第8話 思いのある場所

「カロヤカさん、最低!」

「カロヤカさんの薄情者! 僕たちは仲間じゃなかったのか!?」

 カロヤカさんの決定に妖精と小人は逆ギレしていた。

「仕方がないでしょ! こいつらが約束を守るような人間に見える? 見えないでしょ。」

「そう言われてみれば。」

「確かに全員が捕まって終わりか。」

「でしょでしょ。」

 カロヤカさんの言うことにも一理あった。

「やっぱり私が戦って勝つしかない!」

 カロヤカさんは悪党共と最後まで戦う決意である。

「ケッ。まだ、こっちは20人いるんだぜ。小娘一人に負けたとあっちゃあ、俺たちも恥だ。絶対に殺してやる!」

 邪な人間たち悪党にもプライドはあった。

「フェアフェア、ホビホビ、小鬼、小鬼のお母さん。みんな、死ぬ時は一緒よ!」

「カロヤカさんに私たちの命を預けたわ。」

「うん。」

 捕まっている妖精と小人、小鬼家族はカロヤカさんに命運を託す。

「みんな、ありがとう。」

 カロヤカさんたちは信頼しあい心を一つにする。

「それ! やっちまえ!」

「おお!」

 一度に大勢の邪な人間たちがカロヤカさんに襲い掛かる。

「私は負ける訳にはいかない! でやあ!」

 カロヤカさんは襲い掛かる悪党たちと刀を打ち合う。

「ギャア!?」

 カロヤカさんは、何人かの邪な人間を切り捨てる。

「どりゃ!」

「ゲホッ!?」

「やあー!」

「ギャハ!?」

「えい!」

「アベシ!?」

 邪な人間たちを切り捨てていくが、カロヤカさんの様子に変化がある。

「へっへっへ。こっちは、まだまだいるぜ。」

「はあ・・・はあ・・・本当に・・・キリがないわね。」

「カロヤカさん!?」

 妖精たちもフラフラで戦うカロヤカさんを心配する。

「ごめん・・・みんなのことを・・・助けられない・・・かもしれない。」

 あまりの多勢に無勢でカロヤカさんは、気力と体力の限界が近づいて、片膝をつき、刀を地面に刺し、くじけてしまいそうだった。

「もう終わりか? おまえは、その程度なのか?」

「あなたは!? 酒呑童子!?」

 カロヤカさんの絶対絶命の窮地に現れたのは、鬼の頭目の酒呑童子だった。

「カロヤカさん、ざまあないな。所詮は、人間。なんと弱い存在だ。」

「ふざけるな! 私は・・・やれる! 私は、まだ戦える! 人間をなめるなよ!」

 酒呑童子に馬鹿にされたカロヤカさんは、最後の力を振り絞って立ち上がる。

「立ったか。だが、ここにおまえの出番はない。ゆっくり休んでいろ。」

「なんですって!?」

「ここは思いのある場所だからな。おい、いつまで眠っている。早く目覚めろ。」

 酒呑童子の言葉に、周囲の空気の流れが速まり、邪気のような何かが、お花畑に一点集中してくる。

「ガオオオオオオー!」

「あれは!? お花畑の鬼!?」

 酒呑童子が呼び出したのは、カロヤカさんに倒されたはずのお花畑鬼であった。

「お父さん!」 

「あなた。」

「妻よ、息子よ。もう大丈夫だ。私が助けてやる。」

 お花畑の鬼は、小鬼のお父さんであった。

「なんで次から次へと化け物が出てくるんだ!? やっちまえ! 新手の鬼も捕まえろ!」

「おお!」

 人間とは欲に目が暗むと愚かなもので、目の前の鬼は悪鬼の塊であり、もう人の手に負える者ではなかった。

「ガオオオオオオー!」

 お花畑の鬼は、禍々しい妖気を放つ。

「ギャア!?」

「か、体が溶ける!?」

 鬼の妖気は、襲い掛かってくる邪な人間たちをドロドロに溶かしていく。

「あれは!? 鬼の瘴気!?」

「今回は、子鬼たちを助けようとしてくれたみたいだから、おまえの命を取るのはやめておこう。死にたくなければ、俺の側から離れるなよ。」

「酒呑童子は、私を鬼の瘴気から守ってくれているの?」

 酒呑童子の側にいるカロヤカさんの体が溶けることはなかった。

「嫌だ!? 死にたくないよ!?」

「お金・・・金が欲しかった・・・だけなんだ!?」

「ガオオオオオオー!」

 お花畑の鬼は一暴れして、小鬼たちを捕まえに来た邪な人間たちを皆殺しにした。

「もう、いい。おまえの家族は俺が鬼ヶ島に連れていく。安心して眠るがいい。」

 酒呑童子の言葉に、怒れるお花畑鬼の魂は怒りを鎮める。

「ありがとうございます。酒呑童子様。」

 お花畑鬼の魂は、鬼の頭目の酒呑童子に頭を下げる。

「礼なら、この人間の娘に言うんだな。おまえの家族を、こんなにボロボロになりながらも救おうと戦ってくれたのだからな。俺も、この娘がいてくれなかったら間に合ってはいなかっただろう。」

 お花畑鬼の魂は、カロヤカさんを見つめる。

「私の家族のために戦ってくれて、ありがとう。うちのバカ息子が、おまえの家族に酷いことをした。申し訳ない。許してほしい。」

「ごめんなさい! 私がいけないの! 私が小鬼からお父さんである、あなたを奪ってしまったから。小鬼が怒るのも、復讐しようと思うのも当然よ。私は家族を失って、初めて小鬼の寂しい気持ちが分かったの。だから悪いのは、私よ。」

「私は、大切な家族と笑って楽しく過ごした、このお花畑を守りたかっただけなんだ。」

「お花畑の鬼。」

 それがお花畑の鬼がカロヤカさんを襲った本当の理由であった。

「お父さん。」

「息子よ。少し見ない間にたくましくなったな。」

「俺は将来、お父さんみたいな立派な鬼になってみせるからね!」

「あなた。私たちのことは心配しないでください。」

「分かった。おまえたちには平和に暮らしてもらいたい。」

 お花畑の鬼の魂は、家族との最後の挨拶を終えた。

「もう、思い残すことはない。今度、生まれ変わっても、おまえたちと家族になりたいな。さらばだ。妻よ。息子よ。」

 お花畑の鬼の魂は消え去った。

「お父さん!」

「あなた!」

 小鬼とお母さん鬼は、お父さん鬼との別れに涙を流す。

「瘴気が消えた!?」

 お花畑の鬼の魂が去ったことにより、普通のお花畑に戻った。

「それでは俺たちも失礼する。」

「どうもありがとうございました。」

「こちらこそ、ありがとうございました。」

 お母さん鬼は、深々とカロヤカさんに頭を下げる。

「カロヤカさん、さよなら。」

「ちび鬼ちゃん、今度は、鬼ヶ島まで鬼ごっこしに遊びに行くからね! またね!」

「うん。また遊ぼうね。」

 カロヤカさんと小鬼は笑顔で再会を約束した。

「鬼を救ってくれて感謝する。お礼に良いことを教えてやる。邪な人間、邪人の魂が集まる場所は、鬼神を呼び寄せる。早く、ここから逃げることだな。さらばだ。カロヤカさん。」

 そういうと酒呑童子と小鬼の家族は闇の中に消えていった。

「勝った。」

 厳しい戦いに勝利したカロヤカさんは地面にお尻をつけて座り込む。

 カロヤカにお任せあれ。

 つづく。

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