明日浜辺で腰掛ければ

 ざあ、と波が引いていった。俺はその様子をしゃがんで見ていた。砂がずぞぞという音を立てて引きずられ、貝殻が見え隠れする。

 波を構成する海水の色は目眩がするほど深い。そんなものが押し寄せたり引いたりする様をずっと見ていると、だんだん怖くなってくる。

 俺は気を紛らわせるために、人魚のことを考えることにした。

 今こうしている瞬間にもかわいい人魚がやってきて、俺を楽しい海の世界に誘ってくれるんだ。人魚は初めてあった俺に一目惚れして海藻サラダなど作ってくれたりするだろう。

「もしもし」

 さらに、人魚は俺のプレゼントした陸の植物を気に入って髪の毛につけてくれたりするんだ。

「あのう、もしもし」

 そしてさらに、

「聞こえてらっしゃいますか」

 俺は我に返った。話しかけてきた人物を確かめるために振り返る。

 ビーバーが立っていた。俺の腰ほどまでの大きさだ。

「あなたが座ってらっしゃるその流木、回収させていただきたいのです」

 ビーバーは俺にそう喋りかける。俺は目を瞬いた。

「流木。これかな」

 ビーバーは頷いた。

「それです」

「これを何に」

「無論、ダムです」

 ここ、海だよなと俺は確認するように呟く。するとビーバーはそれを耳ざとく拾い、

「私は趣味のよいビーバーなのです。もちろんビーバーがダムを作るのは川です。ですが、その材料を海に取りにきたってなんの問題もないでしょう」

 ね、と言って首を傾げるビーバー。

 そうだな、と俺も同意する。ビーバーはふふ、と笑うと俺の座っていた流木を引きずって去っていった。

 夏がもう終わりそうなある日のことだった。

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