第10話 折れた刀

「ギャアアアアアアア~!?」

 カロヤカさんは、鬼神、人食い花を倒した。

「あれを見て。」

「お金・・・。」

「若い娘・・・。」

「鬼・・・。」

 人食い花を形成していた邪な人間、邪人の魂が成仏して、あの世に向かっていく。

「邪人は死んでも鬼神になる。まったく迷惑な人たちだったわ。」

 カロヤカさんの苦労は絶えない。

「カロヤカさん、どう自分が強くなった気分は?」

「そんなの分からないよ。でも、小鬼家族も守れたし、悪い人間も、鬼神も倒したし、私は頑張ったんだなって思えるよ。」

 カロヤカさんの顔には、純粋に笑顔が溢れた。

「じゃあ、鎧を外すから覚悟してね。」

「え?」

「外れろ! 私の鎧!」

 妖精は、カロヤカさんから妖精の鎧を外す。

「グゲグゴグワ!? ギャアアアアアアアー!?」

 鎧を脱いだカロヤカさんに蓄積された疲労が全身に襲い掛かる。

「アワワワワワワワワ。」

「ああ、年頃の娘が、泡吹いて気絶してるわ。」

「無理もない、普通の鉄製の騎士の鎧と違って、妖精の鎧は、その特殊能力故、着用者の体への負担も大きいからな。」

 妖精の鎧は、体を鍛えていない、食べては寝る、食っちゃ寝生活で平和に過ごしていた普通の少女、カロヤカさんには諸刃の剣ならぬ、諸刃の鎧だった。


「私を殺す気!? 呪いの鎧なんか装備させて!?」

 目覚めたカロヤカさんは、逆ギレしていた。

「まあまあ、大丈夫? カロヤカさん。」

「心配すな!? 二度と鎧なんか着ないからな! この人殺し!」

 カロヤカさんは、鎧が大嫌いになった。

「あの場合は、カロヤカさんが妖精の鎧を着てくれなかったら、僕たちは鬼神に食べられて全滅していたんだから。」

「おお! おお! 全滅して最初っからやり直してやる! 私には刀があれば十分だ! 人間でも、鬼でも、鬼神でも斬り倒してやる! 」

 カロヤカさんは刀を振り回す。

「ギャアー!? お。折れてる!? 刀が折れてる!?」

 カロヤカさんの刀は折れてしまっていた。

「僕の作った刀が、妖精の鎧の特殊能力の3倍のスピードに耐えれなかったのだろう。」

「刀まで折るなんて、やっぱり呪われた鎧じゃない!? 嫌ーーーーーーー!」

 カロヤカさんは、益々、鎧を嫌いになった。

「新しい刀なら直ぐに作れるよ。」

 小人は、簡単に刀を作れるという。

「本当?」

「本当だ。刀は、素材さえあれば小人の僕には作ることは簡単だ。」

「やったー! ホビホビ偉い! どこかの妖精とは大違いだわ。ジーッ。」

「悪かったわね。」

 カロヤカさんは、折れた刀が治ると喜んだ。

「刀を作る素材に、貴重な鉱物を混ぜれば混ぜるほど、貴重な刀ができるんだ。ここでできる簡単な刀を作ってみよう。」

「おお!」

「まず、折れた刀をカロヤカさんが持つ。」

「はい。」

 カロヤカさんは、折れた刀を持つ。

「次に、お花畑から花を摘んで、新しい刀の素材にしよう。」

「え? 花なんかで、刀の素材になるの?」

「クスクスクス、騙されたと思って積んでください。何でも刀の素材になりますよ。例え花でも、その人の思いが詰まっていればいいんです。」 

「思い?」

 カロヤカさんは、お花畑の花を摘む。

「そしてカロヤカさんが積んでくれた花たちを、僕がホビホビと刀の形に成形します。折れたのは剣だったので、新しい剣は刀の形に似せましょう。」

 小人は高い技術で新しい剣を刀の形にする。

「花と折れた刀が、新しい刀になる?」

 まだカロヤカさんは半信半疑である。

「あと一つある。それは思いだ。この新しい刀を持つカロヤカさんの思いだ。」

「私の思い?」

「そう、刀の持ち手の強い思いが、強い刀を作り出す。さあ、カロヤカさん。刀に思いを込めるんだ。」

「よし! やってみるか!」

 カロヤカさんは、新しい刀の素材に思いを込め始めた。

「私の思いは、きれいな花がたくさん咲いているお花畑で平和に昼寝がしたい。私のお父さんとお母さん、それに小鬼のお父さんが安らかに眠れるような世の中になればいいかな。」

 これが今のカロヤカさんの本当の願いである。

「おお! 花が刀に舞っていく!?」

「刀に花の模様が刻まれる!?」

 刀の刀身に複数の花が描かれた刀が完成する。

「この刀は、この世で唯一の、カロヤカさんの刀です。」

「花柄の私だけの刀!」

 カロヤカさんは、新しい刀に見とれている。

「カワイイ! 超カワイイ! キャッハ! キャッハ!」

「危ない!? 刀を振り回すな!?」

「アハハ。刀を振る度に、美しい花の香りがしているみたいだわ。」

「芳香剤じゃないのよ!?」

 新しい刀に喜んだカロヤカさんは、笑顔で刀を振り回す。

「よし! 早速、新しい刀に名前を付けるわよ! ヒーハー!」

「やめて! カロヤカさん、分かっているの!? 自分の残念なネーミングセンスを!?」

「その通り! 折角の新刀が泣くぞ!?」

 妖精と小人は、カロヤカさんの残念なネーミングセンスを知っている。

「大丈夫よ! 今回に任せなさい! 私の新しい刀の名前は・・・お花畑刀! どう?」

「必殺技、そのままね。もっと良い名前はないの?」

「花が舞うと書いて、花舞刀。花が香ると書いて、花香刀。」

「物語初期から、刀の名前がかっこよすぎない?」

「難しいな。カロヤカ刀というのはどうだろう?」

「刀の名前には合わないな。う~ん。」

 新しい刀の名前を決める話し合いは紛糾する。

「あの・・・花の刀っていうのはどう?」

 ふとカロヤカさんが刀の名前を思いついた。

「花舞刀、花香刀に進化できる道も残し、必殺! 花舞斬り! とか、必殺! 花香斬り! 必殺技に回して使うこともできるわよ。それに私の名前は、花だし。」

 カロヤカさんの名前は、軽井沢花である。

「そ、それよ! カロヤカさんの新しい刀の名前は、花の刀よ!」

「残念なのは、人の名前を付けるネーミングセンスだけのようだ。」

 妖精と小人は、花の刀という名前を気に入った。

「刀を振れば花が舞い、花の蜜の香りがする。」

 カロヤカさんは自分だけの刀を試し振りする。

「ふわ~。」

 お花畑の花びらが空を心地良く舞う。

「これが私の新しい刀。百花繚乱! 正に、芸術!」

 バックのお花畑の花たちも喜んでいるみたいに美しい光景を演出する。

「ルンルルン~。」

 カロヤカにお任せあれ。

 つづく。

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