2-3 久方ぶりの食事、そして崩壊


2階にたどり着いた瞬間俺は部屋の中を漁る。周りに尋常じゃないホコリがまうのも今は気にならなかった。


「あった……!」


俺は2回の奥に位置する小さな和室にあった小さな引き出しを見つける。

力任せに引き出しをあけると、なかには

小さな肉が大量に敷き詰められていた。


「……飯だー!!」


俺は目の前に現れたご馳走が目に飛び込んできて一瞬驚いたが、生肉にも関わらず肉を口に突っ込んだ。


「うまい!」


生肉だからうまいはずがないのに、その肉はなぜかとてつもなくうまく感じられた。

空腹すぎると人はどんなものでも美味しく感じられるようになっているのかもしれない……。

人じゃないけど。


「あの……」


俺は久しぶりにありつけた飯に感動を覚えていた。


「あの!」


俺は肉を口にいれる手を止め弱々しい声がした方に振り返った。


「あの……生肉ですけど、それ」


「食えたらいい」


俺はそこにあったすべての肉を食い終わるとその場に座り込み、一息をつく。


とても腹がいっぱいになるほどの量ではなかったが、とりあえず腹になにかをいれることができただけでかなりの満足感を感じていた。


俺は改めて女の子の方に向く。


すると、俺はあることに気がついた。

いや、今まで気づかなかったことすらおかしいのだが、目の前の女の子には足がなかった。


しかし、ワンピースと地面の間ははまるでそこに足があるかのように数センチ浮いている。


「あ、これですか?私……霊族なんです」


俺の視線に気がついたのか女の子は自分の浮いているワンピースをつまみながら、俺の顔をおどおどと見ながら話しかけてきた。


ワンピースの中はやはり何も見えない。下半身がないのだろうか。しかし上半身はしっかりと存在している。


「霊族? 聞いたことない種族だな」


「私達は消滅寸前の種族ですので…」


「消滅寸前? 種族って消滅するのか?」


「はい……私達霊族はたいした戦闘力がなく勇者達に不意打ちをして脅すことを生業としていました」


そこは元の世界にいた幽霊と変わらないんだな。


「しかし、勇者達も慣れてきていたのか脅しが効かなくなりました。それからは戦闘力のない私達は容易な討伐対象になってしまいどんどん数が減っていったのです。それが10年前の話です」


「10年前?でも君は若く見えるが」


「はい、私はまだ20…恐らく霊族の最後の子孫となるでしょう」


そんなやつが何でここにいるんだ?


「そういえば名前は?」


今まで顔だけを彼女に向けていた俺だが、しっかりと彼女に向き合うように座り直す。


思えば俺はこのときこの世界に来てはじめて他人に興味をもった気がする。


だから、目の前にいる霊族の女の子の名前を聞きたくなったのだ。


「私ですか?私は……リリスと申します」


リリスと名乗った足のない女の子は俺の方にどこか悲しそうな笑みを向けた。


リリスは俺から目を離さず一歩二歩と距離をとる。


そんなに俺って怖いのか?


そんなことより……さっきから上の方からなんかミシミシいってないか?


「あの……どうかしましたか?」


「いや……なんでもない」


気のせいだろうか。だいぶ古びた古民家だし軋む音くらいするか。


そこから俺とリリスの間になんともいえない沈黙が流れはじめる。


しかし、その沈黙は一瞬で破られる。


天井からメシメシっという音がして、天井が俺とリリスに向かって崩れ落ちてきたのだ。


一瞬で二階は埃がたちなにも見えなくなる。


俺はとっさにリリスをかばうように、しゃがみこむ彼女に覆い被さる。


「あ、ありがとうございます」


リリスは驚いたように俺を見上げる。

しかしそんな時間はない。

今度は今立っている床がミシミシと激しい音を立て始める。


「まだだ」


俺はリリスをお嬢様抱っこの要領で抱えると、思いきりジャンプして、抜け落ちていた天井の隙間を縫って空に飛び出す。


それと同時に二階の床が抜け古民家は完全に木の藻屑となリ、完全に崩れ落ちた。

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