ある風の日、Pとの帰り道

 僕の計算によれば、とPはよく口にした。

「僕の計算によれば、彼女はほぼ間違いなくストロベリーアイスが好きだね」

「僕の計算によれば、あの猫は埼玉から来た猫だろうね」

 その言葉を発する時のPは、いつも楽しそうな顔をしていた。

 Pの言うことに頷いてやると、Pはそうだろうそうだろうと嬉しそうに笑うのだった。

 その日の帰りもPはいつものように口を開いた。

「僕の計算によれば、君は今お腹が空いているだろう」

 いや、と俺は答える。

「お腹は空いていない」

「なに? そんなことはないだろう。現に、君は今たい焼き屋台を物欲しそうに眺めていた」

「そういう風に見えたか?」

「隠さなくてもよろしい。ここは優しいP氏が君にたい焼きを買ってさしあげよう」

 そう言ってPは財布を取り出し、屋台に駆けていった。

「たい焼き二つください」

「あいよ」

 たい焼きを頼むPを俺はぼうっと見ていた。制服のカバンの紐が風にたなびいていた。その日は風の強い日だったのだ。

たい焼きを持ったPが駆けてくる。

「ほら、これが君の欲しかったものだろう。遠慮なく食べたまえ」

「ありがとう」

 俺は素直に礼を言った。

「うまいかい」

 口をつける前に訊いてくるP。俺はたいやきをかじった。甘い。うまい、とつぶやくと、そうだろうそうだろうとPは笑った。

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