3-4 飛翔と悲鳴

「街……ですか」


リリスは考え込むように顎に小さな手を当てて考え始める。


あれだけ歩いてきたのだ、首都ヘルへイムからはかなり離れてるはずだし、そもそも俺はあそこには行けないだろう。


「この辺りですと……アガルタが一番近いです。すごく大きい街です」


アガルタ……俺はその名前に覚えがあった

アモンも訪れているのだ。

そこは技術進歩が進み、首都ニブルですらなしえなかった魔族と人との共存を可能としているのだ。


ニブルが魔法の都市ならばアガルタは科学の都市と言えるだろう。


「革命都市か……」


「はい、いきますか?」


とりあえずここでずっと立ち止まっていても飯はやってこないだろうし、色々と欲しいものもある。


「いってみるか」


そうして俺は革命都市アガルタを目指して歩き始めた訳だが……。


「全然見えてこないな、でかい街」


「すいません……商人の話を盗み聞きしただけだったので、実際に行ったことはなくて……」


出発して2の刻……つまり2時間くらい経っているのだが、街は一向に見える気配がない。

周りに見えるのはいつまでも変わらない野原ばかりだ。


「商人からの盗み聞き? そんな危ない真似よく出来たな」


「私透過能力があるので、それを使って色んな人の話だけは聞くの得意なんです」


「透過能力ねぇ……」


「まあ認識されると解けてしまうんですけどね」


「なるほど、戦闘にはあまり役に立たないな。不意打ちくらいか」


「はい、私たちには不意打ち一撃を誰かを倒せるほどの力なんて持ってませんし」


「ふーん」


待てよ、透過能力?


「その能力ってどのくらいの時間使えるんだ?」


「え? まあ消費魔力も少ないですし、誰かに認識されない限りはずっと……」


「それは例えば俺含めて透過することは可能か?」


「出来ると思います」


「よし今使ってくれないか」


「へ?」


いいことを思いついた。

俺の不敵な笑みを見て訝しげに思ったのかリリスは少しの間立ち止まって考える素振りを見せていたが、その後ゆっくりと頷いた。


「分かりました。『透過』」


その瞬間隣を歩いていたリリスの姿が見えなくなる。


「へー、これ大したものだな」


俺は素直に感心していると、背中になにか触れた。


俺はとっさの反応で刃を構え後ろを振り向くと、何故か意地悪気な笑みを浮かべているリリスが立っていた。


「なんだリリスか……」


俺はリリスの姿を確認すると刃を納める。


「わざわざ後ろに回り込むことないだろ、冒険者かと思ったぞ」


「すいません、思わずやりたくなってしまって」


なんだ、血でも騒いだのか?


「ところでこれ今って……」


「はい、2人とも透過してます」


「へー、案外変わらないもんだな」


俺は自分の体を見るが透けてるような感じはしない。


「それで透過してどうするんですか?」


「ん? こうするんだよ」


俺は変化を解き元の姿になるとそのまま飛び上がった。


そしてそのままリリスの首根っこをつかみ、一緒に浮上する。


「へ? きゃーーーー!」


「叫ぶな! ばれるだろうが!」


「だって、だって飛んでますー!」


俺は軽く溜息をつきながらも、どんどん浮上していく。

浮上している途中でリリスを自分の背中に移動させた。


「こっちの方が早いだろ」


「それはそうですけど……」


リリスは余程怖いのか俺の首を絞めるくらいの勢いで掴まり、涙声だ。


「じゃ行くか、スピード出すぞ」


俺は十分な高さまで飛翔するとアガルタがあるであろう方向に向かって一気に加速した。


「ちょ、アモンさん、ちょっと待って! 待ってぇぇぇぇ!!」


リリスの悲鳴もお構いなく俺はどんどんと加速して曇天の空の下を飛び抜ける。


そうしてそれからさらに2の刻後、俺達は大きなドームの前に立っていた。

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