第14話 自己中な女
「燃えろ。」
「ギャアアアアアアアー!?」
九尾の女が声を発する度、また密猟者が一人燃えていく。
「なんだ!? なんだ!?」
「よ、妖怪だ!? 尻尾が九本もある!? ば、ば、化け物だ!?」
「狐火よ、燃えろ。」
「ギャアアアアアアアー!?」
また一人、密猟者が青い炎に包まれる。
「化け物? こんな美しい女に失礼な口を利くんじゃないよ。」
九尾の女は、とても美しい女性だった。
「あの、何歳なんですか?」
カロヤカさんは、恐る恐る九尾の女に年齢を尋ねてみた。
「2020才よ。」
「年増の子持ちのババアじゃねえか!?」
「プチン! 誰がババアだ! おまえ! 魂まで燃え滅ぼすぞ!」
「ギャアアアアアアアー!?」
邪な人間の密猟者たちは、九尾の女の前に全滅した。
「ああ~、ちょっと本気出したら、地獄の閻魔様の仕事を減らしてしまった。」
九尾の女は、無敵の強さを誇った。
「なんなの!? この人!?」
カロヤカさんは、九尾の女の強さに心を奪われた。
「か、え、せ! わ、た、し、の、ぼ、う、や!」
九尾の女は、本題を思い出した。誘拐された自分の子供を取り戻しに来たのだ。再び怨念がこみ上げてくる。
「コンコン!」
その時、九尾の女の息子の子妖狐の鳴き声がする。
「坊や!?」
子供の声を聞いて、九尾の女の殺意が消える。
「どうぞ。息子さんです。」
カロヤカさんは、檻に入ったままの子妖狐を九尾の女に差し出す。
「坊や!」
「コン!」
九尾の女と子供は、無事に親子の感動の再会を果たす。
「檻なんかに入れら可哀そうに、直ぐに出してあげるからね。」
九尾の女は、手入れされた鋭い爪で檻を切り裂く。
「おお! 坊や! 会いたかったよ! 怖かったね! もう大丈夫だからね! よしよし!」
「コンコン!」
子妖狐は、母親の九尾の女の胸に飛び込んで強く抱きしめあうのだった。
「良かったね。」
「コン。」
カロヤカさんは、感動の親子の対面を喜んだ。
「良かったら、どうぞ。人魚の茶店の名物、お肌すべすべ、マーメイド・ティーです。」
「いただこうか。ゴクゴク、美味しい。」
玉藻前は、下剤たっぷりマーメイド・ティーを飲んでしまった。
「どうして大切な息子さんをさらわれたんですか?」
「ちょっと厚化粧をしている間に・・・って!? あなたもあいつらの仲間?」
九尾の女は、鋭い目つきでカロヤカさんを睨む。
「え!? どうして、そうなるんですか!?」
「私の息子を誘拐する人間なんか生きている価値もない。子供をさらわれた母親の気持ちが分かるか? どうせ、おまえたち人間は、妖怪を捕まえて金にすることしか考えない生き物だ。全部、燃やして、皆殺しにしてやる。」
親子の感動の再会で収まっていた九尾の女の殺意がよみがえる。
「若い女なんて、燃えてしまえばいいのだ!」
「そ、それって!? ただの僻みですよ!?」
「もえ。」
九尾の女は、カロヤカさんを狐火で燃やそうとする。
「そこまでだ。玉藻前。」
その時、大嶽丸が声を上げ、九尾の女の言葉を遮る。
「おおっと、誰かと思えば、大嶽丸じゃないか。珍しい所で会うもんだね。」
玉藻前と大嶽丸は、顔見知りだった。
「大嶽丸さん、知り合い何ですか?」
「知り合いも何も何も、私が妖怪の総大将なら、大嶽丸は、鬼神の総大将だよ。」
「ええー!? なんですって!?」
カロヤカさんは、普通に接していた大嶽丸が鬼神の頭目と聞いて驚いた。
「き、き、鬼神って、大嶽丸さんが、あの邪な人間、邪人の魂の集合体の人食い系の、あの鬼神の総大将!?」
「すいません。騙すつもりはなかったのですが。」
「そ、そんな!?」
カロヤカさんは、今まで鬼神と激しい死闘を繰り返してきただけに衝撃も大きく複雑な心境になる。
「おい、大嶽丸。こんな所で団子を食べている暇があったら、鬼神の管理でもしたらどうだい? 最近、至る所で鬼神が生まれているんだが。」
「それは仕方がない。お金や女などの欲望に、純粋な魂を汚した邪な人間が多いのが原因だ。」
大嶽丸が言う、鬼神発生の起源は間違いではない。
「やはり人間は滅ぼさなければいけない存在なんだよ。」
「どうして、そんな酷いことを言うんですか!?」
カロヤカさんが玉藻前の言葉に噛みついた。
「確かに人間には、邪な考えをもった人もたくさんいます。でも、でも誰にも迷惑をかけず、普通に笑って生きている人間の方が多いんですよ!」
カロヤカさんも一人の人間として、人間の思いを伝える。
「それは人間の言い分だね。悪いけど、私は妖怪の味方でね。それに自分の坊やさえ無事なら、それでいいんだ。だって私は、自己中なんでね! キャッハッハ!」
「そんな!? 自分勝手な!?」
カロヤカさんは、玉藻前の考え方についていけなかった。
「嫌なら、私を止めてみなよ。あなたが人間として。」
「わ、私が!?」
「おまえが私を止めないと、妖狐の山に侵入した密猟者の人間たちは、まあ、今頃、全員死んでいるだろうが、邪な人間、邪人の魂たちが、新しい鬼神を生み出してしまう。」
「鬼神!?」
「そうそう、鬼神は周囲に住む人間たちを襲うだろう。人間を救いたければ、私を倒して、山に向かうんだね。」
鬼神の脅威のメカニズムは、人間を襲い邪な人間、邪人の魂を食らい巨大化していく。
「分かりました。あなたを倒して、鬼神を討つ。」
「面白い。人間の分際で私にケンカを売ろうとは、なんて愚かな。」
「人間をなめないでよ!」
カロヤカさんは、九尾の妖狐、玉藻前と戦う決心をする。
「コン。」
子供の妖狐もカロヤカさんと母親の戦いを心配している。
「ボーオオオオオオオッ!!!」
周囲は、妖狐の青い炎が飛び火して、人魚の湖の周辺は青い炎に包まれていた。
「いでよ! 人魚の鎧!」
カロヤカさんは、人魚の鎧を装着していく。
「さあ! こい!」
「そんな鎧なんかで防げるもんか。一言でおしまいだよ。もえ。」
「狐火がくる!?」
玉藻前は、あっさりとカロヤカさんを狐火で焼き殺そうとした
「ガアアアアアアー!!!」
「誰だ!? 私の邪魔をするのは!? また、おまえか!? 大嶽丸!?」
「カロヤカさんを燃やさせはしない。」
玉藻前の狐火を大嶽丸が大声でかき消す。
「ありがとう。大嶽丸さん。」
「狐火は気にするな。私が全てかき消してやる。」
微妙に芽生えるカロヤカさんと大嶽丸の絆。
「キーイイイイイイイ!? ちょっと若いからって、男にチヤホヤされると思って調子に乗ってんじゃないわよ!」
「今度はこっちの番よ! おばさん! 覚悟!」
「お、おばさん!?」
玉藻前は、おばさんという言葉に敏感である。
「花が香り、花が舞う! 百花繚乱! 軽やかに咲き乱れろ! 私の花! 必殺! お花畑斬り!」
ドンドン長くなる決めゼリフに舌を噛みそうになるカロヤカさんが玉藻前に斬りかかる。
「複数の花が飛んでくる!? ふざけているのか!?」
おばさんと言われイライラしている玉藻前は、初めて見るカロヤカさんの必殺技に呆れた。
「私におばさんと言ったことを後悔させてやる。私の攻撃は狐火だけじゃないんだよ。本当の飛ぶ斬撃を教えてやる! 妖狐の爪!」
玉藻前の長い爪がカロヤカさん目掛けて飛んでいく。
「ああ!? 私の花たちが!?」
玉藻前の爪の斬撃は、あっさりとカロヤカさんのお花畑の花を荒らし、無残にも切り裂き舞い散らしていく。
(なに!? この感覚は!? 体に力が入らない!? 死ぬ? 私は、死ぬの? 私は死ぬんだわ。)
強烈な玉藻前の爪の飛ぶ斬撃の威力に、無意識にカロヤカさんは死を受け入れ、諦めてしまったので動くことができなかった。
カロヤカにお任せあれ。
つづく。
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