第7話 この世で一番残酷な生き物

「さあ! 小鬼を探しに行くわよ!」

「おお!」

 カロヤカさんたちは、人魚の湖の茶店を出て、お花畑に小鬼を探しに出発した。

「ねえねえ、カロヤカさん。」

「なに?」

「本当に小鬼の家族を見つけて、小鬼と小鬼のお母さんを殺すの?」

 妖精はカロヤカさんに疑問を質問する。

「もちろん! お父さんとお母さんの仇だからね・・・と思っていたんだけど、今となっては、あの小鬼が人間に襲われていないか、無事を祈る気持ちの方が強いわ。」

「さすが僕らのカロヤカさんだ。」

「相手が小鬼だから情が湧いちゃったのね。」

「そうみたい。それに私のお父さんとお母さんは、私が復讐することを望んでいなかったから。」

 カロヤカさんは、亡き両親の意思を受けて、強く生きている。


「ギャア!? やめて!?」

 きれいなお花畑に女の悲鳴が響き渡る。

「お母さん!? 助けて!?」

 美しいお花畑に子供の泣き叫ぶ声が響き渡る。

「へっへっへ。子供を捕まえてしまえば、こっちのものってね。」

 野盗、盗賊、山賊、海賊、賞金稼ぎなどの烏合の衆の悪そうな人間がたくさん集結している。

「離せ!? 離せ!?」

 人間に捕まったのは、あの小鬼だ。

「うるせえ! 黙れ! おまえらの性で、こっちもかなりの仲間を失ったんだぞ!」

「お頭、30人位しか残っていません!?」

「なんだと!?」

 70人位の人間たちの死骸が、お花畑に散らばっている。

「息子を・・・返せ! おまえたち・・・皆殺しに・・・するぞ! はあ・・・はあ・・・。」

 お母さん鬼は、邪な人間たちから息子を守るために戦ったのだろう。全身に切り傷だらけで血が流れ、体には刀が刺さっていた。

「動くな! 大人しくしろ! 暴れるなら、こいつを殺すぞ!」

 人間は、捕まえた小鬼に刀を向ける。

「ギャア!? お母さん!? 怖いよ!? 助けて!?」

 泣き叫ぶ小鬼。

「息子に手を出すな!? クーッ!?」

 子供を人質に取られて、お母さん鬼は戦うことができなくなった。

「さあ、どうする! 息子を殺されたいか? それとも大人しく言うことを聞くか? へっへっへ。」

 欲望に心を奪われた人間は、鬼よりも残酷であった。

「分かった。降参する。だから息子を放せ。」

 お母さん鬼は、息子のために抵抗することをやめた。

「いいだろう。その前に暴れられないように縄でくくらしてもらうぞ。やれ!」

「へい!」

 お母さん鬼は、ロープで何重にも縛られて身動きできなくなった。

「お母さん。」

 心配そうにお母さん鬼を見つめる小鬼。

「大丈夫よ。さあ、息子を開放しなさい。」

「嫌だね。」

「なに!? 約束が違うじゃない!?」

「約束? そんな約束した覚えはないな。へっへっへ。」

「騙したな!?」

 人間は、最初からお母さん鬼を騙すつもりだった。

「小鬼はペットとして売れるし、女の鬼はお金持ちのおっさんに人気があってな。力持ちの半妖半人を産ませて奴隷にするんだってよ。へっへっへ。」

 鬼は怖い生き物でもあるが、人間にとって鬼は、いろいろと需要があった。

「あなたたち! 何やってるのよ!」

 そこに人間の女と妖精と小人が現れた。

「カロヤカさん!?」

「こら! 小鬼! 私が見つける前に、なんで捕まってるのよ!」

 カロヤカさんと小鬼は再会を果たした。

「なんだ? おまえは? 変な生き物を連れやがって。ああ!? おまえ!? 妖怪女だな!?」

「誰が妖怪女だ!? かわいい私は、どこからどう見ても普通の人間の女だ!」

 妖精と小人を連れているカロヤカさんは、周りの人間から見ると妖怪に見える。

「私は、お花畑の鬼を退治した女侍カロヤカさんだ!」

 カロヤカさんの職業のベースは、女侍だった。

「なに!? おまえがお花畑の鬼を退治した伝説の侍だというのか!?」

「その通り。」

「嘘を吐け! おまえみたいな弱そうな女に鬼が倒せるはずがない! ワッハッハー! 野郎ども! やっちまえ!」

「おお!」

「本当に私が倒したんだから! もう!」

 確かにカロヤカさんを見ても、鬼を倒せそうには思えなかった。

「こいつらの相手は、私がするから、フェアフェアとホビホビで、鬼の親子を助けて。」

「了解。私に任せなさい。」

「カロヤカさんも気をつけて。」

「私と小鬼の鬼ごっこを邪魔した罪を償ってもらうわよ。」

 カロヤカさんは、ホビットの刀を構えて、悪党たちと対峙する。

「お姉ちゃん、おじさんたちと遊ぼうよ。」

「可愛がってやるぜ。へっへっへ。」

 邪な人間の男たちがカロヤカさんに襲い掛かってくる。

「ギャア!?」

「グワア!?」

「女だからって、なめんなよ!」

 カロヤカさんは一瞬で2人の男を倒す。

「ほお~、お姉ちゃんにしてはなかなかやるな。だが、大人20人を相手にどこまで体力が持つかな。へっへっへ。」

 人間は計算高い生き物だった。強い敵には大量の人数で襲い掛かるという物量作戦を刊行する。

「負けるもんですか!」

 カロヤカさんは、鬼の親子を助けるためにも負ける訳にはいかなかった。


「はあ・・・はあ・・・さあ! こい!」

 カロヤカさんも10人以上は人間を倒したが、さすがに息が切れてきた。

「そこまでだ! こいつらがどうなってもいいのか!」

「ああ!? フェアフェア!? ホビホビ!?」

「ごめんなさい。カロヤカさん。」

「面目ない。」

 妖精と小人は、悪い人間たちに捕まってしまった。

「人質を取るなんて、卑怯よ!?」

「卑怯? 悪党にとっては誉め言葉よ。へっへっへ。」

 邪な人間たちは、弱みを握れば相手が抵抗できないと知っている。

「さあ、刀を捨てて、おじさんたちと仲良く遊ぼうか。飽きたら妓楼に売ってやるぜ。へっへっへ。」

「ククーッ!?」

 カロヤカさんは、捕まった者たちを助けるか、悪党を倒すか、良心の呵責に悩む。

「決めたわ。」

 カロヤカさんは覚悟を決める。

「鬼を捕まえに来たら若い娘も手に入るなんて、一石二鳥だな。まるで正月と盆が同時に来たみたいだ。へっへっへ。」

 邪な人間たちは成果の多さに笑って喜ぶ。

「おい。何を言っているの。どうせ刀を捨てたところで、あなたたちは皆を解放しないだろうし、私が決めたのは、あなたたちを倒すことよ!」

 カロヤカさんは、悪党たちと戦うことを決めた。 

「なんだと!? こいつらがどうなってもいいのか!?」

 予想外の展開に慌てふためき、妖精と小人は人質だとアピールする。

「正義のために死んでちょうだい!」

 カロヤカさんは、悪には屈しない。

 カロヤカにお任せあれ。 

 つづく。

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