6-3 遠い昔のようで最近の出来事
「……もんどの!アモン殿!」
「……ん?」
どうやらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。
目を覚ますと目の前では異様な光景が広がっていた。
俺のことを心配してだろうか、俺の顔を覗き込んでいたのは牛やらネズミやらの顔をした動物だった。
それだけならまだかろうじて心のセーブがきく。
しかしさらに異様だったのは顔は動物なのにほとんどの者が、顔から下はどうみても人間だったのだ。
俺は思わず飛び上がる。言葉の比喩ではない。
本当に空に飛んでいたのだ。
別に翼を使っているわけではない。ちょっとジャンプしたつもりが、自分が想像した何十倍以上の跳躍力で宙に浮いているのだ。
目の前にどこまでも広がる荒野、真下で俺が突然飛び上がったことに驚いているとんでも人間たち……。
落下する途中でようやく混乱した思考が落ち着いてくる。
そうだ、俺は確か神とかなんかになれるって言われて、それを断って光をくぐったんだったか……。
てことは今荒野のど真ん中にいて変な生物に囲まれてるのは神の要求を断ったことへのあてつけか?
そして、俺は気づく。自分自身もすでに人間の姿かたちを保っていなかった。
手から腕にかけて赤い羽根で覆われ、体は毛むくじゃらの…例えるなら狼のような体をしていて下半身はちゃんと鎧装備をしているという、それでいて羽毛は赤いなんともいえない姿になっていた。
なんだこれは……。
覚醒していく意識と同時に見た目の変貌の衝撃からか激しい目眩に襲われ、地面に足が着いた瞬間そのまま手をつき、崩れ落ちる。
「大丈夫ですか?アモン殿」
「あれですね、寝起き特有の飛びくらみですよね、私もよくなります」
「バカ!アモン殿がお前と同じように飛びくらみなんか起こすわけないだろ!」
「あ、それもそうか」
とんでも生物達は俺そっちのけで、俺の話題で盛り上がっている。
正直かまっている暇はないし、気にしている余裕もない。自分の変化に追いつくのに精いっぱいだ。
少し目を伏せているとめまいはおさまってきた。
「ふう……グ!! なんだこの情報量は!?」
めまいの次はとてつもない頭痛。
頭痛と同時にとんでもない量の記憶と情報が頭に流れ込んでくる。
知らない記憶に、知らない知識、それらがいっぺんに俺自身の頭の中に流れ込んでくる。
「……本当に大丈夫ですか?」
「悪夢でも見たのですか?」
「悪魔だけにか?はっはっは」
うるさい。さっきから黙って痛みに耐えていれば周りでごちゃごちゃごちゃごちゃと……。
「ちょっとはだまれ……!」
俺はほぼ無意識でさっきからうるさかった二人に手を向けると、手首から鋭い刃が飛び出し二人の頭に突き刺さる。
正直そんなことが起きていてもそれにかまっている場合ではない。
やっと頭に流れ込んでくる記憶の波が止まり、頭痛がおさまった頃やっと静かになった飛んでも生物の方に目を向ける。
しかしさっきまでそこにいたはずの二匹? 二人の姿はなかった。
その代わりに元の姿を保っていない刃でめったざしにされ黒ずみになっている何かが底に横たわっていた。
「あ、アモン殿……」
静かに待機していた周りの魔族たちが俺の方を見つめてくる。
いつの間にか手首から射出していた刃は、血まみれになっていた。
誰の血かなんて言うまでもないし、考えるまでもない。
やばい、やっちまった……。
一応あいつら仲間だったわけだよな? そんな奴らを問答無用で殺しちまったとなると白い目で見られて当然かもしれない。
場に流れる不穏な空気……
しかしその直後、周りのものの笑い声で不穏な空気は霧散され、和やかな空気に変わる。
「さすがアモン殿!」
「自然な流れで任務に使えない役立たずを始末してくれるとは!」
……は?
「本当に参っていたんですよ。今回の任務にはいらないと」
「ええ、それなのに口だけは立派。咎めようにもこっちの話を聞かないから会話すらできない」
「アモン殿もそんな二人に辟易としてらしたんですな」
アモン……それは俺だ。
俺に向かってお膳立てするそろいもそろって動物の顔を持つ魔族を無視して、今の状況を整理しようとした。
どうやら俺は転生してこの『アモン』の体になってしまったようだ。
正確にはなったというよりこの体をのっとったといったほうが正しいか?
アモンは以前からこの世界に存在していて、突然その体の主導権を俺が握ることになった。
そして今さっき流れ込んできた情報量と記憶は俺が乗っ取る前のアモンの記憶……。
ただどう思い出そうとしてもどうして今この荒野にいるのかが思い出せない。
何かの任務であることは間違いないが、それにしてもどうしてこんなへんぴな場所にある荒野に魔族がずらずらといるのか。
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