塗料を剥がす

 公園や校庭に置いてあった滑り台や鉄棒。それらには、必ず塗料がぱりぱりになってはげやすくなっている箇所があった。

 俺はそれらを剥がすのが趣味だった。好きな形に剥がせたときの達成感は何物にも代えられない。

 その日も俺は塗料をぱりぱり剥がしていた。前日に雨が降っていて、鉄棒の青い塗料は少し湿っていた。湿った塗料を剥がすと、隣の塗料もつられて剥げる。ぱりぱりぱりぱりやっていた。

 剥げるところをだいたい剥がし終えたので、顔を上げると、見知らぬ人が俺を覗き込んでいた。青いぼろぼろの服を着て、じっと俺を見ている。

 俺は驚いて、そこから逃げた。その人は追ってこなかった。

 その日から、青い服の人はいつも公園にいた。俺が公園に行くと、じっとこっちを見るのだ。

 何が目的かはわからない。

 引っ越してから、公園には行かなくなったので、その人を見ることもなくなった。

 雨が降ると思い出す。青い服を着て立っていたその人の目が俺をじっと見ていたさまを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る