第29話 オドロ

「おはよう。お父さん。お母さん。」

「おはよう、オドロ。」

「オドロちゃん、ご飯にしましょうね。」

「やったー! ごはんー! ごはんー!」

 オドロは、ごく普通の幸せな家庭に生まれて、優しい両親と一緒に過ごしていた。

「でやあー! とやあー!」

 オドロの父親は、強い侍で剣術の稽古をしていた。

「忍法! バーベキューの術!」

 オドロの母親は、強い忍者で忍術で家族の食事を作っていた。

「お母さんの作るごはんはおいしいねー!」

「オドロ、顔にご飯粒がついてるよ。」

「エッヘヘヘヘー!」

 オドロは何不自由ない、楽しい暮らしを送っていました。


「キャアアアアアアー!!!」

 そんなオドロの平和な生活は、ある日、簡単に壊れてしまいました。

「子供の命を助けたければ、大人しくしろ!」

「金と食べ物を出せ!」

「ガオー!」

 オドロの家に鬼と妖怪と鬼神が攻め込んできた。

「助けてー!? お父さんー!? お母さんー!?」

「オドロー!?」

「娘だけは助けてください!? 娘だけは!?」

 オドロを人質に取られて、侍の父も忍者の母も抵抗することができなかった。

「グワア!?」

「キャア!?」

 オドロの両親は、オドロの目の前で鬼と妖怪と鬼神に無抵抗のまま殺されてしまった。

「お父さん!? お母さん!?」

 オドロには、何が起こっているのか理解できなかった。ただただ、瞳から涙が流れてくる。

「金と食べ物を探せ!」

「ガオー!」

 オドロは、拘束を解かれ、床に血を流して倒れている両親の元へ駆けつける。

「お父さん!? お母さん!?」

「オドロ・・・生きるんだ・・・ゲフッ。」

「嫌ー!? 私もお父さんとお母さんと一緒に死ぬ!?」

「オドロ・・・私のかわいい娘・・・ゲホッ。」

「お父さん!? お母さん!? 私を一人ボッチにしないで!?」

「私たちは・・・いつも・・・オドロの側にいるよ・・・ゲフゲフッ。」

「さあ・・・手を握って・・・私たちの力を愛する我が娘に・・・ゲホゲホッ。」

 オドロは、父親と母親の手をしっかりと握った。

「お父さんとお母さんが私の中に!?」

「お父さんとお母さんは、いつもオドロのことを見守っているからな。」

「生きて、生きて、幸せになりなさい。オドロ。」

 オドロは、両親の愛とスキルを受け継いだ。


「ゲハハハハー! 金と食べ物を手に入れたぞ!」

「これに娘も高く売れば、俺たちは億万長者だ!」

「ガオー!」

 鬼たちが家を物色して、オドロの元に戻ってきた。

「いたぞ! 娘だ!」

「なんだ? 刀を持っているぞ? 子供が俺たちと戦うつもりか?」

「ギャッハッハー!」

 オドロは、無言で亡き父親の刀を持っていた。

「ギャア!?」

 次の瞬間だった。あっという間に、オドロは、鬼の喉元に刀を突き刺し、首を跳ね飛ばした。

「お、鬼が斬られた!? く、黒い刀!?」

「ガオー!?」

 妖怪と鬼神は、小さな子供が黒い刀で、鬼を切り倒したので戸惑う。

「なんだ!? このガキは!? 黒で覆われてやがる!? 呪われている!?」

「ガオー!?」

 両親を殺されて泣き叫ぶわけでもなく、感情を無くし無表情となったオドロの体の周囲は、黒で覆われていた。

「金も食べ物も手に入ったんだ!? こんな不気味な所にいる理由はねえ!? ずらかるぞ!」

「ガオー!」

 妖怪と鬼神はオドロの家から逃げようとする。

「んん? なんだ? 黒いモノ? これは!? 忍術!? 黒い忍術だと!?」

「ガオー?」

 妖怪と鬼神の体に黒い影のような黒いバラの棘をもった茎がまとわりついていく。

「ギャア!?」

「ガオー!?」

 黒い影は妖怪と鬼神の体に巻き付き、そのまま引き裂いた。

「お父さん・・・お母さん・・・。」

 立ち尽くすオドロは、誰もいない家で一人きりになった。 


「zzz。」

 オドロは、力尽きて両親の死体や鬼と妖怪と鬼神の残骸を処理することなく、そのまま倒れて眠りについた。

「ガルルルル。ヘル様、人間が倒れています。」

 オドロの夢の中に、人間の言葉をしゃべる黒い犬が現れる。

「見つけた。私のお友達。」

 犬の飼い主と思われる女性もいた。

「よくやった。ハウンド。よしよしよしよし。」

「お褒めに頂き光栄です。ワン。」

 彼女は、犬の頭を撫でてあげる。

「死を司る者は多すぎる。この娘は黒か。いいね。私は好きだよ。どす黒い黒が!」

 彼女の名前は、ヘル。死者の国を支配する女神であった。

「今から、お前の名前は、黒花イバラだ。キャッハッハー!」

 オドロは、夢の中で、ヘルと偶然出会ってしまった。


 月日は流れた。

「おい! 娘! 俺たちについてこい!」

「人間様が、一緒に遊ぼうとおっしゃっている!」

「ガオー!」

 16才に成長したイバラの前に、鬼と妖怪と鬼神が現れる。

「ハウンド、いくわよ。」

「ガル!」

 イバラは、黒い犬ハウンドを飼っている。 

「がんばって! イバラ!」

「ありがとう! ヘル!」

 黒い犬の上に小さな妖精のような女の子ヘルが乗っている。

「いでよ! 黒い犬ヘルハウンドの鎧・忍び装束! 装着!」

 イバラは、黒い犬の鎧を身に着けていく。

「どこから鎧が!?」

「可愛いと思って優しくしてやれば、俺たちと戦おうっていうのか!?」

「ガオー!?」

 鬼と妖怪と鬼神たちがイバラに襲い掛かってくる。

「味わえ! 絶望! 飲み込まれろ! 悲しみ! 暗黒時代! 私の花! 必殺! 黒のブラック・ローズ!」

 イバラは、刀を鞘から抜き、黒い必殺の一撃を放つ。

「ギャア!?」

「フギャ!?」

「ガオー!?」

 一瞬でイバラの黒い斬撃は、鬼と妖怪と鬼神たちを切り裂いて倒した。

「きれいごとでは、何も守れない。正しくても弱くては何もできない。強くなければ意味がない。」

 子供の頃、両親を殺された時のイバラは、震えて何もできない弱い存在だったが、今のイバラには、過去の弱さは微塵もなかった。

「なんだー!? あの化け物は!?」

 鬼と妖怪と鬼神たちを陰から操っていた人間が近くに潜んでいた。

「せっかくカワイイと思っていたのに、あんな化け物は、鉄砲で撃って殺してやる!」

 人間は、銃を構えて、イバラを狙い撃ちしようとする。

「死ねー!」

 人間が銃の引き金を引く。

「あれ?」

 しかし、銃弾は放たれなかった。

「おまえ、私のおもちゃに何をしようとしているんだい?」

 ヘルが銃の上に乗っている。銃口はUの字に曲げられていた。

「人形が喋った!?」

 人間は、初めて喋る人間を見て驚いた。

「これをどうぞ。」

 ヘルは、人間に紙切れのようなものを渡す。

「どうも、ありがとうございます。」

 ついつい、手に出されたので人間は、ヘルから紙切れを受け取ってしまう。

「これはなんですか?」

 人間は、紙切れが何か分からないので、ヘルに尋ねる。

「死者の国へのチケットです。ニコッ。」

「そうですか。ありが・・・へ? 死者の国?」

 人間には、ヘルの言っている言葉の意味が分からなかった。

「ようこそ! 私の国へ!」

「ギャアー!?」

 人間は、チケットに吸い込まれて、死者の国ニブルヘイムこと、ヘルヘイムに旅立っていった。

「死しても、私の奴隷として、こき使ってやろう。ニタニタニタ。」

 ヘルは、死者を支配している。


「大丈夫だった? イバラ。」

「私は大丈夫。ヘルも大丈夫?」

「ガル。」

「ハウンドもありがとう。」

 イバラとヘルとハウンドは、勝利を分かち合う。

「あなたたちは、私の大切な家族よ。」

 イバラにとって、心を許せる家族は、死者の国の女神と黒い犬しかいないのであった。

「ニタニタニタ。」

 ヘルは、イバラに見えない角度で笑うのであった。

 つづく。

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