真冬に思い出す連載
めった刺しにして、電話で人を呼んで、処理をどうしようというところまでは読んだ。そこまでだ。
その小説は連載ものだった。連載されている冊子を友人がよく読んでいて、読み終わった後に「捨ててくれ」と言って俺によこす。すぐに捨ててしまうのももったいないので、俺はなんとなくそれを読んでいた。
去年の冬、俺は引越しをして、友人とも離れてしまった。だもので、その冊子を渡されることもなくなり、自然と読まなくなった。
連載の続きは気にならなかった。あの連載は連続ドラマの定番のようなストーリーで、それを読み続けたからといって何かが得られるとも思えなかったからだ。
俺があれを読んでいたのはひとえに惰性と、いわゆる「もったいない精神」のなせるわざだった。
それから始まった新生活はめまぐるしく過ぎ、俺は順応するのに必死だった。
ようやく慣れて周りを見回す余裕ができたのは、一年経った最近だ。
真冬のコンビニであの冊子を見つけた。友人のよこしていたあの冊子だ。俺は少し懐かしくなって、冊子を開いてみた。
言論屋の話、サラリーマンの話、バイク旅に出る青年の話などの連載があったが、件の連載は見つからなかった。あれから一年も経っているのだ。連載が始まったのはそれよりも前だから、たぶん、終わってしまったのだろう。
俺は冊子を閉じた。おでんを買って、コンビニから出て携帯電話を確認する。メールが一通届いていた。
例の友人からだった。
メールを開くと、近況報告と飲みの誘い。予定は一週間後。
俺は了解の旨を返信した。
『ありがとよ。俺も冊子をやるあてがなくなってちょっとだけ寂しかったからな』
返ってきたメールの末尾には、そう書いてあった。
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