第5話 人魚伝説

「何々? どうしたの?」

 カロヤカさんたちは、小鬼を探して旅を始めた。

「人がたくさんいるわね?」

「分からないから何があったのか、誰かに聞いてみよう。」

 妖精と小人も人だかりに興味津々であった。

「すいません。何かあったんですか?」

「人魚だ!? 人魚が現れたんだ!?」

「に、人魚!?」

 人だからりの正体は、人魚の噂をする人々だった。

「近所にある人魚の湖には、人魚が住んでいるという伝説がある。」

「でも、ただの伝説なんでしょ?」

「それが、最近になって、湖で泳ぐ人魚を見たという者が何人も現れたのだ。」

「ゲッ!? それって、まさか!?」

 カロヤカさんは、何かを思い出した。

「そういえば、最近、寝言でマーメードと言ってしまったような記憶が。」

「それよ。マーメードは人魚だもの。」

「犯人は、カロヤカさん。おまえだ。」

「アハハハハ。」

「笑って誤魔化すな。」

「すいません。」

 人魚を呼び出したのは、カロヤカさんだった。

「良かったですね。湖に人魚が戻ってきて。」

「そうとは限らん。」

「えっ?」

「人魚に出会えば、願い事が叶うといわれたり、人魚の涙はダイヤモンドになるという人魚伝説がある。」

「人魚伝説!?」

 人魚とは、伝説の生き物で半人半妖であった。

「お金儲けに人魚を利用しようという、邪な人間たちが人魚を捕まえに各地から集まっているそうだ。」

「何ですって!?」

「ああ~嫌だね。物騒な世の中だ。」

「そ、そんな!?」

 カロヤカさんは、人魚の危機を知ってしまった。

「助けよう! 人魚さんが悪い人間に捕まってしまう前に!」

「そうね。どうせ、カロヤカさんが寝言で呼び出したマーメードだもんね。」

「いたたたたたた、それを言わないで。」

「人魚伝説もいいけど、我々、小人と妖精も伝説の生き物だぞ?」

「はいはい。機会があったら、あなたたちの伝説もやってあげるから。」

「やったー! 人魚を助けに行こう! 出発だ!」

 カロヤカさんたちは、人魚を助けるために、人魚の湖に向かうのだった。


「うわあ!? 人がいっぱい!?」

 カロヤカさんたちは、人魚を捕獲しようという人々が集まっている人魚の湖にたどり着いた。

「カロヤカさん、喉が渇いたから、そこの茶店でお茶にしましょう。」

「そうね。」

 カロヤカさんたちは、旅の疲れを癒すために茶店に寄って休憩することにした。

「うわあ!? 茶店も人がいっぱいだ!?」

 茶店も人魚伝説に引き寄せられた人々で混雑していた。

「お客様、何名ですか?」

「3・・・いえ、1人です! 1人!」

 カロヤカさんは咄嗟の判断で自分は1人だと言い放つ。

「1名様なら相席で良ければどうぞ。」

「はい。ルンルルン~。」

 1名なのでカロヤカさんは席に通してもらえることになった。 

「ケチったわね。」

「まあまあ、おかげで待たずに席に座れるんだから。」

「お茶は3杯頼んでもらおうか。」

「はいはい、分かりました。」

 ちゃんと1人間1妖精1小人と言ってもらえなかったので、少し機嫌が悪かった。

「プハ~! 美味しい!」

「癒されるわ!」

「水! 水だ! 命の水だ!」

 カロヤカさんたちは、お茶を飲んで休憩を満喫していた。

「いい飲みっぷりですね。」

 その時、相席の男がカロヤカさんに声をかけてきた。

「ナンパですか!? やめて下さい!」

「違います!? 混雑している店の中で、皆苛立っているのに、あなたたちが騒がしいんです!」

「え?」

 カロヤカさんは店内を見渡してみた。

「ギローン!」

「ギラギラギラ!」

「ギョ!?」

 店内には、人魚を釣って一儲けしようという血の気の多い猛者が集まっていた。「すいません。静かにします。」

 カロヤカさんは、あまりの恐怖に早々に白旗をあげた。

「私は大嶽丸。あなたは?」

 相席の男の名前は、大嶽丸。

「軽井沢花です。みんなは私のことをカロヤカさんと呼びます。」

「カロヤカさんか、いい名前ですね。」

「はい。お母さんがつけてくれたんです。」

「素敵なお母さんですね。一度お会いしたい。」

「え・・・。」

 カロヤカさんは黙ってしまう。

「どうかしましたか?」

「実は、私のお母さんとお父さんは死んでしまったんです。」

「ええ!? すいません。余計なことを聞いてしまいました。」

 大嶽丸は、カロヤカさんに謝る。

「いいんですよ。知らなかったことですし、私は大丈夫ですから。アハハ。」

 カロヤカさんは、両親の死を受け入れ気丈に振る舞う。

「カロヤカさんは、お花畑の鬼伝説を知っていますか?」

「お花畑の鬼伝説?」

「昔々、お花畑には鬼の家族が平和に暮らしていました。しかし、ある日。お花畑に侍がやってきて、お父さん鬼を倒す、という伝説です。」

 大嶽丸の話は、どこかカロヤカさんの行動と似ていた。

「そ、そんな伝説があるんですね。」

「最近できたらしいですよ。なんでも仲間が倒されたということで、鬼の頭領の酒呑童子も侍を見に来たそうです。」

「そうなんですね。アハハ。」

(わ、私のことだ!?)

 カロヤカさんは顔で笑いながら、心の中ではビビって動揺していた。

「それにしても心配ですね。」

「え?」

「強いお父さん鬼のいなくなったので、弱いお母さん鬼と小さな小鬼が、悪い人間に襲われていないか。たくさんの人間が残された鬼の家族を捕まえに向かったらしいですよ。」

「そ、そんな!?」

「人間は自分と違うものは許さないんですよ。それにお金になるものであれば何でも欲しがる。鬼も例外ではありません。鬼は力が強いので金山採掘の奴隷になるので高値で取引されていると聞きます。」

「酷い!?」

「また家族を殺された者は、復讐のために鬼の家族を襲うでしょう。」

 グサッ。カロヤカさんは(私のことだ。)心の中で、大嶽丸の言葉が胸に刺さった。

「人間は自分より弱い者をいじめますからね。人間は、そういう生き物です。」

 大嶽丸の言葉は、人間を忌み嫌っているようにも感じられた。

 カロヤカにお任せあれ。

 つづく。

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