一週間前、絵葉書を渡した

「パリへ行ったのではなかったのですか、あなたは」

「ああ、こっちにも事情ってものがありましてね」

「絵葉書だけ置いていったりして、あれではまるで本当に行ったようではありませんか」

 カラスは黙って木の枝を見上げた。桜の木だ。緑の葉が朝日に照らされている。

「ミスリードを狙うのは誠実でないと私は思いますよ」

 登校してくる生徒たちが像の上のカラスを不思議そうに見ていく。

「作為的ではありませんでしたか、あなたの行動は」

 カラスは像をちらと見る。

「悪気はなかったんだ」

「私は悲しく思いましたよ」

「すまなかった」

 像はカラスにしか聞こえないため息をついた。カラスはまた木の枝を見上げる。

「こういう信頼ってのは一度失っちゃおしまいなものだよな」

像は答えない。

「ごめんな」

 悪かった、と言って、カラスは飛び去った。


 木の葉が風で舞い散らされていた。

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