現れしwarrior!

あー、最悪だ。

なんでこんな時に、こんなところで出くわしちまうんだ。

つくづく運が無い。


「なんでよりによってお前がここに来るんだ。最悪だ」

トゲトゲヒール。自称ゼロフォー。

こいつもこいつで思うことがあるらしく、何やら唸ってる。


蚊を追いかけていただけなのに、まさかこんな奴と出会うなんて。


ゼロフォー。

以前遭遇したヒール。

俺が対峙した中では、多分、一番強い相手。


矢面の必殺技でも倒しきれないほどタフだし、頭も回る。

前回はなんとか勝てたが、今度も勝てる保証は無いよなあ。


あーでも、人間を殺したことないとも言っていたっけ。

全面的に信用できるわけではないが、すぐに襲い掛かってくるような奴ではないことは確かだ。


とりあえず、ハッキリさせておかなければならないことがある。


「おい、そこの蚊みたいな奴。あれはお前が関係してるのか?」

俺はさっき倒した蚊男ヒールを指さして、目の前のゼロフォーに尋ねる。

ゼロフォーは唸るのをやめ、蚊男の方へ目を向けた。

そのまましばらく黙っていたが、やがて低いトーンで言葉を返してくる。


「蚊みたいな奴じゃねえ。そいつにはちゃんとモストブーンって名前があるんだ」

「……そうか」

ヒールに名前、か。


ヒール同士でのつながりがあるんだろうとは思っていたが。

なるほど、こいつらが互いに呼び合う名前もあるわけだ。

そんなこと、考えたことも無かったけれど。


「じゃあ、このモストブーンはお前らと何か関係があるのか?」

MACT側でヒールを指すときには、特徴や出てきた順に着けられる番号で十分だが。

まあ名乗っているものを無下にする理由も無い。


「……モストブーンは俺が手塩にかけて育てた新型だ」

新型?新型ってどういうことだ?

それに、育てた?まったく意味が分からないんだが。


「順調に進んでたのに、お前らのせいで目標に遠のいた」

目標ってなんだって感じだが、なるほど?

こいつらの行動には目的があり、何らかの計画性があるってことか。


もしかしたら、今までの行動にも。


「目標ってのはもしかして人類を滅ぼすとかそういうのか?」

にやりと笑いながら言ってみせる。いや笑えねー。


「いいや、人類に取って代わることだよ。滅ぼすのは……まあ場合によっては手段かな」

……は?

取って代わる?

ヒールが、人間にか?


「そんなこと、できると思ってるんですか」

俺の隣で構えている矢面が、緊張した声音で問いかける。

さっきまでつけていたひょっとこ面は外し、祭りの屋台などで売られている変身ヒーローのようなお面をつけている。

こいつなりの気合の入れ方だろうか。


「さあな。まだ手探りで色々試してる段階だ」

対するゼロフォーも気が立っているのか、イラついたように答える。


「モストブーン達新型もその一つだな」

さっきも言ってたけど新型ってのはどういうことだ?

ヒールがヒールを作っている、とかか?


新型ってことは今までのヒールとは違う……。


「モストブーン達」ってことはそれが複数体……?


ああ、心当たりがあるな。


「なるほどなあ」

とりあえず今は深く考えるのはやめよう。

頭痛くなってきた。


今はこの状況をどうするか、だ。


俺はさっき変身を解いた。

矢面はさっきの戦闘には参加していないから、当然変身していない。

変身前に襲われたら一瞬で詰みだ。


いやはや、どうしたものか……。

とにかく、話し合いで解決できるならそれが一番だとは思うが。

この二人が許してくれなさそうだなあ。


「ちなみに、人間にとって代わりたい理由ってのは?」


どうにかMACTがこの状況を察知して助けてくれないだろうか。


レーダーは?

いや、あれはヒールが活発に動いてないと反応しないんだっけ。


たしかヒーロイドが変身したときはドローンが来て行動を監視するんだったはずだ。

なら今は?さっき変身したときのドローンが継続で監視しているのか?


とにかく、時間を稼いだ方がいい。

どこかで解決策が思い浮かぶかも。


「うちのトップがな。生きていくのに不便だし肩身が狭いんで、ヒールを解放したいんだと」

ゼロフォーは、大柄な体で肩をすくめながら答える。

よかった。即戦闘って事にはならなそうだ。


しかし、トップか。

組織的に動いているような気はしていたけど、結構しっかりしてそうだなこれ。


「解放?」

「ああ、ご立派だよな。俺にはそんな気は無いが」

「じゃあ、お前は何のためにやってるんだよ。そのトップってやつへの忠誠か?」

「忠誠?いや、そういうのは全く無いな」


ゼロフォーは一呼吸置き、言葉を発した。


「俺な、焼き肉が好きなんだよ」

「は!?」


……え?

今こいつなんて言った?焼肉?


思わず変な声が出てしまった。多分矢面もそんな声を出したんじゃないかと思う。


だって、え?焼肉?


「だから何なんですか」

あ、声にちょっと怒りがこもってる。

まあでも確かに、なんか馬鹿にされてる気がしないでもないしなあ。


「だから焼き肉を食べたいんだよ」

「食べればいいじゃないですか!!」

「でもほら、俺達は焼肉屋に入れないだろ?」

「だから何なんですか!お店に入らなくても別にいいじゃないですか!」


まあ、焼き肉好きだから人間滅ぼしますって言われても、なあ。

こうなるよなあ。


一方、俺は呆れるのと裏が無いかを探るので、喋ることまで頭が回らないでいる。


「わかってないな、小娘。焼肉屋でワイワイ言いながら食うのが美味いんだろうが」

鼻で笑うように言って矢面を煽っている。


いやに人間臭いこと言うなこいつ。

てか焼き肉屋行ったことあるのかよ。


「先輩、もういいです。こいつさっさと倒しましょう」

「いや、待て待て。変身しようとして構えた瞬間襲われんとも限らんし……」

怒りに満ちた後輩の声にビビりながら、相手に聞こえない程度の声で諫める。


何とも間抜けな問答が繰り広げられているが、ここでの出方次第では死にかねないので気は抜けない。


無駄死には不本意。

自分ルールにも反するしな。


「じゃあもうヒールと人間で和睦、とかはできないもんかな?そしたら肩身も狭くなくなるし、お前も焼き肉屋に行ける。ヒールが人間を襲わないなら、俺達も戦う理由は無い」

ダメ元で仲直りを提案。

まあそう上手くいかないから争いが絶えないんだけどさ。


大して期待もしていない、時間稼ぎのための思い付きだった。


…のだが、しかし。

この言葉は思っていた以上の効果をもたらした。


「…………は?」


主に悪い方向に!



「なんでそれが出来ないと思って……そもそもお前らが……」


ゼロフォーが、初めてはっきりと怒りを示した。

前回会った時は終始冷静で穏やかだっただけに、只事では無いことがわかる。


見えるはずのないオーラのような物が、体中のトゲから立ち昇っている、ような気がする。


これはまずい。

何があいつを怒らせたのかわからないが、軽はずみな発言だったか。


後悔してももう遅い。

矢面と二人で臨戦態勢に入る。


「変しっ……」

隣で矢面が腕を構えた途端、その小柄な体躯が後ろに吹き飛んだ。


前方には腕を突き出したゼロフォー。

その体は、淡く発光している。


不意に、前回のことを思い出す。

倒したと思ったのに、まだ生きていたゼロフォー。

あの時に覚えた、あの悪寒が蘇ってきた。


おいおい、マジかよ。


矢面の無事を確かめるべく目をやると、かすかに動いているのが確認できた。

とりあえず、生きてはいるか。


しかし俺の命も危ない。

変身していないヒーロイドはまるで無防備だ。


多少改造されているとはいえ、変身せずにヒールと戦って無事でいられるほどタフじゃない。


もし変身できても、いつも使ってる剣も銃も持っていない。

蚊を追いかけるために急いで出てきたから、置きっぱなしだ。


万策尽きたかと思ったその時。


ゼロフォーは静かに腕を下ろし、その巨躯を覆っていた光も消えた。


「いや、そういえばお前は新人なんだったか。何も知らない訳か。小娘にも、悪いことをした」

やけに力の抜けた声。


なんだよ、それ。

何も知らない?


なんで、そんなに悲しそうな目をするんだ。


「じゃあ、お前は何を知ってるんだよ」

「知ってるさ。色々な。俺達のことも、お前たちのことも……」

「……?」


言っている意味が分からない。

こいつは、何を知っている?

何があった?


ヒールとヒーロイドの間に、一体何が……。


俺がもう一度言葉を発しようとした、その瞬間。


「変身!!」


聞きなれない男の声が響いた。


声がしたのは、上。


しかし、それに気付いた時には、すでに声の主は目の前にいた。


空から、降ってきた?


体から赤い光を放つその後ろ姿。


そいつはゼロフォーに向かって叫んだ。


「見つけたぞ……トゲ野郎!!」

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