2-4 悲しい幽霊の独り復讐劇


「うそ、今までこんなことなかったのに」


「そんなに俺が重かったのか…」


俺の言葉に急に顔を赤らめてそわそわし始めるリリス。

俺は空中でリリスをお姫様抱っこの要領で抱えあげていた。


「あ、すいません、重いですよね」


「それはない」


事実リリスは体重があるのかという程に軽く、そして華奢だった。


俺は古民家の前に降りるとリリスをその場に降ろす。


目の前にちょこんと立ったリリスは思い詰めたような表情で俯いていた。


「なんで……なんで会って間もない私なんかを助けてくれたのですか?」


俯きながらもはっきり聞こえる声でそう尋ねてくるリリス。


「だって…あのままだったら下敷きになってただろう、それなら助けるだろう」


「この世界ではそれでも助けられないことなんて当たり前のことなんです!」


たしかにこの世界に来てから、1人で放浪し始めてから誰かに助けられたことは無い。


「この世界がどうとか知らんが、俺にとって当たり前のことをしただけだ。それに目の前で下敷きになっても目覚めが悪いしな」


俺は頭を掻きながら質問に答える。

正直なんで助けたかなんて当然だからという答えしか出てこない。


「私は……私は死んでもよかったのです」


「……は?」


俺はすっと顔をあげたリリスの顔を見つめる。


すると、リリスは再び悲しそうに笑い、語り始めた。


「私、母親に捨てられたんです」


リリスは俺から目を離すと古民家の方に体をむける。


「物心ついたころに私はここに置き去りにされました、それからずっと私はここに一人です」


「一人?」


「はい、あ、リリスっていう花を知っていますか?球根と茎に毒があるのですが花はとてもきれいなんです、まるで花じゃないみたいに」


球根と茎に毒がある…?なんか似たような花があったな…。


「私、リリス大嫌いなんです、花も、私の名前も、知ってますか?リリスの花言葉」


花言葉……この世界にもそんなものがあるのか。


「あきらめ、独立、別名死人花、捨て子花何て呼ばれてるんです、母はもとから私を捨てるつもりで生んだんです、私が最初から嫌いだったのです」


「それで死ぬのか?」


「自分からは死にません、そんな勇気もありません。でもここでさっき仮に死んでも私は後悔しませんでした」


俺は思わず刃をリリスに向けていた。


「それじゃ助けた俺がバカみたいじゃないか」


「感謝はしてます」


リリスは俺が突きつけた刃に怯える様子もなく、俺の目を真っ直ぐ見据えて答えた。


そんなリリスの姿に俺はどうしようもなく腹が立っていた。

だってそうだろう?

目の前で助けた人物に死んでもよかったなんて言われたんだ。

俺がやった行動が全くの無意味だったみたいじゃないか。


「なら殺してやろうか?さっき死んでもよかったというならな、でもな、死ぬのは痛いぞ?体だけじゃない」


「なにを…死んだことがあるかのように」


「あるよ、それで本当に死にたいのか?」


俺の口は勝手に動いていた。

俺が出している両の刃はしっかりとリリスの首元を狙いすましていた。


「苦痛でもなんでも構いません、あなたにはここで17年間も一人で過ごす苦しみがわかるはずがない!」


「ああ、分からないな。……ひとつだけ教えてやるよ、そのリリスっていう花な俺がいた国にも彼岸花っていうそっくりな花があったんだ。容姿も花言葉も別名も全部一緒、こんな偶然ってあるんだな、それでなその花にはこんな花言葉もあるんだ『想うはあなた一人』『また会う日を楽しみに』もし、この花言葉が同じだとすればお前の母親は離れてもまた会いたい、いつまでも愛してると言いたかったじゃなかったのか?」


リリスの視線は動揺しているのかうろうろとさまよっていた。


「そして、母親はお前をここに捨てたんじゃない、絶滅寸前なんだろ?霊族は?お前は最後の希望としてここにあいて置いていかれたんじゃないか?勇者達に殺されないように」


そこまでいうとリリスは俺が見えなくなったかのようにその場に座り込んだ。


「物事なんてな、捉えようでマイナスにもなるし、いくらでもプラスにできるんだよ」


俺は刃を納めると目の前で崩れ落ちているリリスの頭に軽く手をのせて、撫でてやる。


「わたしは……わたしは今までなにを恨んで……」


「さあな、お前の母親の真意はわからないけど、世界はお前の考え方で明るくも暗くなる、それだけの話さ」


リリスの両目からポロポロと涙がこぼれ始める。


「それと、俺リリスって花が彼岸花だとすれば結構好きなんだ、だから嫌いとか言わないでくれ。むしろ愛してやれ。花も、自分の名前も。まあこれは俺の身勝手な押し付けかもしれんが」


俺はリリスの頭から手を離すと、腕の羽を撫でながらリリスを見下ろす。

小さな子供に説教してる自分が小っ恥ずかしくなってきたのだ。


リリスは一瞬固まったかと思うと、そのまま泣き崩れる。


リリスの17年の独り復讐旅はようやく終着点を見つけてたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る