一週間前、絵葉書を渡した
「パリへ行ったのではなかったのですか、あなたは」
「ああ、こっちにも事情ってものがありましてね」
「絵葉書だけ置いていったりして、あれではまるで本当に行ったようではありませんか」
カラスは黙って木の枝を見上げた。桜の木だ。緑の葉が朝日に照らされている。
「ミスリードを狙うのは誠実でないと私は思いますよ」
登校してくる生徒たちが像の上のカラスを不思議そうに見ていく。
「作為的ではありませんでしたか、あなたの行動は」
カラスは像をちらと見る。
「悪気はなかったんだ」
「私は悲しく思いましたよ」
「すまなかった」
像はカラスにしか聞こえないため息をついた。カラスはまた木の枝を見上げる。
「こういう信頼ってのは一度失っちゃおしまいなものだよな」
像は答えない。
「ごめんな」
悪かった、と言って、カラスは飛び去った。
木の葉が風で舞い散らされていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます