プライドが阻む夕刻
Fは開きかけた本を閉じた。その本の背表紙と裏表紙には赤い菱形の絵が描かれており、周りには何かが這ったような模様がついていた。
書斎の窓からは西日が射し込み、夕刻の近さを教えてくる。
Fは本を机の上に置いた。閉じたページの隙間から、黒っぽい液体が染み出していた。液体は光に照らされると、ぬめりを帯びた光沢を示す。
本を机に置いたままFは書斎から出ると、扉に鍵をかけた。
廊下を歩くF。窓の外は曇り空で、木々が風に揺れている。Fはふと立ち止まり、考える素振りを見せた。
数秒間そうしていたが、小さく首を横に振ると、もう一度足を踏み出した。その足がずるりと滑る。咄嗟に窓べりをつかむ。
後ろに倒れようとしていた体が安定を取り戻す。Fは自分の足元へ緩慢に目を向けた。
木々の葉がざわざわと鳴った。
書斎は先ほどFが出ていった時のまま。夕刻を過ぎても、机の上の本だけが赤く光を放っていた。
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