珈琲の味は連続的に変わる

「今日はいったいどうしたの」

 とBが言った。Dはテーブルの前に座ってうつむいている。

「黙ってちゃわからないよ、いつものおしゃべりはどうしたの」

 無駄とも思えるほどのあのおしゃべりだよ、とB。

「君が喋らないと調子が狂う。こっちが喋るなんてめったにないことだよ。いつもは壁相手に話してるんじゃないかと思うほど遠慮がないのに」

 Bは珈琲カップをDの方へ押しやった。

「飲みなよ」

 Dはそのカップを持ち上げ、珈琲を少し飲んだ。

「苦いわね」

「それは失礼。で、何があったの」

 何のことはないわ、とD。

「くだらないきっかけで、私は思い出してしまったの」

Bは自分の分の珈琲を飲みながら、そうか、と相槌を打つ。

「例のことよ。誰にも言えないじゃない。あなたにしか話せない。私だってこんなのよくないってわかってる。だけど、一人で耐えるにはあまりにもつらいの」

 Dは言葉を切って珈琲を飲んだ。Bは黙って砂糖壷を引き寄せ、Dのカップに砂糖を入れた。Dはスプーンでそれを混ぜる。Bは立ち上がって冷蔵庫を開けた。

「それで、君はどうしたいの」

「別にどうしたいってことはないわ。つらいのがなくなればいいだけよ」

「こっちに話を聞かせて、それで君が楽になるってならまあいいけどね」

 牛乳を取り出すB。

「いつまでもそんな調子じゃあ困るのは君だからね。こっちは君がつらかろうが悲しかろうが別に問題ではない」

「それならどうして私の話を聞いてくれるの」

 Bは牛乳をDのカップに注いだ。

「時間があるからだよ。聞かない理由も特にない。それに、君を拒み続けることで調子を悪くされたら、こっちも寝覚めが悪い」

 Bは牛乳を冷蔵庫にしまった。

「今日はえらく喋るのね」

 そう言うDにそのようだね、と返すB。

「いつまでも同じじゃいられないからね、こっちも、君もそろそろ同じじゃなくなればいいのにね」

 Bは砂糖壷を持ち上げた。

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