3-7 思いがけない情報と道具
綺麗なガラス細工の扉を開いた先にいたのは、無精髭を生やしたむさいオッサンだった。
「……似合わねえ」
ガラス基調で施された店内もそうだが、オッサンがムスッとした顔で座っている椅子は、どこぞの貴族が持っていそうなステンレスにガラスが散りばめられた椅子。
思わず口から漏れ出た一言も仕方ないというものだ。
「入るそうそう喧嘩売ってんのか」
おっさんは大して表情変えることもなく気だるげに呟く。
おっさんに構ってる暇はない。
俺は手に持っていた野菜やら果物をリリスに手渡す。
「リリス」
「はい?」
突然大量の荷物を渡されたリリスはキョトンと首をかしげながら、俺の方を見る。
ただその目は周りのガラス細工見たさにキョロキョロしていた。
「絶対に、絶対にそれを持っている間1歩も動くんじゃないぞ」
「え、でも……」
リリスは相変わらず店内のものを見ている。
普段見ることがないガラス細工が気になって仕方ないんだろうな。
「でもダメだ」
「……はぁい」
リリスは少ししょぼくれたようにしゅんとした顔を見せたが、俺の言うことを破るつもりはなさそうだった。
うん、そうしてると小動物みたいで可愛いんだけどな。
あんな大荷物を持った状態で1歩でも動けば大災害だ。
予感ではなく間違いなくそうなる。
「さてと……」
リリスへの忠告へも終わったことだし、残すは本題だけだ。
しかしガッカリしすぎろリリスのやつ。そんなに触ってみたかったのか?
後で時間とってやるか。
「それで兄ちゃんは何しにしたんだ、冷やかしか? なら帰れ」
さすがにしびれを切らしたのかおっさんが一気にまくし立てる。
ただし怒気がこもってないので説得力はなし、めんどくさそうな感じしかしみ出ていない。
「いや、店の前にあったシェ……ショーケースの中にあったやつ、あれは?」
「ああ、大昔の異世界人が残した残骸だな」
「異世界人!? そんなのがいるのか?!」
あんなものをこの世界に持ち込んだ異世界人……そんなのシンパシーしか感じない。
「ああん? 兄ちゃんそんなのも知らないのか、今の平和なこの国があるのは異世界の勇者のおかげだろうが」
異世界の勇者ねぇ……。
どうやらここに来たのは正解のようだ。
カクテル道具だけじゃなくて、俺の知らない知識をこのおっさんは持ってる。
「で、その異世界人はなんで勇者なんだ?」
「なんだ、異世界人は知らないのに勇者の意味はわかるのか」
勇者ってあれだろ? 某可愛いスライムが出てくるゲームの主人公、世界を救うヒーロー。
「勇者はソロモン王を改心させたんだよ」
「はあ?」
「ソロモン王は元々この世界を破壊しようとしていたらしいぞ」
「そんなのいくら改心したって、王様になるのは世間が許さんだろう」
「まあ実際に世界を破壊した訳でもないしな。それに伝わってるおとぎ話は勇者が魔王を倒したって言う話だけだ。ソロモン王が誰も魔王だなんて考えないさ」
元魔王が大国の王様かよ……。
「おっさんはどうしてそんなこと知ってんだよ」
「兄ちゃんは人のプライバシーにずかずかと踏み込んでくるな」
おっさんが若干苦笑いを見せる。
おおこのおっさん、表情筋動くんだな。
「俺の祖先が異世界の勇者の友人だったらしい。それで内々に伝わってるってわけだ」
内々なら戯言くらいで世間には広まらないってわけか?
「しかし、なるほどな……」
俺はそこまでのおっさんに話を聞き、今一度シェイカーに目を向ける。
「その異世界人に教えられたもので作ってるってことか……」
「そういうこった。ま、なんの役にも立たないし、飾りにするにしても映えないからな。全然売れねえよ」
「他にああいうもんはあるか?」
「あそこだ」
おっさんが指さしたのは店の奥、誰も目につかないような場所にある机の上だった。
「お、お、おーー!!」
俺はほかのガラス細工に目を向けずに一直線に向かう。
「アモンさん!?」
「動くなよ!」
「は、はい!」
リリスは俺の豹変ぶりに近づこうとしていたがとっさにそれを阻止する。
そして目的の場所にたどり着き目の前に並んでいる物を眺める。
スクイーザー、メジャーカップ、バースプーンまで揃ってやがる。
このおっさんの祖先の友人、異世界人とはいい酒が飲めそうだ。
「なんだそこら辺のもんは形も良くないから飾りには適さないぞ?」
「これはかざりじゃねえ」
「飾りじゃない? そんなもん何に使う」
「全部買いだ」
おっさんの言葉を途中で遮り、言い放つ。
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