3-8 大収穫の大満足
「これ全部、予備もあるならそれも含めて……いくらだ?」
「……金貨2枚だ」
「またまたぁ、貴族も買わないがらくたなんだろ? 本当はいくらだ?」
「……金貨1枚でいいよ」
あら意外と早く諦めたね、倍額ぼったくってたとは、このおっさんも商売人ってとこだな。
まあこれでもぼったくられてたとしても、予備プラスカクテル道具が揃うんだから文句はない。
「まったくそんなもん、多く買って何に使うんだか……」
「まあ悪いようにはしねえよ」
「ま、こっちも処理に困ってたんだ。在庫処分が金貨になったと考えれば悪くねえ」
「しかし勇者の遺物となればもっと売れそうなもんだけどな」
使えなくても飾りにならなくてもどこぞの貴族とかは買っていきそうなもんだが……。
「ま、大々的に勇者の遺物として宣伝してるわけじゃないし、うちはメインはガラス細工だ。ステンレス物は売れねえよ」
おっさんは物が売れて嬉しいのか手を振りながら笑った。
おお表情筋がまた動いた……。
「まあおっさんが気にしてないなら俺はなんも言わねえけど」
俺としても安くカクテル道具が揃ったのだから何も言うことはない。
つまりウィンウィンってとこだ。
「さてと……」
俺はおっさんから受け取ったカクテル道具をまとめて片手で持つと、ずっと放置していたリリスの方に振り向いた。
「大丈夫か? 手、疲れたろ」
「いえいえ、上手くまとまったんですか?」
「うますぎるくらいな」
リリスに近づき、空いてる片手で彼女に渡していた食物を受け取る。
「それじゃちょっと見てみるか?」
そう言いながら店の中のガラス細工に向かって指さす。
「いいんですか!?」
「ああ、散々待たせたからな」
リリスのキラキラとした顔を見て、思わず苦笑いを浮かべてしまう。
よっぽど触ってみたかったのか?
「好きに見てみろ」
俺の一言を皮切りにリリスがとてとてと、店内をあるきはじめる。
しかし……。
「嬢ちゃんあぶねえ!」
「バカリリス!」
「きゃ!」
リリスがつまづいて目の前のガラス細工に突っ込みかけるとおっさんが叫び、俺がリリスの首根っこをつかみ、なんとか大惨事を免れる。
そうだった、こいつはリリスだ。物を持っていようがものを持ってなかろうが、大惨事になりかねないのだ。
そんなことを考えてるうちにもまたおっさんのがなり声が店内に響く。
そんなやり取りを何回か繰り返して、俺はグラスをいくつか購入した頃「もう勘弁してくれ!!」というおっさんの悲痛の叫びとともに、俺達は店から追い出される形で店を出た。
「いやぁ満足満足」
両手に大量の戦利品を持ってアガルタの街を出る。
空は既に茜色。日は沈みかけている。夕暮れと言うよりは夜手前ギリギリと言ったところか。
遅くなったが、それでも俺は今回の買い出しは大満足だった。
特にカクテル道具と各グラスが揃ったのが何よりも大満足だ。
これで何も気にすることなく、カクテルバーを開店できるってもんだ。
「すいませんでした……」
俺とは対照的にリリスの顔色は優れない。
やはり最後のガラス細工店での出来事を気にしてるんだろうか。
「気にすんな、たのしかったろ?」
「それはそうですが……また迷惑を……」
「迷惑ねぇ、もう慣れた」
「慣れた!?」
リリスの驚いた顔がどこか面白くて、荷物を片手でまとめて持ち直し、空いた片手でぐしゃぐしゃとリリスの頭を撫でる。
そんな彼女はそこでようやくほっとしたような笑みを浮かべる。
「あ、アモンさん! 片方持ちますよ!」
「いやそれはいい」
俺はリリスの提案を即答で拒否し、道外れに向かって歩く。
「あれアモンさんまさか……?」
「多分リリスが考えてることは間違えてないよ」
「どうしてもですか……?」
「どうしてもだ」
今から半日かけて歩いて帰るなんて日を跨いでしまう。別に体力的にはなんら問題はないが、精神的には違う。
そうなれば帰りは最初から飛んで帰る以外の選択肢はない。
「大丈夫か? リリス」
「もう諦めました……」
リリスのさっきの柔らかな表情はどこへやら今は落ち込んだ顔を隠そうともせず見せている。
まあ隠さない所とか距離は縮まったとプラスでとるべきか?
十分に人通りがない場所に着くとリリスに透過術をかけてもらい、そのまま彼女を背中に乗せて飛んで帰った。
行きより早く飛んだから一刻ほどで帰れたが、その時のリリスの叫び声は道行く人に聞こえていたんじゃないだろうか……。
まあ攻撃されず無事に帰れたわけだし、気にする程でもないか。
家に着いた直後、リリスは倒れたけど、まあ……気にしない気にしない。
かくしてアガルタでの資材調達は大成功に終わり、次は……いよいよ……バー開店だ!!
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