3-2 終わらない悲劇
そして、1週間後……
「やっとできた……」
あまり眠らず、そしてほとんど何も食べずに動いたおかげか、足踏みをしたわりにはわりかし早く改造することができたんじゃないだろうか。
目の前に堂々と立つ木造の家……。
草原にぽつんと建っている小さな家。
しかしそれは俺にとっては十分なほど立派で大きな家。
これを俺とリリス2人で作ったのか……。
「きゃっ!!」
1人玄関前で感傷に浸っていると、家の中から振動音とともに不穏な声が聞こえてきた。
「……あいつ!」
俺は壊さないように静かに扉を開けると、リリスの悲鳴がした方に走っていった。ゆっくりと。
いや誰かさんのおかげで補強しまくってるからそう簡単には壊れないよ?
壊れないとわかっててもできたてホヤホヤなのだ。
丁重に扱いたくもなる。
しかし悲鳴の元にたどり着いた俺の目の前では、悲惨な光景が広がっていた。
「すいません!完成したテーブルをせっかくだから拭こうと思ったら……!」
リリスは部屋の真ん中で、ぶっ壊れたカウンターテーブルの破片の真ん中で涙目で座り込んでいた。
「テーブルをふこうと……ねぇ。おい……その手に持ってるものはなんだ?」
「釘が飛び出ていたので金づちで戻そうかと……それと、ヤスリを使えばもっとテーブルがきれいになるかと……」
リリスの手にはしっかりとヤスリと金づちが握られていた。
涙目の女の子が持つにはあまりにも物騒すぎる。
「またかなづちか!!お前は金づち持つの禁止だ!」
「すいません! 片付けてくる!」
リリスは立ち上がると俺とは反対方向に走っていった。
「おい、リリス!! 走るな!」
俺の心配は見事に的中し、リリスは走った先にあった椅子に足をひっかけてその場に派手にすっ転んだ。
そこからは俺の動体視力の高さのおかげか、脳の処理能力の高さのおかげか分からないが、目の前で起こることがスローに見えた。
どういう原理なのかリリスが引っ掛かった椅子は、見事に宙を舞った。
そしてこれまたどういう原理なのか地面につくと同時に四つの足が見事に折れた。
「…………」
「す、すいません……」
「……リリスー!!」
俺はこの1週間でリリスに一切の気を使うことをやめていた。
気を使っていたらリリスを止めることは出来ない。
いやリリスが乱暴だとか暴れ回るとかそういうことは一切ない。
ただ目を離すとすぐに今起こったような惨劇が何度も起こってしまうのだ。
その度にこうやって怒鳴り散らしているうちに、距離感なんてものはとっくに無くなっていた。
俺一人だとむしろもっと早く終わってたのかもしれないが、時間がかかった分これだけ距離を縮められたのだろう。
それなら結果的にはプラスマイナスプラスというところだ。
これからのことを思えば……。
俺達はテーブルと椅子を修復すると、その直したばかりの椅子に腰かける。
「なあ……腹減ってないか?」
「確かにお腹すきました……」
この一週間リリスに教えてもらった周りに生えていて食べられる野草しか口にしていない。
さすがに腹も減るし、リリスに関しては身体的につかれることの無い俺のペースについてきていたのだ。
彼女の身体的負担もかなりのものだろう。
現にリリスはお腹がすいていると言いつつも、テーブルに顔を埋めてさっそくスヤスヤと眠り始めた。
思わずそんなのんきな姿に笑ってしまいながら彼女の頭を撫でる。
「まあリリスも俺もよく頑張ったな」
「……あい」
全く寝てるのか起きてるのか、眠りながらも律儀に返事をするリリスに思わず笑みが深まる。
そして俺も猛烈な眠気に誘われ、意識をいつの間にか手放していた。
こうして俺達はようやく古民家の修復と改造を終えて一息つくことができた。
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