第34話 狙い

「ミナモちゃんが何者かに殺されて、セイカとイナリも帰ってこない!? いったい何がどうなっているのよ!?」

 人魚の茶店でカロヤカさんたちには戦慄が走っていた。

「いるんだ。私たちの知らない何か強大な敵が!?」

「強大な敵!?」

 カロヤカさんに任務を終えたチホとフウコが合流した。

「もしや!? 鬼と妖怪と鬼神たちが裏切って、私たちを襲っているんじゃ!?」

「それはないわ。だって私たちは仲間だもの。お友達になれたのよ。お友達を襲うはずがない。」

 カロヤカさんは、仲良くなった鬼と妖怪と鬼神たちを信じている。

「みんなで手分けして、鬼と妖怪と鬼神の頭目たちに会いに行って、事情を話して援軍を頼みましょう。」

「おお!」

 カロヤカさんは、鬼と妖怪と鬼神たちに助けを求めようとする。

「私は義理のお母様の所へ行くわ。チホは、大嶽丸さんの所へ。」

「分かったわ。」

「フウコは、酒吞童子の所へ行ってちょうだい。」

「ええー!? 行きたくないな。」

「みんな、必ず生きて、また会おう!」

「おお!」

 カロヤカさんたちは、三手に分かれて行動することにした。


「ねえねえ、ヘル。」

「なに? イバラちゃん。」

「鬼神はどこにいるの?」

「神社とか富士山とか、霊感の強いスポットにいると思うわ。だって、思いがあるから成仏して死者の国に行かないで、現世で鬼神に化けて出てるんだもの。」

「それで僕たちは、富士山を登っているんですね。」

「そういうこと。」

 黒花たちは、強い鬼神に出会うために富士山に登っていた。

「ああー! 空気が美味しい!」

「眺めがきれい! 海が見えるよ!」

「家族で山登りは楽しいですね! ガル!」

 黒花たちは、家族での山登りを楽しんでいた。

「あー!? あの人、富士山にゴミを捨ていますよー!?」

 富士山には、登山に来る登山者が要らなくなった物をゴミとして落としていくのであった。

「ムムム! 忍法! 黒遁の術! 黒イバラ!」

 黒花は、不届きな登山者に黒いバラを巻き付けていく。

「黒いバラには棘がある。」

「ギャア!?」

 登山者は、黒花の忍術で締め上げられて、無残にも飛び散った。

「やあ~ね。せっかくのキレイな富士山にゴミを捨てる人間って。死んで当然だわ。私の国で、霜の巨人にでも踏まれればいいのよ。オッホッホー!」

 ヘルの高笑いが富士山に響き渡る。

「処理の仕方がおかしいだけで、ヘル様の言っていることは正しいです。ガル。」

「そうよ! 私たちは良いことをしているのよ! オッホッホー!」

「家族で世の中に正しいことをするのは嬉しいね!」

 正確には、登山者の死体も増えるので、ゴミが増えるだけである。

「頂上に行って、ご来光を見るわよ!」

「頂上に行って、鬼神の親分をぶった切るわよ!」

「頂上の郵便局から手紙を書いて送るです! ガル!」

 黒花たちは、富士山頂を目指すのであった。


「マーメイド・ティーを、もう一杯。」

「はいって、大嶽丸!?」

 人魚の茶店に常連客として鬼神の総大将、大嶽丸が現れたことに驚く人魚。

「なんで!? あなたがここにいるのよ!?」

「なんでって、私はここの常連客なんだが?」

「チホが、あんたに会いに富士山に行っちゃったよ!?」

「私に何か用事か?」

「実は、水花が殺されて、火花と雷花も行方知れずなんだ。最近は、黒い暗殺者がいるという噂もあったりして、物騒な世の中なんだよ。だから鬼と妖怪と鬼神たちにも、警備を助けてもらおうと思って相談に向かったのさ。」

「そうなの? まあ、富士山には光秀や、名立たる戦国武将の鬼神がいるから大丈夫でしょう。」

 大嶽丸と人魚は、富士山の方角の空を見上げるのだった。


「大嶽丸様・・・申し訳・・・ありません。・・・む・・・無念・・・。」

 光秀たち名立たる戦国武将の鬼神たちは全て倒された。

「死人のくせに、死者の国から抜け出そうなんて、脱獄は犯罪だって知らないのかね?」

 ヘルは、死者の国を支配する魔女として、鬼神が成仏することを喜ぶ。

「よくやってくれたわ! イバラちゃん!」

「イバラさんは、本当に強いです! ガル!」

「私は、ただ鬼神に幸せな家族が殺されないように、守れなかった私の両親、悲しむ残された子供たちが泣かないように、私ができることは、悪い鬼神を絶滅させることぐらいだから。」

 鬼神に殺された両親のことを思うと、黒花の目から涙が零れる。

「泣かないで!? イバラちゃん!?」

「そうですよ!? 僕たちがいるじゃないですか!?」

 必死に黒花を慰める黒い妖精と黒い犬。

「ありがとう。私は一人じゃない。私には家族がいるもんね。」

 ニコッと笑顔を見せる黒花。

「こ、これは!? いったい何が!?」

 そこに地花が現れ、鬼神たちが無残に殺された光景を見てしまう。

「あら? 新手の敵さんの登場ね。」

 ヘルは、地花を獲物を見るような目でニヤリと見つめる。

「あなたたちは何者なの!?」

「イバラちゃん! あいつは鬼神の仲間よ! 罪のない家族を引き裂いている悪い奴なのよ!」

 ヘルは、黒花をたきつける。

「家族を引き裂く!? 私のような可哀そうな子を生み出す!?」

 黒花は、家族を失ったので、家族という言葉に敏感な少女になってしまった。

「ダメー!!! 家族は一緒にいなきゃ! 家族を引き裂くものは、私が許さない!」

 黒花の全身から黒いオーラのようなものが爆発して放出される。

「なんだ!? この悍ましい気配は!? この娘は、鬼神よりも強い!? 地の精霊ノームの鎧・忍び装束! 装着!」

 地花は、黒花の呪われたような黒いオーラに恐怖を感じる。

「ハアアアアアアアー!!!」

 まだまだ黒いオーラを放出し続ける黒花。

「待ってちゃダメだ! 先制攻撃だ! 忍法! 地遁の術! 世界がくしゃみした!」

 地花は、印を結び忍術で、ゴゴゴゴゴゴゴー!!! と大地震を起こす。

「どう? 地震の威力は? ・・・なに!? 効いていない!? 全く効いていないだと!?」

 大地震が起こり大地は揺れているのだが、黒花たちは黒いオーラに守られて、ビクとも動いていなかった。

「こんな地震なんか、私の経験した絶望と悲しみに比べれば、微々たるものよ。幼い子供が目の前で、鬼と妖怪と鬼神たちにお父さんとお母さんを殺されたことに比べれば、大地震が起こって、地球が真っ二つに割れたとしても、大したことはないわ。」

 それほどに黒花の心の傷は深かった。

「なんだ!? こいつのヤバさは!? 残念だが私では、こいつに勝てない。だが、こんなヤバイ奴を野放しにはできない! 私の命と引き換えにしてでも、こいつだけは倒さなければ!」

 地花は相打ち覚悟の決死の覚悟した。

「おまえは何だ!? おまえは人間じゃないのか!? この化け物め!?」

 地花は、刀を抜き黒花に特攻していく。

「化け物? 私が? 私が化け物なら、あなたは絶望と悲しみを生み出す悪の権化よ!」

 黒花は、右手に絶望の刀を、左手に悲しみの刀を握る。

「震えろ! 大地! 裂けろ! 地割れ! 天変地異! 私の花! 必殺! 地のクローバー! 花地斬り!」

「味わえ! 絶望! 飲み込まれろ! 悲しみ! 暗黒時代! 私の花! 必殺! 黒のブラック・ローズ! 花黒斬り!」

 地花と黒花の斬撃がぶつかり合うが、黒花の斬撃が地花の斬撃を破壊して突き進む。

「キャアー!?」

 黒花の絶望と悲しみの斬撃が地花に命中する。

「あの世であなたが殺してきた幸せな家族に謝ってくるがいい。あなたの斬撃も悪くはなかったけど、空中に浮いている私には無意味だわ。」

 黒花は、地花に勝ったはずだが、地花はニッコリと笑う。

「私の狙いはあなたじゃないわ。ちゃんと地面に足を着けている者よ。」

「なんですって!?」

「ギャア!?」

 その時だった。地花の斬撃のあたった黒い犬のハウンドが大きな叫び声をあげる。

「ハウンド!? まさか!? あなたの狙いは!?」

 地花の斬撃の狙いは、黒い犬ハウンドであった。

「そう・・・あなたの・・・大切にしている・・・家族よ。」

 そういうと地花はバタっと倒れた。

「イバラさん、ヘル様、僕はあなたたちの家族になれて幸せでした。」

 ニコッと微笑むとハウンドは息絶えた。

「イヤーーーーーーーー!!!」

 黒花の泣き叫ぶ声が富士山の山頂に響き渡る。

(私は・・・自分のできることを・・・やったわ・・・カロヤカさん・・・あとは頼んだわよ。)

 地花は、仲間のカロヤカさんを信じて笑顔であの世に旅立った。

 つづく。

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