強い方のヒールだろう。
一進一退の攻防を繰り広げていた大谷だったが、すぐに押され出してしまった。
一方の俺はと言うと、サポートのタイミングを伺っていた。
などと言えば聞こえはいいが、要するに何もしていなかった。
というか、出来なかった。
ここ数日の戦いで三体のヒールを相手にし、その中で学んだことがあるからだ。
俺の大谷へのサポートは絶対裏目に出る。
目潰しも銃撃もワイヤーも、ぜーんぶ敵の近くにいる大谷に当たる。
大体分かると思うが、これらのサポートは俺が一人で戦う時の常套手段でもある。
みんな大好き小細工だね!
それが封じられてしまうとなると、俺が直接ヒールをぶっ叩こうとしても、逆にぶっ叩かれて終わってしまう。
しかも大谷は士気が無駄に高く、こっちの言うことも一切聞かずに敵を殴ろうとし続ける。
一旦距離をとってくれるだけで数倍殴りやすくなると思うんだけどなぁ。
とまあ、そんな理由で俺は全く手を下せていない。
だが、決してさぼっているわけではないのだ。
決して!
あのヒールは動きもいいしな。
大谷の荒々しい攻撃をいい感じに受け流していた。
頭もよさそうだなあ。
破壊力があって頭もいい相手となると分が悪い。
破壊したビルから落ちて来た瓦礫が体にあたっても平気そうにしてたし、装甲もかなり分厚いとみていいだろう。
大谷の攻撃が当たっても大してダメージを受けているようには見えない。
こっちは破壊力は無いが頭を使える奴と力はあるが頭が悪い奴のコンビだからな。
上手く連携が取れてさえいれば希望はあるが……うーん、無理そう。
新兵器の搭載希望。
大谷は一気に勝負を決めようとしてパワー全開。
結局すぐにオーバーヒート。
あとはまあ簡単な話で、純粋なパワーを相手に小細工がどれだけ通じるかって話ですよ。
結果は御覧の通りで。
その後MACTに回収され、二人仲良く医務室行き。
ようやく怪我が治ってきたところで呼び出されたわけだ。
「二人でしっかり対策練っといてね!」
「沢渡さんにお願いした方が早いのでは?第一、次あのヒールが出てくるのも俺たちのシフトの時とは限らないし」
ごね続ける俺に脇坂がいら立ちを募らせたような顔をする。
「今回それで済んでも次回以降どうするの?ヒールも強くなってきてるし、二人で協力できるようになってもらわないと」
まあ、確かにそれもそうだが。
「じゃあ俺とこいつのペアである必要性ってなんだよ」
大谷も横でうなずいている。
二人とも未だに納得していないのだ。
「ちょっと、これを見てくれるかな」
脇坂がリモコンを取り出し、スイッチを押す。
すると、いきなり背後から声が聞こえてきた。
『ご覧ください、ヒーロイドと思われる男性二名が負傷しております。ヒールとの戦闘の後でしょうか』
振り返ると、頭上に巨大モニターがあり、遠巻きに二人の人間を映した映像が映っていた。
これは……ニュース番組?
映っているのはこの前の俺達か。
「これは?」
「ニュースの録画だよ。ヒールが立ち去った後の君たちの姿を報道したものだね」
うーむ、ヒーロイドの活動が報道されることがあるとは聞いていたが、自分が映ったのを見るのは初めてだ。
そもそも、ヒールが出現して倒されたってニュースが流れることがあっても、映像まで映ることは稀だったはずだ。
なんせヒールとヒーロイドが戦ってるってのは、警察と犯人がドンパチ銃撃戦やってるようなもんだ。カメラが近づけない。
ヒーロイドの活動を見るためにMACTが飛ばしているドローンがあったが、あれも特殊なものだろう。
テレビ局が飛ばす程度のドローンなんか、流れ弾やらなんやらですぐに吹っ飛ぶだろうな。
それなのに俺たちの姿が映されてるってのは……ああ、そうか。
ヒールがいなくなってからも助けが来るまで現場にいたから、現場の被害を取りに来たカメラに捕まったのか。
小さいとはいえビル一個破壊されてるしな。
「君たちの敗北が報道されてしまった以上、世間は君たちに対して負けたヒーロイドというイメージを持っている。君たちには是非、このイメージを払拭してほしいんだ」
ここにきて、脇坂の顔が少し険しいものになった。
「君たちはあまり意識することは無いだろうが、命に係わるヒールの問題を処理するヒーロイドには世間の注目が集まっている。MACTの予算には寄付や投資も多いし、世間のイメージがそれらを左右することだってある。十分な予算が得られなければ満足な活動も出来なくなり……」
更に予算が減る悪循環が起こる、と。
なんだか、社会の授業みたいになってきたな。
確かにこれはまずいかもしれないなあ、と思いながら横目で大谷の方を窺う。
……おっと、かなり険しい顔をしていますね。
多分だけど話について行けてない方だろうな、こいつ。
「ようするに、こいつと協力してヒールを倒さねえといろいろやばいってことか?」
「そうなるね」
なんとか理解したらしい。
「私もコマンダーも、君たちに期待してるんだよ?」
いや、そんなこと言われても。
ちらりと横を見れば、大谷もかなり嫌そうな顔をしていた。
めちゃくちゃ素直に顔に出るなぁ。
しかしやがてこちらを向いたかと思うと、
「よし、やるぞ」
と言い、俺の手を取りながら走って部屋を出ていく。
ちょっと待って!?どこに連れて行く気!?
抵抗しようとするが、どんなに足を踏ん張ってもズルズルと引きずられてしまう。
後ろから脇坂が止めようとしても追いつけないほど速い。
人一人引きずってるんだけど!?
変身前から体力化け物かよこいつ。
あー、人生諦めが肝心か。
でもまあ、いいか。
引きずられるままだった足を動かし、大谷の横に並ぶ。
手を放してもらおうかと思ったが、引っ張ってもらってないと置いて行かれそうなほど脚力に差があるので、現状維持。
ほんとに真っ直ぐだなあ、こいつ。
なんだよ、もう迷いはないみたいな顔しやがって。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます