夜が来ぬ間にサツマイモチップスを食べる

「夜が来ないのは、あまりにも君が俗っぽいからさ」

 したり顔で言うPに、俺はつい反駁した。

「俗っぽい、というのはどういう意味だ」

 Pは軽く笑って言った。

「普通の、誰でもわかるようなわかりやすい悩みを抱えてしまうってことさ」

 ああ、と俺は答える。

「わかりやすい説明をどうも」

 例えば君の持っているこの本だ。とPは雑誌を取り上げる。

「禁断のナントカ、と書いてある。わかるかい? 禁断の、とつけば普通の人は気になってしまうだろう。本を開いてしまうわけだ」

 それは俺の本ではなかったが、一応頷いておく。

「そうしてあちらこちらへ飛び火して、その結果」

 Pは瞬きをした。

「夜が来なくなる」

 本をぱさ、と置く。テーブルの上の菓子袋がかさ、と鳴った。

 Pは菓子袋から菓子をひとつつまんだ。サツマイモチップスだ。最近はまっているらしく、Pはそれをいつも買ってくる。

「お前はわかった気になるのがうまいよ」

 と俺。

 光栄だね、とP。

「何事も、わからないよりはわかった方が面白いからね」

さあ、どうだろうと俺。

「なに、わかっていないかもしれない? ……ははん。いいかい、人間には限界があるのさ。所詮我々は『わかった気』にしかなれない。ここ一番の真理を見つけたと思ったって、次の瞬間……そうでなくとも幾百の後……には、色あせているのさ」

 だから人間はわかった気になるのさ、と言ってPは菓子を口に放り込む。

「お前の詭弁はどうかと思うがな」

 俺はPをじっと見る。なんだい、とP。

「……まあ、いいさ」

 そうして菓子を口に入れた。

 うろこ雲広がる秋の話。

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