第33話 どこへ
「サラマンダーの姿が消えていく!?」
人魚の茶店では、事件が起こっていた。
「私の姿が消えるということは、セイカに何かあったに違いないわ!?」
そういうと火の精霊サラマンダーの姿が消えていった。
「いったい何があったんだ!?」
ちょうど人魚の茶店に居合わせた雷花は、状況が理解できずに戸惑っている。
「サラマンダーがいなくなったら、誰がマーメイド・ティーに下剤をいれるんだ!?」
人魚は、神秘のマーメイド・ティーの売り上げが落ちることを心配した。
「サンダーバード。おまえだ。」
「ええー!? 私ですか!?」
雷の精霊は、マーメイド・ティーの製造を任された。
「私はウエイトレスをやればいいのね。」
「よろしくね~。」
イナリも人魚の茶店でアルバイトをすることになった。
「あ、カロヤカさん、おかえり。」
「・・・・・・。」
そこにカロヤカさんが帰ってきた。
「どうしたの? 暗い顔をして。」
カロヤカさんの顔に、いつもの笑顔はなかった。
「ミナモちゃんが殺された。」
「え?」
イナリは、カロヤカさんが何を言っているのか理解できなかったのでキョトンとしている。
「海賊の砦に行ったら、ミナモちゃんが倒れていて、息をしていなくて・・・ウオオオオオオオー!!!」
感情の起伏が抑えられないカロヤカさんは、いきなり大声をあげて泣き出した。
「zzz。」
カロヤカさんは泣き疲れて、横になって眠っている。
「カロヤカさん、よっぽどショックだったんだね。」
「そりゃそうよ。話を聞いた私たちも、未だに信じられないんだから。」
人魚と雷花は、水花の死を受け入れられない。
「でも、もし水花が生きていたら、カロヤカさんがお墓に埋めてきたから、土の中で窒息死していたりして?」
「そうね。あり得る話だわ。カロヤカさんも、そそっかしいから。」
誰もが、その場を和ませようと明るく振る舞う。
「ミナモをやった奴を絶対に許さない! 私の雷で真っ黒焦げにしてやる!」
雷花は、友達の仇を討つことを誓う。
「そういえば、セイカの姿が見えないわね。」
「セイカは、お客さんの後を追って出ていったきり帰ってこないわね。アルバイト代は絶対に払いません!」
人魚は、仕事に対する姿勢はストイックである。
「カロヤカさんは眠らしてやってくれ。よっぽどショックだったんだろうな。」
「そうね。いつも友達を大切にしているカロヤカさんだけに、仲間を失ったことは一番傷ついているはずだわ。」
「ミナモ・・・ちゃん・・・。」
カロヤカさんは、今も涙を流しながら眠っている。
「私はセイカと合流して、ミナモを倒した奴を探すよ。」
「頼んだわ。イナリ。チホとフウコも帰ってきたら、応援に向かわせるから。」
カロヤカさんの仲間たちは、鬼と妖怪と鬼神と人間が仲良く暮らせる世界を作るために、日々、邪な人間の駆逐を行っている。
「カロヤカさん、行ってきます。私は生きて帰って来るから大丈夫だよ。」
雷花は、眠っているカロヤカさんに声をかけて出かけていった。
「キャアアアアアアー!!!」
雷花の悲鳴が周囲に響き渡る。
「セ・・・イカ・・・セイカ!? セイカー!?」
雷花は、バラバラに引き裂かれた火花を見つけてしまった。
「誰がいったい!? こんな酷いことを!?」
雷花は、悲惨な光景に腰が抜けてしまい動くことができなかった。
「私よ。」
そこに黒い妖精ヘルが現れる。
「な、何者だ!? 黒い妖精!?」
「私の名前はヘル。この姿は仮の姿よ。オッホッホー!」
「なんだ!? こいつから感じるプレッシャーは!?」
雷花は、黒い妖精にただならぬ気配を感じていた。
「うちの子がバラバラにして殺しちゃったものだから、私の国に連れていくのに手間がかかるのよね。」
「バラバラにした!? セイカを殺したのは、おまえか!?」
「人の言葉をちゃんと聞いているの? この娘をバラバラ死体にしたのは、私じゃない。うちの子だって。」
確かに火花を殺したのは、ヘルではない。黒花である。
「ゆ、許さないぞ! 友達を返せ。セイカを返せー!」
雷花の怒りが爆発する。
「いでよ! 雷の精霊サンダーバードの鎧・忍び装束! 装着!」
雷花に雷の精霊の鎧が身に着いていく。
「セイカの敵討ちは、イナリにお任せあれ!」
雷花の戦闘態勢が整った。
「いいでしょう。うちの子もいないし、少しだけ本気を出して戦ってあげましょう。オッホッホ。」
「なめやがって!?」
ヘルは、不気味だが珍しく自身で戦うつもりだった。
「あなたは私に攻撃を与えることなく、苦悩にもがき苦しんで死んでいくのよ。オッホッホー!」
「それはどうかな! おまえなんか一撃で真っ黒焦げにしてやる! 忍法! 雷遁の術! 雷ゴロゴロ!」
雷花の雷が、黒い妖精に降り注ごうとしている。
「ニヤッ。」
黒い妖精は、ニヤリと不気味に笑う。
「な、なに!?」
雷花は、何かを見たのか、ヘルに向かっていた雷を消してしまった。
「セイカ!?」
死んだはずの火花の体が、ヘルの体の前に現れる。
「忍法、黒妖精遁の術、死者の人形。」
ヘルは、バラバラだった火花の体を一つにつなぎ合わせ、死者の体を人形のように操っている。
「イナリ・・・ちゃん。」
その時、死んだはずの火花が言葉を喋った。
「セイカ!?」
理解できない展開に戸惑うイナリ。
「イナリちゃん・・・死んでちょうだい!」
死人の火花が動き出し、忍術を唱える。
「忍法! 火遁の術! サラマンダー!」
火花が火の精霊を呼び出して、イナリを襲わせる。
「キャアー!?」
イナリは、間一髪のところで火蜥蜴をかわす。
「やめろ! セイカ! 私が分からないのか!?」
「イナリ。」
「そうだ。私だ。セイカ! いったい何があったんだ!?」
「死ね!」
火花は、再び雷花を攻撃する。
「オッホッホー! お友達同士が殺しあう姿って、滑稽ね。こんなに面白いショーは他にないわ! オッホッホー!」
ヘルは笑いが止まらない。
「お、おまえが火花を殺したのか!? おまえ、ただの黒い妖精じゃないな!?」
「その通り。私は、死者の国を支配する魔女だ。」
「死者の国を支配する魔女!?」
ヘルは、雷花に自己紹介する。
「そうよ。あなたは私に傷一つ負わすこともできないで、死人の友達に殺されるがいい! オッホッホー!」
操られている火花が雷花に襲い掛かる。
「やめて!? セイカ!?」
「私のために死んでちょうだい!」
雷花の声は、火花には届かない。
「先に、おまえを倒せば、セイカも助けられる!」
雷花は、刀を構えて、ヘルに突進していく。
「しまった!?」
ヘルは、雷花の特攻に意表を突かれた。
「光れ! 雷光! 響け! 雷鳴! 電光石火! 私の花! 必殺! 雷のヒガンバナ! 花雷斬り!」
雷花は躊躇なく、ヘルの間合いに入っていく。
「なんちゃって。あなたは絶対に私に傷一つ付けられない。」
ヘルは、かわそうとも避けようともしない。
「キャアー!? 助けてー! イバラちゃん! 殺されちゃう!」
ヘルは、高圧的な態度を止めて、急に可愛げぶった。
「私の家族を傷つけようとする者は、何人たりとも許さない。」
雷花の速度よりも早く、颯爽と黒花が現れた。
「ギャア!?」
次の瞬間、雷花の頭が、黒花の刀で首を切断された。
「大丈夫だった? ヘル。」
「助けてくれてありがとう。イバラちゃん!」
「いいのよ。だって私たちは家族じゃない。ニコッ。」
「私もイバラちゃんと家族になれて嬉しいわ。ニコッ。」
こうやって黒花と黒い妖精の家族の絆は深く結びついていく。
「素晴らしき家族愛。ウルウル。ガル。」
黒い犬は、黒花と黒い妖精の家族愛に感動して、もらい泣きする。
「イバラちゃん、人間はやめて、今度は、鬼と妖怪と鬼神のどれかを倒しに行かない?」
「ヘルが望むなら、私は何でもいいよ。」
「悪い奴らをいっぱい斬って、家族を失う悲しむ人を減らそうね。」
「おお!」
黒花は、家族を失って悲しい思いをする人が出ないために、悪者を倒している感覚である。
つづく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。