2-5 最強と最弱の決意
「いつまで泣いてるんだ……」
リリスが崩れ落ちてから、しばらく経ったが彼女ははまだ俺の目の前で体を震わせていた。
「いや泣いてないです」
泣いてないならなんで体も声も震えてるんだ?
俺の方を見上げたリリスの顔は青ざめ、唇は真っ青になっていた。
「……寒いのか!」
俺は今さら自分が来ていた上着を脱ぐとリリスに手渡した。
全く気が利かない。むしろ俺自身上着なんて必要ないのだ。
体は羽毛に包まれてるから裸体を見せるなんてことはないし、体は常に熱を帯びているから寒さを感じることは無い。
ただ普通の人間と同じ感覚を持っているのであろうリリスからすればこの気候は寒いに違いない。
「すいません……ありがとうございます」
俺の上着を着て頭を下げるリリスに手を振りながら、頭をかく。
リリスの異変に全く気づけず、自分の無知さを恥じた俺は、リリスの謝意を素直に受け取れなかった。
それから近くの葉っぱを集めて、指先から炎を出し、焚き火を作った。
やっぱりどう考えても俺以外の人達はここの環境はかなり寒いんだろうな。
「炎の波動を使えるなんてかなり強いんですね」
「これ波動なのか?」
まあ強いことは否定する気もないが。
俺は焚き火の前に両手を向け、ちょこんと座っているリリスを横目に完全に崩れた古民家の周りをうろうろと歩いた。
「これ以上歩きまわるのは辛いな……」
どうせこのまま歩いてもまた腹が減って動けなくなるのがオチだ。
そうなると……。
「この崩れた古民家をどうにかして生活するのが得策だな」
「え?」
「直すか…」
直せるのか? 俺みたいな素人に。こんなボロボロに崩れた家を元に戻すなんてことできるのか?
さっきから俺の独り言を聞いているリリスは目を丸くさせてこっちを見つめている。
そんな彼女の方に体を向けて、少し考える。
「おい、動けるか?」
「……はい」
リリスは俺の言葉を受けゆっくりと立ち上がる。ただ両手は焚き火に向けたままだ。
「手伝ってもらえないか?」
「な、なにをですか?」
「この古民家を建て直すついでに改造しようと思う」
正直この古民家に入って腹を満たしてから少し頭の片隅にあったのだ。
「ここにカクテルバーを建てようと思う」
「かくてるばー?」
「知らないのか……、まあ居酒屋みたいなもんだ。その土台作りと、店の運営を手伝って欲しい」
完全に崩れ落ちた古民家の亡骸をみて俺は固く決意する。
ここに俺の店を建てるのだ。
そして前の人生ではやり遂げられなかったマスターに俺はなってみせる。
誰もが美味い美味いと泣いて喜ぶようなカクテルを作ってやるんだ。
リリスはいつの間にか焚き火から離れていたのかおれの隣にすっと立つ。
彼女の横顔はどこかスッキリしているようで、そこには背筋を伸ばした凛々しい少女の姿があった。
リリスがこちらを向く。
「……この命はあなたに助けられたのです、それに私には今生きる目標なんてなかったのです。私でよければお好きなだけお使いください」
リリスは俺に向かって深々と頭を下げてきた。
「ああ、よろしく頼むよ」
俺もリリスに頭を下げる。
一緒にこのボロボロの家とは呼べない瓦礫を再建するのだ。
それに付き合わせる相手に上からなんて言えるわけなかった。
立場は同等じゃないと割に合わない。
こうして俺とリリスの幸先見えないカクテルバー営業への道が始まった。
そんな大層なことをした覚えはないけどな。
俺はこの古民家を改造してあることをしようと考えていた。
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