第32話 気になる

「ルンルルン~。」

 カロヤカさんは、人魚の茶店でアルバイトをしている。

「ただいま、カロヤカさん。」

「セイカちゃん、おかえり。」

 人魚の茶店に火花が帰ってきた。

「あれ? ミナモは?」

「海賊退治に出かけてから帰ってきていないのよね。確かに遅いわね。」

「ミナモは、おっとりしてるから、一人で海賊を壊滅できるかな? 逆にやられていたりして?」

「こらー! 不吉なことは言っちゃあダメでしょ。」

「ごめんごめん。」

「でも、今頃、身包み剥がされて、海賊さんの奴隷にされていたりして!?」

「おいおい。」

 カロヤカさんも火花も水花のイメージは変わらなかった。

「心配だわ。私、ちょっと様子を見に行ってくる。」

 カロヤカさんは、妖精と小人をお供にして、海賊の砦に向かって行った。


「いらっしゃいませ。どうぞ。好きな席にご自由にお座りください。」

 火花は、カロヤカさんの代わりに人魚の茶店でアルバイトすることになった。

「ご注文は何にしますか?」

 席に座った客に火花が聞く。

「あのカロヤカさんはいますか?」

 やってきたのは、黒花だ。

「カロヤカさん?」

「はい。私、カロヤカさんの友達なんです。」

 黒花は、人生で初めてできた友達のカロヤカさんのことが大好きである。

「ああ~そうなんだ。残念。ついさっきカロヤカさんは、他の友達が心配だからって様子を見に行っちゃった。」

「そうなんですか。」

 ガッカリする黒花。

「注文は何にしますか?」

「マーメイド・ティーを3つ。」

「はい。かしこまりました。」

 火花は、厨房に注文を告げに行く。

「カロヤカさん、いないんだ。せっかく、友達の私が遊びに来たのに。」

 黒花は、大好きなカロヤカさんがいなくて、がっかりする。


「ミナモちゃん!? ミナモちゃーん!?」

 カロヤカさんは、倒れている水花を見つける。

「ミナモちゃん!? ミナモー!?」

 カロヤカさんは、水花を抱きしめるも、水花は返事をしない。

「ミナモちゃんー!!! イヤー!!!」

 カロヤカさんの目から涙が洪水のように溢れてくる。

「いったい誰が、こんな酷いことを!?」

 水花は、もう息をしていない。

「ミナモちゃんの仇は、私が必ず取るからね!」

 カロヤカさんの心に悲しみの次に、怒りの感情が生まれる。

「絶対の絶対だからね! 私に任せて。」

 カロヤカさんは、水花の敵討ちを誓う。


「ごちそうさまでした。」

 黒花が人魚の茶店を出ていこうとした。

「ありがとうございました。」

 火花は、お客様の黒花にお礼を言う。

「それにしても、さっきの海賊の砦で後ろから刺殺した女の子は弱かったわね。」

 黒花のお友達、黒い妖精のヘルが、恐らく火花に聞こえるように言葉を呟き去って行く。

「え?」

 火花は、ヘルの悪魔のささやきを聞いてしまった。

「ちょ、ちょっと待って!?」

 火花は、黒花たちの後を追いかける。


「ミナモちゃん、安らかに眠れ。」

 カロヤカさんは、水花を土に埋めて、お墓を作った。

「お願いだから、化けて出ないでね。」

 カロヤカさんは、お化けが苦手だった。

「でも、いったい誰がミナモちゃんを殺したんだろう?」

 カロヤカさんには疑問があった。

「海賊は、ミナモちゃんが全員、倒していると思われるし、海賊たちの他に誰かいたのだろうか?」

 カロヤカさんには、まさか黒花が犯人だとは思いもよらなかった。


「ちょっと待ってー!」

 火花が黒花たちに追いついた。

「何か?」

「さっき、海賊の砦で女の子を刺したって言わなかったか?」

「言ったのは、私よ。それが何か?」

 ヘルが火花に言い放つ。

「ま、まさか殺してなんかないよな?」

 明らかに動揺する火花。

「殺したわ。」

「な、何!?」

「だって、私たち家族のお昼寝を邪魔したんですもの。死んで当然でしょ。オッホッホー!」

 場の空気を考えないで高笑いするヘル。

「ミ、ミナモを、ミナモを殺したな! よくもミナモを殺したなー!!!」

 火花の怒りの炎が点火される。

「火の精霊サラマンダーの鎧・忍び装束! 装着!」

 火花は、火の精霊の鎧を身に着ける。

「セイカにお任せあれ!」

 火花の戦闘態勢が整った。

「私の家族に手を出す者は何人たりとも許さない。」

 黒花は、水花に敵意を感じる。

「なにをー!? 先に私の友達を殺したのは、おまえたちだろうが!」

 火花の怒りの感情が込み上げてくる。

「待って、イバラちゃん。」

 戦おうとする黒花をヘルが止める。

「毎回、イバラちゃんが戦う必要はないわ。あんな小娘なんか、ハウンドだけで十分よ。」

「がんばります! ガル!」

 黒い犬は戦う気が満々である。

「誰が相手でも同じだ! 私が全員まとめて焼き尽くしてやる!」

 火花は、怒りを抑えることができない。

「イバラちゃん。僕は、家族のために戦います。ガル。」

「ハウンド、無理はしないでね。」

「優しいですね。僕は、イバラちゃんの家族になることができて、幸せです。ガル。」

「ありがとう。ハウンド。」

 黒花も黒い犬も、お互いに家族になれて幸せだった。

「さあ! いってらっしゃい! ハウンド!」

「はい! ヘル様!」

 黒い犬は、黒い妖精には絶対に服従である。

「いきますよ! お嬢さん!」

「こい! お前みたいな子犬に、私がやられる訳がないだろうがー!」

 火花と黒い犬の戦いが始まった。

「忍法! 黒犬遁の術! ワンワン巨大化!」

 ハウンドの体が大きくなった。

「体が大きくなった!? この化け犬め!? 私をなめるなよ! 忍法! 火遁の術! 打ち上げ花火!」

 火花の手元からロケットミサイルの様に、黒い犬を目掛けて飛んでいく。

「そんなもの! 引き裂いてくれる! ヘルハウンド・クロー!」

 黒い犬は、打ち上げ花火を巨大化した爪で切り裂く。

「ギャア!? うわあー!?」

 バンバンバン!!! 黒い犬の爪で切り裂かれた打ち上げ花火が爆発した。

「アチチチチー!?」

 黒い犬が花火の爆発で火傷をして、地面でのたうち回っている。

「ハウンド!?」

 黒花は、痛そうに苦しんでいる黒い犬を心配する。

「チャンス! もらった!」

 火花は、鞘から刀を抜き必殺の一撃を放とうとする。

「燃えろ! 烈火! 踊れ! 灼熱! 活火激発! 私の花! 必殺! 炎のチューリップ! 火花斬り!」

「だ、ダメだ!? こ、殺される!?」

 黒い犬は、迫りくる炎の斬撃に、直感的に死を覚悟した。

「ギャア!? な・・・なんだと!?」  

 火花の体を黒い刀が貫いている。

「私の家族は傷つけさせない。私は何があっても家族を守り抜く。」 

 一度、本当の家族を失った黒花の直線的な行動原理が発動した。

「忍法! 黒遁! 黒イバラの術!」

 黒い棘棘のバラの茎が火花に巻き付いていく。

「ギャア!? なんだ!? やめろ!? やめてくれ!?」

 命乞いをする火花。

「命乞いをするくらいなら、私の家族を傷つけなければ良かったのに。」

「ギャア!?」

 巻き付いた黒いバラの茎が火花を締め上げてバラバラに引き裂く。

「大丈夫? ハウンド。」

「大丈夫ですよ。軽い火傷ですから。ガル。」

「ダメよ。私の保険で病院へ行きましょう。」

「ありがとうございます。イバラちゃん。ガル。」

「何を言っているのよ。私たちは家族なんだから。」

 黒花は、黒い犬のハウンドを、ペットではなく、家族として大切に接している。

「フッフッフ、フがいっぱい。思った通りの行動だわ。私やハウンドが窮地になればなるほど、イバラは強くなる。そうすれば、死者の数は増えて、私の死者の国ヘルハイムの奴隷の数は増えて、ますます大きくなり、強固な国が完成するわ。オッホッホー!」

 ヘルの本心を黒花は何も知らない。

 つづく。

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