尖っているものは箒で掃きます

「いつもありがとう」

「いえいえ、このくらい当たり前です」

 Eは笑顔でほうきを持ち直した。

 快晴の空には太陽が輝き、頂点に向かって少しずつ昇り始めている。

 Eはほうきでガラスの破片を掃き集めていた。一掃きするたびに、ガラスがコンクリート床を引っ掻く音がする。

「もうちょっと丁寧にできるスキルがほしいものです」

しゃがんでちりとりを構え、集めたガラスをそれに掃き入れる。そのガラスをちりとりから丈夫そうな袋へ移す。一通り作業が終わると、Eはよしと言って立ち上がった。

「行きましょう」

 掃除用具を右手、袋を左手に持って廊下を歩く。

 日の射さない廊下を抜け、階段を下り、ロッカーに掃除用具を突っ込む。

 薄暗い部屋の前を通りすぎ、裏口から外に出て50メートルも歩くとごみ捨て場に着く。

「よいしょ」

 ごみ捨て場の戸を引き開け、袋を他の袋の上に乗せ、戸を閉める。がらがらと大きな音がした。

「ふう、やれやれ」

 汗を腕で拭い、建物に戻る道を歩く。Eは空を見上げたり、木の葉の数を確認してみたりしながらゆっくり歩いた。

 アスファルトの道がコンクリート敷きの道に変わる。裏口の手前でEは立ち止まっている。裏口の上、少し右の部屋――さっきEの出てきた部屋である――を、Eはぼうっと見上げていた。

 日差しが強くなる。Eは上の部屋から太陽の方向に顔を向け、眩しそうに目を細めた。

 開けっぱなしの窓から話し声が聞こえる。ぼそぼそと喋る声、それに導かれるかのように笑い声が響いていた。

「無理矢理か」

 Eは太陽にのろのろと手をかざすと、回れ右をした。

「帰るか」

 そう言うと、歩き出す。

 歩きながら下を向いてアスファルトをざっと眺めた。

「まあ、いいや」

 Eは空を見上げ、そうしてまた下を向いた。

 アスファルトが熱を蓄え始めていた。

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