最終回 秋晴れの舞い(室内)

 前世ものの中には、自分の命日になるとどこかしらが痛むという設定がよくある。

 一年に一度どこかしら痛む。それを前世のせいにするのもありだとは思う。一年に一度やってくるどうしようもない症状、現代医学では我慢してくださいとしか言われない症状というのはあるのだ。

 くしゅん、と俺はくしゃみをする。マスクもめがねもした。薬も飲んだ。それでも治まらないから仕方ない。

 窓は閉め切っている。外は暖かそうな陽光で溢れ、秋の高い空に雲が浮いている。こんな日に外に出たら、さぞ気持ちがいいだろう。よい具合に風も吹いているようだし。

 俺は再びくしゃみをする。

 今日外に出る事はできない。必死の思いで今日の用事を済ませて帰ってきたので、あとは外気を遮断した部屋でじっとしているだけだ。

 なぜ自分が、と思う。それに悩まされていない人もいるからだ。

 顔を上げると洗濯物が目についた。昨日から干していたのだ。もう乾いているだろう。机を立って洗濯物を取り込む。

 理不尽に感じるのは、理由が見つからないからだ。理不尽でなくするためには、理由をつけてやればいい。

 俺は洗濯物をたたむ。

 前世という理由にして納得できるならば、それでいい。理不尽に悩まされ続けるよりはましかもしれない。

 俺の場合、前世はくしゃみで死んでしまったことになるのか。それはあまりにも、なんというか、抜けているというか。

 もう一度くしゃみが出た。

 確かに、くしゃみが止まらないと苦しい。あまりにも止まらないと死んでしまうかもしれない。俺は鼻をかむ。

 洗濯物がなかなかたたみ終わらない。格闘していると、携帯が鳴った。バイブレーションが長い。電話だ。

「もしもし」

「もしもし、Oだけど」

「おお、どうした」

「前世イルカだったんだけど」

 俺は電話を切った。くしゃみをする。再び携帯が鳴った。

「もしもし」

「イルカが」

 俺は電話を切った。夢のあるやつだ、と呟いて、俺はもう一度くしゃみをした。

 ティッシュが切れていた。

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