第15話 最強のドリンク

「コン!」

 カロヤカさんの目の前に、玉藻前の子供の小妖狐が飛び出してくる。

「小妖狐!? どうして!?」

「カロヤカさんは、僕が悪い人間に捕まっている時に、水をくれたり、本当に僕のことを心配してくれたから。」

 小妖狐はニッコリ笑いながら、カロヤカさんをかばう位置に立つ。

「坊や!? クッ!? エイ!?」

 玉藻前は、カロヤカさんの手前の小妖狐に爪の斬撃が当たる寸前で、爪の斬撃を横に曲げる。

「ギャアアアアアー!? 私の茶店が!?」

 人魚の茶店は、玉藻前の爪の斬撃が当たって、粉々に砕け散った。

「坊や!? どうして人間なんかを守るの!? まさか!? 坊やもお母さんより、人間の若い女の方が良いと言うの!?」

「違うよ! この女の子は、僕が人間に捕まっても助けようとしてくれたんだ! だから、カロヤカさんは、滅ぼさなくてはいけない人間じゃない! 僕の命の恩人なんだ! 僕はカロヤカさんが好きなんだ!」

 小妖狐は、母親の玉藻前にカロヤカさんは良い人間だと説明する。

「ムムム!?」

 玉藻前は、少し黙って考え込んだ。

「あなた、カロヤカさんと言ったわね。」

「はい!?」

 玉藻前は、凄んだ視線で、カロヤカさんを睨む。

「あなた、うちの息子と結婚する気はあるの!?」

「え?」

 カロヤカさんは、一瞬、時が止まる。

「はあ!? どうして、そういう展開になるんですか!?」

「だって、私の坊やが、あなたのことが好きだって言うんですもの。さっきのは愛の告白よね?」

 難しい母心である。

「カロヤカさん、あなたは私の坊やと結婚して、私の孫を産んでもらうよ!」

「なんで私が妖狐の子供を産まないといけないんですか!?」

 新しい嫁と姑の関係である。

「う!?」

 その時だった。玉藻前の様子が少し変だ。

「お、お、お腹が痛い!? トイレはどこだ!?」

「あっちです。」

 玉藻前は、トイレに駆け込む。

「入ってます。」

「こらー! 早く出ろよ! 大嶽丸! 漏れるだろうが! 男は外でしろ!」

 トイレには先着で大嶽丸が入っていた。

「恐るべし!? マーメイド・ティー!? 最強のドリンクね!?」

 最強の女、九尾の化身、玉藻前と鬼神の総大将の大嶽丸は、下剤入りマーメイド・ティーに負けた。

「お褒め頂きありがとうございます。」

 人魚は、マーメイド・ティーが褒められて嬉しかった。

「ちょっと、ちょっと、いったい何があったのよ? もう少しで死ぬ所だったんだからね!?」

「いきなり天井が降ってくるし、下剤は飛び散るし、茶店がボロボロだぞ。」

 玉藻前の攻撃で壊された茶店から、妖精と小人が現れた。

「ゲッ!? あれは鬼神だ!?」

 玉藻前が、お腹が痛くなり周囲を覆いつくしていた青い狐火の炎が消え、大きな山の鬼神、人食い山が暴れていた。

「また多くの人々が死んでしまったんだ!?」

 狐火に焼かれて周辺の村や町で普通に生活をしていた人々、山に登っていた密猟者たちは全滅してしまった。

「いくわよ! あんたたち! 鬼神退治だ!」

「おお!」

 カロヤカさんは、妖精と小人を連れて、鬼神退治に出かけようとした。

「ダメよ! ホビホビは置いてってよ。私と茶店を立て直すんだから。」

「マジか!?」

 ということで、小人はお留守番。

「外れろ! 人魚の鎧! いでよ! 妖精の鎧!」

 カロヤカさんは、妖精の鎧を身にまとう。

「行ってきます!」

「ホビホビ、がんばってね。」 

「ああ~!? 置いていかないで!?」

 カロヤカさんは、妖精と鬼神、人食い山を倒しに行った。


「でかい!?」

「山が動いてるわ!?」

 カロヤカさんたちは、鬼神、人食い山を見て、その大きさに恐怖する。

「ガオオオオオオー!!!」

 鬼神、人食い山は、雄叫びを上げて暴れまくっている。

「こんな大きいのとどうやって戦えばいいのよ? 大量に水を含ませて、土砂崩れを起こさせて、山を削るか? でも、今は人魚の鎧がないし。」

「悪かったわね。人魚じゃなくて。」

「そういうつもりで言ったんじゃないのにな。アハハ。」

「一層のこと、火をつけて山火事を起こして焼いてしまったらどう?」 

「山火事になんかしたら、周辺の山にも火が飛び散って、甚大な被害が出てしまうわ。」

 カロヤカさんと妖精は、鬼神、人食い山の対応に良い作戦が思いつかなかった。

「いいのか? 破壊するだけで? 憎しみは、新しい憎しみを生み出すぞ。」

「その声は!? 酒呑童子!?」

 その時、カロヤカさんの窮地に、鬼の頭目の酒呑童子が現れる。

「最近、大嶽丸が鬼神を制御することができていないな。おかげで、あちらこちらで鬼神が出現して困る。」

「何の用よ!? また私をバカにしに来たんでしょう!?」

「そんなに毛嫌うなよ。」

 カロヤカさんと酒呑童子も何か不思議な縁で結ばれている。

「あなた! 茶店でお茶とか飲まないの!?」

「俺は古い昔ながらの男でね。一人で茶店に入れないんだ。恥ずかしいから。」

「チッ、下剤を飲んでいないのか。」 

 酒呑童子に下痢はない。

「何をブツクサブツクサ言っているんだ? 独り言が多いと認知症になるぞ。」

「余計なお世話よ! 私は、まだ10代だから大丈夫です!」

「若くても、若年性認知症という病気もあるぞ。」

「ええーい! 私は鬼神と戦うの! 邪魔するなら帰ってよね!」

 カロヤカさんと酒呑童子は、とても仲が良い。

「いいのか? せっかく大衆ウケして、みんなが喜ぶような鬼神の倒し方を教えてやろうと思ったのに。」

「なんですって!?」

「じゃあ、俺は帰るから、あのデカイのと楽しく遊んでくれや。」

「待て! 教えないと、殺すわよ!」

 カロヤカさんは、花の剣を酒呑童子の首元に当てる。

「分かったから、剣を下ろしてくれないか? 怖くてしゃべれない。」

「いいでしょう。」

 カロヤカさんは、酒呑童子の話を聞くことにした。

「鬼神というのは、邪な人間、邪人の魂の集合体だ。」

「ふんふん。」

「そこで何も戦って破壊しなくても、邪人の魂を成仏させることができたら、鬼神を倒せると思わないか?」

「おお! その手があったか!」

 カロヤカさんは、酒呑童子の話に納得する。

「で、方法は?」

「それは自分で考えろ。」

「なんだと!? そこまで話したんなら、邪人の魂を成仏させる方法を教えんかい!?」

「さらばだ! カロヤカさん!」

「しまった!? 逃げられた!?」

 酒呑童子は、闇に消えていった。 

「いったい、どうすれば、邪人の魂を成仏させることができるの?」

「ガオオオオオオー!」

「危ない!?」

 鬼神、人食い山は、カロヤカさんと妖精をパンチで攻撃してくる。

「キャアアアアアアー!」

 間一髪で攻撃を避けるカロヤカさんと妖精。

「どうすればいい!? 斬ってもダメ、突いてもダメ、いったいどうすればいいんだ!?」

 悩み苦しむカロヤカさん。

「花の香でいいんじゃない。」

「花の香?」

 その時、妖精が重い口を開いた。

「攻撃しても相手を怒らせるだけ。それなら花の香で鬼神、人食い山を鎮めるというのはどうかしら?」

「さすがフェアフェア! やってみる価値は大いにあるわ!」

 カロヤカさんは、花の剣に気を集中させる。

「邪な汚れた魂に、きれいな花を咲かせましょう! 花よ! 咲け! 花よ! 咲け! 鬼神よ! 元の純粋な山に戻れ!」

 カロヤカさんは、鬼神、人食い山にお花をバラまいていく。

「ガオオオオオオー!?」

 鬼神、人食い山の様子が変だ。

「ああ~!? 鬼神に色鮮やかな美しい花が咲いていく!?」

 妖精は、鬼神、人食い山を覆いつくすように、色鮮やかな美しい花々が咲いていく光景に驚く。

「お花畑! 満開!」

 きれいな花山が新たに誕生し、そこに鬼神の姿はなかった。

「ルンルルン~。」

 カロヤカにお任せあれ。

 つづく。

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