第12話 ゲームスタート

 その日、システムを総点検すると、メガソフトの保管庫を警備するコンピュータの中から、フロイドのメッセージが出てきた。


『盛高社長および警備スタッフ諸君へ


そろそろゲームを始めよう。足枷を作った奴隷の命日、七月二十六日がゴールだ。 フロイド』


「これはまずいですよ。保管庫の警備システムに入られたとなると、フロイドは、別の穴を見つけた可能性が高いですね」 

 技術の島田はそう言った。

「そうなのか? いまのところ被害は?」と柿坂。

「監査ログが書き替えられているのではっきりしません。パスワードは全て盗まれていると考えた方がいいでしょう」

「全てというと?」

「少なくとも、保管庫の扉のパス、あと、保管庫のコンピュータはメガソフトのメインシステムとも繋がってますから、メガソフトのビルの全ての扉のパス、あとは管理者用のパスなんかもやられていると思います」

「警報は?」

「鳴らないでしょうね」

 柿坂は唸った。

 今、フロイドは、メガソフトの正面玄関から保管庫に歩いて入り、ノーチェックで足枷を持ち去れるということだ。唯一の頼みは、警備管理室に詰めている警備員だけということになる。

「パスワードを変更してもだめなのか?」

 島田は意外そうな顔をした。柿坂がこんなことを言い出すとは、思ってもいなかったのだろう。

「穴が開いている限り、パスはつつ抜けですよ。変えれば変えたものをすぐに持って行かれる」

「どうしても塞がなきゃだめってことか…」

「それに…、ひとつ見つかった、いや、実際は盛高社長の穴も含めて二つ見つかった、ということは、三つ目、四つ目もあるかもしれない」

「コンピュータセキュリティに完全はない…か」

 島田はまた意外そうな顔をした。

 柿坂は続けた。

「いつごろまでにできる?」

「さあ、やってみないことには…」

 島田は言葉を濁した。

「いつもそうやって、煙に巻くなよ」

「プログラミングっていうのは、そういうものなんですよ」

「だけど、フロイドが言ってきた七月二十六日まで、あと三週間しかないんだ。システムの穴を洗い出して、塞ぐのに、正直な話、どのくらいかかるんだ?」

「本当に大まかな推測ですよ?」

「それでいい」

「早くて三か月、遅くて半年」

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