第4話 私たちの娘

「美味しい!」

 カロヤカさんは作った料理を妖精と小人と一緒に食べていた。

「あなた料理もできたのね。」

「私はカロヤカさん。料理でも掃除でも、何でもできちゃいます!」

「それを世間ではチートと言う。」

 妖精と小人はカロヤカさんの能力に文句を言いながらも、残さずにご飯を食べていた。

「とりあえず、今日は眠って、明日から小鬼を追いかけましょう。」

「ゲッ!? 本気だったの!? リアル鬼ごっこ!?」

「もちろんよ! だって、お父さんとお母さんの仇を討たなくっちゃ!」

「カロヤカさん、最低。」

 カロヤカさんは両親の敵討ちに旅立つ準備をする。


「お父さん・・・お母さん・・・。」

 その夜、カロヤカさんは両親のことを思って大粒の涙を布団の中で流して、眠りについた。

(カロヤカさん。)

(花。)

 その夜、夢の中でカロヤカさんを呼ぶ声がする。

(うん・・・誰?・・・私を呼ぶのは?)

 カロヤカさんは、夢の中で目を覚ました。

(むにゃむにゃ・・・んん!? お父さん!? お母さん!?)

 カロヤカさんの目の前に死んだ、お父さんとお母さんが笑顔で現れた。

(あなたにお別れの挨拶をしていないから、お父さんと一緒にやってきたのよ。)

(花、大丈夫か? 一人にしてしまって、申し訳ない。)

(お父さん! お母さん!)

 カロヤカさんの目に涙が滲んでくる。

(カロヤカさん。これからは何でも一人でやらないとダメよ。)

(無理! 絶対に無理! そんなこと言わないで! お母さんがいてくれないと、私は何にもできないよ!?)

 カロヤカさんの目から涙が零れ溢れて流れている。

(大丈夫よ。あなたはご飯だって、自分で作れたでしょ。あなたは何でもできるわ。だって、私の娘、カロヤカさんだもの。)

(お、お母さん。)

 笑顔のお母さんの自分の娘を信頼している言葉に、カロヤカさんは荒れ狂うことが出来なかった。

(花。)

(お父さん。ごめんなさい! お父さんとお母さんが小鬼に殺されたのは、私が小鬼のお父さんを殺してしまったからなの!)

(私とお母さんは、こうなる運命だったんだよ。だからお父さんとお母さんがいなくなったことで、自分を責めることはないよ。)

 お父さんは、自分の娘が両親が亡くなったことで、自分自身の行動を後悔して、心に棘が刺さっていることを見抜いていた。

(えっと、でも、知らないことにはできないよ。やっぱり私がいけないんだ。)

(もしも花が心を痛めるのなら、今よりも、もっと幸せになりなさい。)

(幸せに?)

(そうだ。花が笑って元気に生きてくれれば、私もお母さんも安心して天国に行けるから。)

(どうやって、幸せになればいいの?)

(どんなに苦しい時も悲しい時も、前に進むことだ。それが幸せになる方法だよ。)

(分かった。私、がんばる!)

 カロヤカさんの涙は枯れ、お父さんの言葉に生きる気力をもらう。

(いいかい? 決して復讐などしないで、良い男性と出会って、私とお母さんのように幸せな家庭を持つんだよ。花、私の大切な娘よ。)

(はい、お父さん。)

 お父さんとお母さんは、娘のカロヤカさんに親として最後の言葉を贈った。

(もう私たちはいかなくっちゃ。)

(私たちは、いつもおまえのことを見守っているからな。)

 お父さんとお母さんは、手を振りながら、天国へ旅立とうとしていた。

(逝かないで! お父さん! お母さん! 私を置いていかないで! 私を一人にしないで!)

 再び、カロヤカさんの瞳から涙が流れる。

(カロヤカさん、愛してるわよ。)

(花、幸せになりなさい。)

(お父さん! お母さん!)

 お父さんとお母さんは、最愛の娘に見守られながら天国に旅立った。

(私たちの元に生まれてくれてありがとう。カロヤカさん。)

(私たちに幸せをくれて、ありがとう。花。)

 姿が見えなくなっても、お父さんとお母さんの声はカロヤカさんに届き聞こえてくる。 

「う、う、うええええええええええーん!?」

 カロヤカさんは夢の中で号泣した。

「この子、大丈夫かしら?」

「無理もない。いきなりお父さんとお母さんがいなくなったのだから。」

「私たちで、カロヤカさんを助けてあげましょう!」

「僕たちで、花に降り注ぐ不幸を取り除くんだ!」

 妖精と小人はカロヤカさんを見守っていこうと決意するのだった。 


「安らかにお眠りください。」

 カロヤカさんは、自分の家に油を撒いて火をつけた。

「本当にいいの?」

「いいのよ。ちゃんと火葬してあげないと、お父さんとお母さんが成仏できないもの。それにお父さんとお母さんは、私の胸の中にいつもいるから。」

 カロヤカさんの顔に、いつもの笑顔が戻っていた。

「さあ! 小鬼を探しに行くわよ!」

「おお!」

 お父さんに復讐はしてはいけないと言われたことを、もう忘れているカロヤカさん。

「あ、忘れてた。」

「何をやっているの?」

 カロヤカさんが燃えている家から、何かを取り出す。

「アチチッチ!? 焼き芋だよん。」

「この罰当たり!」

「僕たちの心配を返せ!」

「いらないなら私一人で食べるもん。ああ~! 甘くてホクホクして美味しい!」

「食べます。私、食べます。」

「僕も食べる。頂戴。」

 カロヤカさんと妖精と小人は旅立った。

 つづく。

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