寒空と「友情」

 あいつが背を向けたとき、あいつは俺を見ていなかった。

 常々あいつは俺を見ない。俺もあいつを見ない。一緒にいるときも、二人して視線を彷徨わせたままだ。

 気が合った、という理由で始まった友情だった。お互いに「みんなで仲良く」が苦手な部類。悪く言えば余り物、になるのかもしれない。

 授業のときだけ一緒になって、それが終われば別れる。授業外で会うのは勉強や課題をするときだけ。無理に遊びに行くこともない、気を遣うこともない、気楽な関係だった。どちらかが寝てしまったときは、起きている方が寝ている方を起こす、なんていう決まりなんかがあったりして、俺たちはまあそれなりにうまくやっていた。

 このまま特に問題もなく、卒業までいって、終われば会うこともなくなるのだろうと俺はぼんやり思っていた。

 あいつと一緒にいる時間はそこそこ充実していた。不満も葛藤もなく、だらだら続く予定だった。

 それが崩れたのは一ヶ月前のことだ。あいつが授業を休んだ。要するに、彼氏ができたのだ。

「別の男といるのはやだって彼がやきもちやくの」

「だからといって社会活動までやめるのはどうだ。明らかにお前のためにならない」

「どうしてもだめなの、ごめん」

 今までありがとう、と言ってあいつは俺に背を向けた。

 あっけない幕切れだった。友情は「彼氏」に負けた。

 昼休み、一人でおにぎりを食べながら時々あいつのことを思い出す。あいつは勉強が好きだった。

 最近は寒くなってきたが、今はどうしているだろう。

 けれどもそんなことは俺の知ったことではない。知る権利もないのだ。

 そう、思って。

 窓の外を見ると、雪が降っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る