省みない空腹
「伝えるのさ、人々に」
はあ、と俺は相槌を打つ。
「科学をね」
再び、はあ、と俺。Qは意に介さず喋り続けている。
「ほら、進んでいないだろう? だから我々が教えてあげなければいけないんだよ」
「そうか。それは大変だな」
じゃあ俺帰るから。そう言って俺は回れ右をする。
「ちょっと待ってくれよ。もう少し話を聞いてくれ」
「嫌だね。そういうのは聞き飽きた。この次はもう少しオリジナリティのある話をもって俺に話してくれ」
歩き出す俺にQはとことことついてくる。
「オリジナリティも何も、科学は大事なんだよ科学は。そもそも完全なオリジナリティなんて存在しないじゃないか、どんなことでも先人の解釈の上に成り立っているんだから。私は先人の肩の上に乗っているだけだって言葉もある」
Qはどこか弾んだ口調で喋りながら俺に並ぼうとする。
「言い方が悪かったな。オリジナリティのある、ってのは、受け売りじゃない、って意味だ」
俺は歩調を速めた。
「そもそも論が好きなら、そもそも科学とは何なのか、お前は説明できるのか」
建物から出て、道路に出る。冷たい外気が俺たちを迎えた。寒いな、と俺は呟く。Qは発明だよとか実験だとか合理的にだとかそういったことを並べている。
「悪いが定義が合わなければそういう話はできない」
考え直してきてくれ、と俺は言った。これ以上、埒のあかない話を聞くのにも疲れていた。
しかし、Qは尚も話し続ける。その表情はやけに楽しそうで、俺はなぜかそれが無性に腹立たしかった。お腹も空いていた。
「帰りたい……」
北風が吹いていた。
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