第30話 イバラ

「お父さん・・・お母さん・・・。」

 オドロは、悲しい夢を見ている。

「イバラ・・・イバラちゃん・・・。」

 誰かが夢の中にいるオドロを呼んでいる。

「う・・・ううん。」

 オドロは目を覚ます。

「おはよう。イバラ。」

「ガル。」

 オドロの目の前には、小さな女の子の喋る人形みたいなのと、黒いカワイイ子犬がいた。

「あなたたちは?」

「私たちは、あなたの新しい家族よ。」

「ガル。」

「新しい家族?」

「鬼と妖怪と鬼神と、人間たちに両親を殺された子供には、神様が新しい家族を与えてくれるんだよ。」

 しれっと嘘を吐くヘル。

「あなたたちが、私の新しい家族?」

「そうだよ。私たちが、イバラの新しい家族だよ。」

「ガル。」

「えっと、私の名前は、オドロだよ?」

「新しい家族ができると、名前も変わるんだよ。」

 また嘘を吐くヘル。

「そうなんだ。知らなかった。」

「そりゃあそうさ。初めてのことなんだもの。知っていたらおかしいだろ。」

「そうだね。」

 イバラは、嘘とは知らずにエヘの言うことを信じてしまう。

「おまえは今日から、黒花イバラだ。」

「私は、イバラ。」

「そう、イバラちゃんだ。キャッホー!」

「ガルルルル!」

 こうして、イバラは誕生した。

「私の名前は、黒い妖精のヘル。」

 正確には、死者の国を支配する魔女である。

「ガル。」

「こいつは、私のペットのかわいいワンちゃんの、へルハウンドよ。」

 正確には、黒い犬である。

「私たちが、イバラ、あなたの新しい家族よ!」

「ヘル! ヘルハウンド! 私の新しい家族!」

 イバラは、寂しい気持ちが吹き飛び、新しい家族が出来て嬉しかったので笑顔になって。

「よろしくね! ヘル! ヘルハウンド!」

「こちらこそ、よろしくね! 私のイバラちゃん!」

「ガルー!」

 イバラたちは、抱き合って喜び合った。

「私は、一人じゃないんだ! 私には、新しい家族が出来たんだ!」

 イバラは、寂しくなくなった。

「強くなる! 私は強くなるんだ! 今度は自分の家族を失わないように!」

 イバラは強くなることを誓うのであった。

「キュイン!」

 イバラが強くなろうと思えば思うほど、イバラの周囲に黒い炎のような、黒いオーラが、イバラを包んでいくのであった。


「そこの! お嬢ちゃん! おじさんたちと遊ばない。へっへっへ。」

「俺たちは泣く子も黙る山賊様だ!」

「こんな山の中を一人で歩くなんて無理だよ。危ないから、おじさんたちが助けてあげよう。ケッケッケ。」

 イバラは、山の道を進んでいた。

「一人じゃないもん。私には、ヘルとハウンドがいるもの。」

 イバラは、新しい家族の黒い妖精の人形ヘルと黒い犬のヘルハウンドと一緒だった。

「なんだなんだ? この汚い人形は。」

「誰が汚い人形よ!?」

「うわあー!? 人形が喋った!?」

「ヘル様は黒い妖精ですよ。ガル。」

「うわあー!? 犬まで喋った!?」

「こ、こいつらは、化け物だ!? 化け物に違いない!?」

 慌てふためく山賊たちは、斧などの武器を取り戦闘態勢に入ろうとする。

「私の家族は化け物じゃない! 私の家族を侮辱するな! 私の家族は傷つけさせない! 私の家族は、私が守る!」

 イバラが刀を構えて攻撃を始める。

「味わえ! 絶望! 飲み込まれろ! 悲しみ! 暗黒時代! 私の花! 必殺! 黒のブラック・ローズ!」

 黒い斬撃が山賊たちを襲う。

「ギャアー!?」

「なんだ!? 強い!? 強いぞ!? あれが子供かよ!?」

「あの小娘も化け物に違いない!? 普通じゃないぞ!?」

 山賊たちは、次々と黒い斬撃に倒されていく。

「私の家族をバカにする連中は、私が斬り捨てる! 私は2度と家族を失わない! 絶対に! 絶対に! 私の家族を守るんだー!」

 子供ながらにイバラが強いのは、家族を失いたくないという気持ちが強いからである。

「グスン。泣かせるわ。我が子ながらイバラは、本当に家族思いの良い子に育ったわ。クスン。」

「ヘル様、涙が零れていますよ。」

 イバラの決心に思わずヘルはもらい泣きである。

「そいつは残念だ。なら、おまえたちを切り刻めば、あの化け物娘も、さぞ、喜ぶだろうよ! ケッケッケ!」

 山賊がヘルとハウンドに襲い掛かろうとする。

「キャアー!? 助けてー! イバラちゃんー!」

 ヘルは、大きな悲鳴を上げる。

「はあ!?」

 イバラは、大声に気づきヘルの方へ振り返る。

「私の家族に手を出すなー!!!」

 イバラは、忍術の印を結ぶ。

「忍法! 黒遁! 黒イバラの術!」

 イバラから黒いバラの棘のある茎が伸びていく。

「ギャア!?」

 そのまま、山賊に巻き付いていき、一気に引き裂いた。

「私の家族は、私が守る。」

 一度、家族を失ったことのあるイバラは、全力で新しい家族を守る。

「ありがとう! イバラちゃん!」

「怖かったです。もう少しで殺されるかと思いました。ガル。」

「大丈夫。安心して。私は決めたの。何があっても、私の家族は守り抜くって。」 イバラは、新しい家族を安心させるために、力強く笑って見せる。

「なんだ? おまえたちは? はあ!? 俺の子分たちが!? いったい誰が、こんな酷いことを!?」

 山賊の親分が現れた。自分の子分たちが皆殺しにされているのを見て、悲しみながら怒る。

「私だよ。」

 イバラは、山賊の親分の問いかけに答える。 

「はあ!? おまえみたいな子供に大人を殺せるはずがないだろうが!?」

 山賊の親分は、イバラの言葉を信じない。

「本当よ。うちの子がやったのよ。ニヤッ。」

「イバラは強い、ガル。」

 その時、黒い妖精と黒い犬が人間の言葉を喋った。

「人形と犬が喋った!? なんだ!? こいつらは!? ば、化け物だ!?」

 山賊の親分は、自分たちが戦ってはいけない者と戦ってしまったと気付く。

「ヒイイイイー!? 許してくれ!? 命だけは取らないでくれ!?」

 怯える山賊の親分は、土下座をして命乞いをする。

「許してあげる。早く、消えて。」

 イバラは、あっさりと山賊の親分を許し、背中を向ける。

「所詮は、ガキだな! でやあー!」

 山賊の親分は手のひらを返し、背中を向けたイバラに後ろから襲い掛かる。

「いでよ。私の刀。絶望の刀と、悲しみの刀。」

 イバラは、黒い刀を二本出し、二刀流の構えに入る。

「死ねー! 化け物!」

「お父さん! 私に力を貸して! 黒い秘剣! 終わらない絶望と終わらない悲しみ!」

 イバラの亡くなった父親は侍であり、そのスキルをイバラは吸い取って自分のものへと吸収した。

「ギャア!? グワア!?」

 イバラは、二本の刀で背後から襲い掛かってくる山賊の親分を切り裂いた。 

「ありがとう。お父さん。」

 イバラは、父への感謝を忘れない。

「ありがとう。イバラちゃん。」

「大丈夫だった? ヘル、ハウンド。」

「大丈夫です。ガル。」

 イバラは、山賊たちを全滅させた。

「フッフッフ。イバラちゃんが、生きた人間をたくさん殺してくれれば、私の死者の国も大儲かりするって訳。楽しくて、笑いが止まらないわ。オッホッホー!」

「ヘル様、心の声が外に漏れてますよ。」

 ヘルの思惑通りに、イバラは成長していく。

「ヘルとハウンドは、私の大切な家族よ!」

「おお! イバラと私は家族だ!」

「どこまでも3人で行きましょうね! ガル!」

 本当のことは何も知らないで。

 つづく。

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