帰り道、噛めないたい焼き
「噛めない」
Pがそう言ったので、俺はPの方を見た。Pは両手で掴んだたい焼きを睨んでいる。
「きみ、このたい焼きをかじってみてくれないか」
「なぜだ」
Pは困ったように眉を下げた。
「外皮が硬すぎるのか、噛みちぎれないんだ」
そう言いながら外装ごとたい焼きを差し出してくる。俺はそれを受け取った。片手に持ち直して歯を立ててみる。がちん、という歯ごたえがあった。そのまま力を入れてみるも、一向に歯が進まない。
「確かに硬い」
そうだろう、とP。
「このたい焼きは僕たちにどういう食べ方をしてほしいのか、それが問題だと思うんだ」
「どういう食べ方をしてほしいのか?」
俺はPにたい焼きを返しながら聞き返す。
「そう。どういう食べ方を意図してこれは作られたのだろうか」
Pはたい焼きを口にくわえた。
「僕の計算では、このたい焼きは飴のように舐めて食べられることを想定されているとみた」
たい焼きをくわえたまま、もごもご喋るP。
「行儀が悪い」
「ごめん」
Pはたい焼きを持ち替えてぺろりと舐めた。
「やっぱりそうだ。甘い。これは飴の食べ方を想定されていた」
ぺろぺろと舐める。
噛みちぎられていないためあんこの露出もしていない綺麗なたい焼きを、俺とPはその日食べた。
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