砂山の砂
何らかのはやり言葉を借りたアピールは、人の心に入りやすいのだろう。もちろん、それは内輪ネタのような閉鎖的仲間意識を醸成することにも役立つ、とDは言った。
Iはその言葉に首をかしげた。はやり言葉なしに会話を進める方法をIは知らなかった。いや、こう書くと誤謬があるかもしれない。はやり言葉を多用した会話こそが「イケるやつ」とされ、はやり言葉を使えない者は「わからないやつ」とされる社会にIは馴染みきっていたのだ。
「結局、自分がはやり言葉を使えないからって嫉妬してるだけじゃないの」
Iは半笑いでDに言った。
「嫉妬? そうかもしれない。だが、仮に僕が嫉妬していたとして、今僕の言ったことがどうにかなるだろうか」
よくわからない、とI。
「よくわからないよ。考えすぎなんじゃない」
投げやりにそう言った。Iは、せっかく作った砂山に水をかけられたような気分だった。
みんなで力を合わせて作った砂山を、Dはいつも台無しにしていく。努力も気遣いもぐちゃぐちゃだ。勝手なことをしないでほしい、とIは思った。
「あんまり考えすぎないほうがいいよ」
そう言って、鞄に荷物を詰める。Dの方はというと、無言でパンを食べていた。
乱暴に鞄を背負い、教室を出る。砂山の砂を疑うなんて愚かなことだ、とIは感じていた。
夏の昼下がりの話。
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