第9話 侍は異世界では騎士と呼ぶ

「ちょっと! 何を座り込んでいるのよ! 早く私たちを助けなさいよ!」

「あ、忘れてた。ごめんごめん。」

 まだ妖精と小人は縄で縛られたままだった。

「あんたたち弱いのね。」

「カロヤカさんには小さな僕たちが戦闘要員に見えるか?」

「見えません。ロープを解くから暴れないで。」

 カロヤカさんは、妖精と小人のロープを外す。

「プハ~! やっと自由になれた!」

「拘束されないって、幸せなことだったんだな。」 

 妖精と小人は、ロープに縛られないことに幸せを感じた。

「そんなことより早くここから逃げましょう! 酒呑童子も言っていたけど、なんだか異様な空気が漂っているわ!?」

 カロヤカさんは、繊細で心配性だった。

「大丈夫よ。鬼も人間もいなくなったんだから。ワッハッハー! 自由! 空が飛べるって、なんて幸せなのかしら!」

「そうそう、いざとなれば僕は地面に潜ればいい。キラーン。」

「こら、私はどうすればいい?」

 妖精と小人は、全身で喜びを感じ自由を満喫していた。

「グオオオオオオオー!」

「なに!? 死んだ人たちの体が一つになっていく!?」

 その時だった。人間の死体が一か所に集まっていく。

「か・・・ね・・・お金・・・。」

「女・・・若い・・・おんな・・・。」

「鬼は・・・どこだ・・・キャハハハハ!」

 人間の複数の顔が浮かび上がった、大きな花が現れた。

「花の化け物!? あれ酒呑童子の言っていた、鬼神!?」

 カロヤカさんは、鬼神、人食い花の出現に驚く。

「ユグドラシル!? どうしてユグドラシルが日本に!?」

「ユグドラシルは木だから違うだろ!?」

「あ、そっか。マンドレイクって感じね。」

 妖精と小人は、異世界の出身である。

「ああー!? 早くここから逃げれば良かった!? あんたたちがもたもたしていたせいよ!?」

 カロヤカさんは、自分の不幸を呪う。

「ええー!? 私たちの性!? カロヤカさんが早く助けないのがいけないのよ!?」

「そうだ! そうだ! 小人にだって人権はあるんだぞ!」

 妖精と小人は、自分たちの無実を主張する。

「ギャオオオオオオオー!」

 鬼神、人食い花が長い茎を触手に見立てて、カロヤカさんたちを攻撃してくる。

「うわあああー!? キャア!?」

 カロヤカさんは飛び込んで必死に逃げる。

「どうするのよ!? 言っとくけど、私に戦う力は残ってないわよ!?」

 カロヤカさんは、人食い花と連戦する体力は残っていなかった。

「フッフッフ。」

「不気味!?」

「不気味じゃない!」

 突然、妖精が笑い出した。

「ドワーフが剣を作ったり、強化したり、命がけで剣の素材を取ってこいと言ったりするように、妖精の私にもあるのよ。特殊能力が!」

「ちなみに僕は小人のホビット。まあ、ドワーフみたいなものです。」

 妖精には秘密兵器があるみたいだった。

「おお!? どんな能力なの!? 空飛ぶ竜を呼び出したりできるの!?」

「なんでやねん!」

「チェ、違うんだ。」

 期待を裏切られて、いじけるカロヤカさん。

「そんなものよりも、もっと、良いものをあげるわ。とっておきよ。ウッシッシー。」

「だから不気味なんだって。その笑い方は。」

 妖精が笑う時、カロヤカさんは嫌な予感しかしなかった。

「カロヤカさん、あなたを騎士にしてあげる。」

「騎士?」

 騎士と聞いてもピンと来ないカロヤカさん。

「いでよ! 妖精フェアリーの鎧!」

 妖精が唱えると、何もない所から妖精の姿形をした鎧が現れた。

「なに!? あれは!? 見たこともない鎧だ!?」

「異世界ファンタジーでは、騎士の鎧は、ナイト・アーマー。日本で鎧は、侍や武者の着る鎧とされている。」

 小人は、刀や鎧に詳しかったので、両者の鎧の違いを説明してくれる。

「さあ! 私の鎧よ! カロヤカさんの身にまとえ!」

 妖精の掛け声で、妖精の鎧がカロヤカさんに装着されていく。

「これが妖精の鎧!? 不思議だ!? 体中から力がみなぎってくる!?」

 疲れ果てていたカロヤカさんの体力が回復していく。

「どう? 私のとっておきは?」

「ヒラヒラしていて、ちょっと恥ずかしい。それに鎧なのに背中に羽とか生えてるんだもの。」

「素直に喜びなさいよ!?」

「すごい! 妖精の鎧! アハハ。」

 強敵を前にしても、笑って誤魔化すカロヤカさん。

「さあ! 羽を広げて、空に舞うのよ!」

「はあ!? 空を飛ぶ!? 何を言っているのよ!? 無理よ!? 無理!? あ! 手で広げればいいのか。ヨイショ、ヨイショ。」

「手動じゃない!」

「実は私も、そんな気がしたんだ。アハハ。」

 鎧の羽を手で広げようとしたカロヤカさん。

「心で念じるのよ。羽は妖精の鎧を着ている、あなたの体の一部なんだから。」

「私の体の一部か。よし! 羽よ! はばたけ! 大空高く! 美しく!」

 カロヤカさんの思いが羽を動かす。

「う、浮いた!? できた! できたよ! 私にも! 私、空を飛んでいる!?」

 カロヤカさんの体は空に舞い上がった。

「どう? 妖精になった気分は?」

「よく分からないけど、本当に軽やかになった感じよ。」

 まさかのなぜ軽井沢花が「カロヤカさん」と呼ばれるのかという、理由付けが意外な所からできてしまった。

「どうして自分が空を飛んでいるのか不思議なのよ!?」

 カロヤカさんは空に浮いていることに戸惑っていた。

「初めて空をとんだんだから仕方がないわよ。まだ空から見る景色を楽しむ余裕はないわね。まずは、あいつを倒しちゃいましょう。」

「おお!」

 カロヤカさんと妖精は、眼下の鬼神、人食い花を見つめる。

「まずは刀を構える。」

「はい、構えました。」

 カロヤカさんは刀を構える。

「次に敵に突撃する。」

「はい、敵に突進します。え? ええー!? ギャアアアアアー!?」

 カロヤカさんの体は、人間の速さの3倍のスピードで鬼神、人食い花に突き進む。

「言い忘れたけど、妖精の鎧を装備すると、いつもより早く動けるわよ。」

「早く言って!? うわあああー!?」

 カロヤカさんは、気がつけば鬼神、人食い花の懐に入っていた。

「必殺! お花畑斬り!」

 無意識に刀を抜いたカロヤカさんは、加速した力も借りて、鬼神、人食い花を一刀両断する。

 カロヤカにお任せあれ。

 つづく。

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