第10話 野際部長代理

 次の日の朝、柿坂は、太地の異動が発表になっているの見て驚いた。

 社内には噂が回っていた。太地の態度に腹を立てたメガソフトの社長が、SOD警備の社長に直接、太地の異動を求めて来たらしかった。

 もし本当なら、内政干渉もいいところだ。そう思った柿坂は、事の真偽を確かめに人事部に飛んで行った。

「いや、それはちがう。太地君の異動は前々から役員の間で出ていた案件のひとつでね。『全社IT化』の一環ともいうべきかな。太地君は、君以上にコンピュータ音痴だからね」

 人事部長は言った。

「しかし、今メガソフトの仕事の真っ最中ですし、ここで新任の部長に引き継ぐとなると、ややこしいことに」

「そのメガソフトが担当部長を変えろと言ってきているんだから、仕方ないだろう」

 やはりそれがあったのだ。

 人事部長は続けた。

「…あと、新任の部長だがね、当分の間、野際君に代理としてやってもらうことになったよ」

「野際ですか!」

 柿坂はしばらく何も考えられなかった。

 人事部長は満足げに笑った。

「彼は、メガソフトとは相性が良さそうだからね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る