第16話 盛高の心変わり

 次の日、メガソフトの警備管理室に直行した柿坂は、盛高が約束したウィルスの分析結果を夕方まで待った。盛高からは何も言ってこなかった。仕方なく柿坂の方から社長室へ行った。

「結果は出ましたか?」

「もちろん出ている」

「それなら、ワクチンは、もう?」

 盛高は立ち上がって柿坂に背を向け、片足の爪先で床をトントンと叩いた。

「今、うちは新製品の開発で忙しい。プログラマーは全員それにかかり切りだ」

「しかし、メガソフト以外にワクチンを作れるのは…」

「今回の新製品には社運がかかっている。足枷ひとつのために、会社を潰すわけにはいくまい。だからこそおたくに警備を依頼しているんだ」

「それはそうですが…」

「そう言う君の方は今まで何をやっていたんだ?」

「はあ…」

「ワクチンの事は全てこちらにまかせ切りで、まさか結果をのんびり待っていたなんて言わないでくれよ」

「穴を塞いでいました。しかしワクチンの方は私たちではどうしようも…」

「それでこちらに下駄をあずけたのか? 気楽なもんだな」

「そちらのプログラマーの時間はそんなに取らせません。フロイドでさえ数週間で作った計算になるわけですから、ワクチンも同じ程度の時間があれば…」

 盛高はふいに振り向いた。

「フロイドが作ったのではない。コピーだよ。アンダーグラウンドのアーカイブからコピーしたんだ」

 盛高の苦々しい表情を見た柿坂は、盛高がワクチンを作りたがらない理由がわかった。作りたくないのではなく、作れないのだ。裏の世界のハッカーが作ったウィルスには、メガソフトといえども手も足も出ないらしい。盛高はそれを認めたくないから、さっきからイライラしていたにちがいない。

「だから時間がかかる」

 と盛高は、とって付けたように言った。

 警備管理室に戻った柿坂は、一度は席に着いたものの、すぐに立ち上がって部屋の中を歩き回った。

 メガソフトでも作れないワクチンなど、どうやってつくればいいのか。考えもつかなかった。

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