第31話 出会う

「ルンルルン~。」

 カロヤカさんは、人間と鬼と妖怪と鬼神が仲良く暮らせる世界を作るために日々、人魚の茶店でアルバイトをしている。

「いらっしゃいませ。2名様ですね。こちらの席をどうぞ。」

 茶店には、いろいろなお客さんがやってくるので、世間の情報や噂話は何でも入ってくる。

「隣の町の桔梗屋さんで、卵が100円ですって。」

「あれ、そうなの!? 買いに行かなくっちゃ。」

 情報を集めるには、もってこいの場所だった。

「そうそう、聞きました? 例の黒いあれ。」

「あれでしょ、黒いあれ。人間と鬼と妖怪と鬼神を関係なく皆殺しにする「殺し屋」の話でしょ。」

 ピクッと、お客の話を盗み聞きしているカロヤカさんが「殺し屋」という言葉に反応する。

「何でも、殺し屋は一人の女の子らしいわよ。」

「ええー!? 女の子一人!? でも、私は3人組だって聞きましたよ!?」

「違うわよ。正確には、女の子一人と、呪われた人形と獰猛な狼らしいですわよ。」

「そうなんですか!? 怖いですね。」

 世間では、黒い殺し屋が話題だった。

「そんなものいる訳ないじゃない。噂話って、嫌ね。」

 カロヤカさんは、3人組の殺し屋の話を聞き流した。

「ちょっと、かろやかさん。真面目に仕事をしないと、アルバイト代を出さないわよ。」

「頑張って働きます!」

 サボりのカロヤカさんは、人魚に注意される。

「すいません。席は空いてますか? お茶を飲みたいのですが?」

 新しい女の子のお客さんがやってきた。

「何人様ですか?」

「1名です。」

 女の子一人は、可愛い犬と妖精を連れていた。

「どうぞ、こちらの席が空いてますよ。」

「ありがとう。」

 妖精と小人とお友達のカロヤカさんには、妖精と犬は普通に違和感なく認識していた。

「何になさいますか?」

「マーメイド・ティーを3つ。」

「え? 1つでもお腹には効果が十分ありますよ?」

「私の家族も喉が渇いているので、飲ましてあげたいんです。」

「ああ~、妖精さんとお犬さんですね。」

 その時、女の子の表情が驚きに変わる。

「あなた!? 妖精さんを知っているの!?」

「はい。私も妖精さんと小人さんと友達ですから。ニコッ。」

「すごい! 私は初めて見たわ! 私と同じような人!」

「そうなんですね。私の友達には、いろいろな生き物を飼っている人がいますよ。」

「そうなんだ。知らなかった。私だけだと今まで思っていた。私と同じように、新しい家族を持っている人たちがいたなんて。」

 カロヤカさんと女の子は、和やかな雰囲気が流れる。

「私は、夢花カロヤカ。友達の妖精さんのフェアフェア。厨房でマーメイド・ティーを作っているわ。あと、小人さんは人魚の湖で、刀作りに飽きて、からくりロボットを作っているわ。」

 カロヤカさんは、自己紹介をする。


「クスン。誰か私の噂話をしているわね。」

 妖精は、人魚の茶店の厨房で、下剤をお茶に調合していた。


「からくりロボなんか作って、ロボで戦うような敵が現れるんだろうか?」

 小人は、ほぼ、からくりロボットの製作を終えていた。


 再び人魚の茶店に戻る。

「黒花イバラ。あなたたち、カロヤカさんに挨拶しなさい。」

「ヘルです。」

「ハウンドです。ガル。」

 人目を気にして動かなかった、黒い妖精が動き、黒い犬も言葉を喋った。

「カワイイ妖精さんとお犬さんね。」

「か、カワイイ!?」

「カロヤカさん、ありがとうございます。」

 可愛いという聞きなれない言葉を言われて照れるヘルと喜ぶハウンド。

「ありがとう。私たちを理解してくれる人は、カロヤカさん、あなたが初めてよ。」

「そうなんだ。ねえねえ、私たち、友達になりましょう!」

「私なんかでいいの?」

「いいのよ。私は、イバラと友達になりたい!」

「うん。私、カロヤカさんと友達になる!」

「仲良くしようね。イバラちゃん。」

「よろしくお願いします。カロヤカさん。」

 カロヤカさんと黒花は、友達になった。

「遂にうちの子にも友達ができるなんて、ウルウル。」

「ヘル様、感動して泣かないでください。ガル。」

 死者の国の女王は、感動して涙を流している。

「カロヤカさん。あっはははー!」

「イバラちゃん。あっはははー!」

 カロヤカさんとイバラは、楽しい時間を過ごした。

「イバラちゃん。また遊ぼうね。」

「ありがとう。カロヤカさん。今日は楽しかったわ。」

「バイバイー!」

 イバラは、笑顔で手を振るカロヤカさんと別れて行った。

「イバラちゃんか、良い子だったな。ルンルルン~。」

 カロヤカさんは、黒花のことが好きになった。

「カロヤカさん、仕事をサボっていたので、今日のアルバイト代はあげません!」

 人魚は、カロヤカさんが遊んでいたのをジーッと見ていた。

「そんな!? 不当労働だ! 訴えてやる!」

 カロヤカさんは、自分が悪いことは分かっているので、何も言い返せない。


「カロヤカさんか、まるでお花畑のようにきれいで明るい女の子だったな。」

 黒花は、カロヤカさんのことを思い出して笑っていた。

「こんなに笑っているイバラちゃんは、初めて見ましたガル。」

 ハウンドは、黒花が笑っているのを見て嬉しかった。

「イバラちゃん、カロヤカさんのことが好きなのね。」

「うん。私の初めてできた友達だもん。」

「良かったわね。きっと直ぐに会えるわよ。」

 ヘルは、黒花に見えない角度で笑う。

「直ぐにね。ケッケッケッケ。」

 その言葉の意味を黒花は、まだ知らない。


「ねえねえ、ウンディーネ。この辺りに海賊の砦があるのよね。」

「はいそうです。でも良かったんですか? みなもちゃん。」

 水花みなもと水の精霊ウンディーネが、悪い海賊がいるという海賊の砦にやってきた。

「何が?」

「私たちだけで、海賊退治に来て? 誰か友達と一緒に来た方が良かったんじゃない? もしも、海賊が強かったら、どうしよう!?」

 水の精霊は、自分たちだけなのが不安だった。

「大丈夫よ! 私だって一人でも、ちゃんとできるってことを証明したいの!」

「気持ちは分かるけど、何事も安全第一よ。もしも人間の海賊だけじゃなくて、鬼と妖怪と鬼神がいたら厄介よ!?」

 この時、水花と水の精霊は知らなかった。

「なんとかなるわ。」

「だと、いいけど。」

 もっと厄介な者がいることを。


「水の精霊の鎧・忍び装束! 装着!」

 水花は、水の精霊を鎧に変えて変身していく。

「みなもに、お任せあれ!」

 水花は、刀を構えて必殺技を放つ。

「潤え! 純粋! 弾けろ! 撥水! 明鏡止水! 私の花! 必殺! 水のアイリス!」

「ギャア!?」

 水花の必殺の水の斬撃が海賊たちを吹き飛ばしていく。

「勝った! やったー! 私だけでも勝てた!」

 水花は、海賊に勝利して喜んだ。

「やったわね。みなもちゃん。じゃあ、こんな所には用がないから、さっさと帰りましょう。」

「そうね。」

 水花と水の精霊は、海賊の砦から帰ろうとした。

「ギャア!?」

 その時だった。水花の背後から刀が突き刺さった。

「な・・・なに!?」

 水花は、後ろを振り返った。

「私の家族の昼寝の邪魔をした者は許さない。」

 黒花が水花に黒い刀を突き刺していた。

「え・・・グワア・・・ゲフ。」

 水花は、地面に倒れこんだ。

「み・・・みんな・・・。」

 水花は、死んでしまった。

「さすが私のイバラちゃん。一撃で仕留めるとは、相変わらず見事な刀術ね。」

「ヘル様。これでまた、死者の国の死人奴隷が増えますね。ガル。」

 黒い妖精と黒い犬である。

「ごめんね。みんなの昼寝の邪魔をした悪い人間は殺したから、昼寝し直そうね。」

「それよりお腹が空いたから、ご飯を食べに行きましょうよ。」

「そうしましょう。ガル。」

「そうね。みんなで、ご飯を食べましょう。だって私たちは家族だもんね。」

「家族! 最高! 家族に乾杯!」

「ワッハッハー!」

 黒花は、水花を殺した。

 つづく。

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