第3話 両親との別れ

「私の家が見えてきたわ。」

「やったー! ご飯だ!」

「お腹空いたよ。」

 カロヤカさんたちは、カロヤカさんの家にたどり着いた。

「ただいま! お父さん! お母さん!」

 しかし、家から返事はなかった。

「あれ? 誰もいないのかしら。きっと家の中にいるのね。」

 カロヤカさんは家の中に入ろうとする。

「ギギギ。」

 その時、家の中から何者かが出てくる。

「ん、んん!? おまえはさっきの小鬼!?」

 現れたのは、小鬼だった。

「遅かったな。お父さんの仇は取らせてもらったぞ。」

「え? 何を言っている・・・まさか!? まさか!?」

 小鬼は全身に返り血を浴びて血塗れだった。

(その甘さを後で後悔するがいい。ワッハッハー!)

「あ。」

 カロヤカさんは、酒呑童子の言葉を思い出した。

「お父さん! お母さん! いや~!」

 カロヤカさんの涙交じりの悲鳴に返事は帰ってこない。

「花!? 落ち着いて!?」

「しっかりしろ!? カロヤカさん!?」

 妖精と小人がカロヤカさんをなだめる。

「お父さん! お母さん!」

 しかしカロヤカさんは泣きじゃくって今にも家の中に飛び込んでいきそうな勢いだった。

「おまえのお母さんは「花、花」って言って、会いたそうに死んでいったぞ。肉もうまかったぞ。ついでにおまえの父親も殺してやった。」

「お父さん、お母さん。」

「小鬼だからといって、バカにするからだ! 俺を見逃したのが甘かったな! ワッハッハー!」

 小鬼は、カロヤカさんの人間の甘さを指摘する。

「そうね。お父さんとお母さんが死んでしまったのは、全部、私の性だわ。私が子供の鬼だからって見逃さないで、あの時、しっかりと倒しておけば、こんな悲劇は起こらなかった。」

 カロヤカさんは、自分自身の甘さを責めた。

「小鬼でも鬼は鬼。人間とは違う生き物だし、やっぱり鬼と人間が分かり合うことなんてできないんだわ。」

 さっきまで泣き叫んでいたカロヤカさんは冷静さを取り戻し、刀を構える。

「どうしてくれるのよ! 私のご飯は! お腹空いてたのよ!」

「そこかい!?」

「確かにお腹は空いたぞ。」

 カロヤカさんたちはお腹が空いていた。

「いくぞ! 小鬼! 今度こそ本当にお父さんとお母さんの仇!」

 カロヤカさんは刀を振りかざしながら、小鬼に突進する。

「こい。」

 しかし小鬼は逃げようともせずに抵抗しない。

「あなた、なめてるの!? 戦いなさいよ!?」

 抵抗しない小鬼にカロヤカさんの振り上げた刀が止まる。

「もうお父さんの仇も取ったし、思い残すことはない。戦っても小鬼の俺では、人間のおまえには勝てない。さあ、斬るがいい。」

「ムムム!? なんて潔いの!?」

 カロヤカさんは、小鬼の清々しい覚悟を目の当たりにさせられる。

「この小鬼は、騎士道精神を持っているんだわ。」

「鬼にしておくのはもったいないな。」

 妖精と小人も小鬼の気概に感化された。

「私の負けだわ。勝負にも負け、人間としても負けたわ。」

 刀を鞘に納めたカロヤカさんは、本当の意味で敗北というものを初めて知った。

「あなたには、まだお母さんがいるのよね?」

「いるぞ。」

「なら、あなたのお母さんを見つけて、ぶった斬ってやる。」

「な?」

「あなたにも、お父さんとお母さんを失った、今の私と同じ気持ちを味合わせてやる。」

 カロヤカさんは、小鬼に自分と同じ悲しみを味合わせるというのだ。

「カロヤカさん、最低。」

「それが武士のやることか?」

「私、武士じゃないもん。刀だって第一話で初めて持ったんだから。」

「それでも、最低。」

「カロヤカさんは、普段はいつも何をしてきたの?」

「お花摘み。ルンルルン~。」

「やっぱり最低。」

 妖精と小人は、カロヤカさんを見損なう。

「ごめんなさい。」

 カロヤカさんたちが騒いでいると、小鬼が重たい口を開いた。

「俺はお父さんを殺されただけだから、カロヤカさんのお父さんだけを殺せばよかった。カロヤカさんのお母さんも殺して、ごめんなさい。」

「小鬼。」

「俺は、これからはお母さんを大事にして生きるよ。」

「早く行きなさい。私の気が変わらないうちにね。」

 小鬼は、カロヤカさんに軽く一礼して去って行く。

「ありがとう! カロヤカさん!」

「人間に見つかるんじゃないわよ! バイバイー!」

 軽くだが、清々しい笑顔のカロヤカさんと小鬼に絆が芽生えた。

「本当に逃がして良かったのかしら?」

「いいのよ。あの小鬼は、これから私に追いかけられる恐怖を味合うんだから。キラーン!」

「本気でお母さん鬼を倒しに行くつもりだったのか!?」

「もちろんよ。本当の鬼ごっこのはじまりよ! ワッハッハー!」

 さすが、カロヤカさん。死んでもタダでは転ばなかった。

「カロヤカさん、最低。」

「おい。やめろ。」

「え?」

「あれあれ。」

「あ!? カロヤカさんが泣いている!?」

 妖精と小人は、笑っているカロヤカさんの目から涙が流れているのに気づく。

「お父さん・・・お母さん・・・。」

 もうカロヤカさんはお父さんにもお母さんにも会えない悲しみを毅然と噛み締めていた。

 カロヤカにお任せあれ。

 つづく。

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