第3章 カクテルバー開店に向けて

3-1 ドジっ子幽霊

こうして俺とリリスの木屑の山もとい元古民家の大改造が始まった。

もはや改造というより1から建築だ。


幸先は不安しかないが、やるしかない。

ふと隣を見ると既に気を持ち直したのかリリスが気合いの入った表情で両手を強く握りしめていた。


「ダメ元で聞いてみるが……」


俺は特に期待もせずに頭を掻きながらリリスに尋ねる。

この体になってから自身の頭に触れることがふえた。骨だけで妙につるつるしてるからなんというか……落ち着くのだ。


「ありません。こんなこと初めてなので……」


リリスは少ししょぼくれたようにまた俯いてしまう。

せっかく出ていたやる気をそいでしまったか?


「まあじゃあ……ボチボチ直していくか」


こうして俺たちは古民家の大改造にとりかかった。



しかし俺の不安は的中する。別の意味で……。


リリスがドジをしまくるのだ。

それはもうどうしようもないドジだ。

恐ろしいほどにリリスは不器用だった。


骨組み作りは空中を飛べる俺が主になってやったからそれほど目立ちはしなかった。


それでも……


「この木って元々こんなバキバキだったっけ?」


「すいません……私が落としちゃって……」


「ま、まあどっかには使えるだろ」


こんな感じですこーしのミスはあったが、2人とも初めてにしては上手くいっていた。

ほとんど俺の力にものを言わせていたのだが……。

まあ問題なのはそこじゃない。


問題なのは外装作りに取り掛かってからだった。


ドーン! バキバキ!


ほら、ちょっと目を離した隙にまたこれだ。


俺は溜息をつきながら屋根の瓦取り付け作業を中断し、1階にいく。


だいぶ形になっていたはずの1階は、謎の煙によって現状がほとんどわからない。

そして煙が晴れると同時に部屋の中心で上半身しかない……いや彼女は元々上半身しかないのだが……。

上半身から下が床に埋もれて涙になっているリリスの姿があった。


「リリス……! なんでまた床がぬけてるんだ!」


俺はボロボロの床に足がつかないように宙に浮きながら部屋であった残骸の中に入る。


床が完成しかけていた1階の一室は物の見事にリリスを中心にどデカい穴があいて崩壊しかけていた。


「すいません!また落ちました」


リリスは涙目のまま俺の方を上目遣いで見つめてくる。

俺はまたため息をひとつつくと、乱雑にリリスの首根っこをつかみ床から引き上げてもちあげる。


「ひゃっ!」


リリスは一瞬驚きながらも暴れることはしなかった。

これ以上暴れられたらどこが壊れるか分かったもんじゃない。


「ここ何回も補強してるんだぞ?」


俺はゆっくり自分に諭すように彼女に話しかける。


「金づちを落としたらぬけちゃって!」


リリスは手をわたわたさせながら必死の弁明をしていた。


「どれだけ重い金づちなんだよ!」


落としただけで床が崩壊しかける金槌があってたまるか!

リリスさん実は俺より怪力とかそんなオチないですよね?


「……はあ」


またやり直しだ。

こんなのは正直序の口だ。

外装作業に取り掛かった直後は何度も何度も壁も床も崩壊した。

よく今まで崩れてこなかったものだ。よくリリスはこんなミスばかりして生きているものだ。


まあその頃に比べれば……まだマシなほうだろう。

俺はそう思うことで自分の気力を保つ。


「すいません……」


リリスは俺に持ち上げられたままの状態でしゅんとしてみせる。


そう1番たちが悪いのはリリスに一切悪気はないのだ。

リリスは一生懸命にやってくれている。


「しょうがない。もう1回補強するか……」


そんなリリスの姿を見て怒ることなんてできるはずもない。


「すいません……」


「……ま、気にするな。補強すればするほど壊れにくくなるんだし、いいことだろ」


「でも……」


「あー!もう! 反省してるのはわかったから修繕してりっぱな店建てるぞ!」


俺はリリスを比較的安全そうな床に下ろすと、俯いている彼女の頭をがぐしゃぐしゃと撫でる。


リリスは少しくすぐったそうに首をちぢめたが、俺が彼女の頭から手を離すと、気合が戻ったのか満面の笑みで俺の方を見た。


「はい! 頑張ります!!」


リリスはまた両手を前に拳を握るとトテトテと走り、床だった場所に落とした金槌を拾いに行く。


「まあ……いいか」


そんなリリスの様子を見て俺も気合を入れ直し屋根の修復作業に戻った。



数分後……

ガシャーーン!!


「リリスーー!!」


「ごめんなさーーい!」



こうして同じ箇所の補強を何回も何回もして足踏みをしているうちに、何日も日は過ぎていった。

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