1-6 羅生学死す。
人は死んだあとどこにいくのだろう。
生きているときに一度は考えることじゃないだろうか。
しかし、実際死んでみると思い知る。
死んだ後にはなにもないのだ。
天国とか地獄などはすべて人の妄想に過ぎないと思い知らされる。
そうとしか考えられなくなるような暗闇が、俺の目の前に広がっていた。
歩いているのか浮いているのか沈んでいるのかすらわからない。
ただぐるぐると思考だけが回り続ける。
死んだのか……?
まぁ普通に死ぬよな、脳天に銃弾ぶちこまれたら誰でも死ぬ。
あの人質たちは助かったのだろうか。
足を撃たれた女の人、両目を撃ちぬかれたコンビニ店員、そして友人の娘であるあの女の子。
あの強盗犯は捕まったのだろうか。
俺はちゃんと葬式を開いてくれるのだろうか。そんな人がいただろうか。
死ぬ前はなんとなく生きているこの世の中で「今死んでもなんの後悔もないな」とか思っていたが、いざ死んでみると頭に浮かぶのは後悔ばかりだった。
大学に行けという親の意見に頑固に反対し高校卒業後、職なしになったあのとき……。
マスターの好意のおかげで、バーテンダーになったものの、下っ端の仕事ばかりで最後までお客さんの前でカウンターに立つことは叶わなかった。
マスターには感謝している。
もちろん、カクテルバーというものをなにも知らない俺をカウンターに立たせろというのも図々しいのは分かっている。
しかし、俺はあのバーで五年働いた。
あのバーには誇りを持っているし、いつのまにか夢がバーのマスターになりたいと思っていたことも死んでみてはじめてわかった。
だから、これだけあのバーに未練が残っているのだ。
ふと思い出したのは働いて二年目ぐらいのことだっただろうか、俺は一度だけカウンターに立たせてもらい、試しにカクテルを作らせてもらったことがある。
そして、俺の作ったカクテルを飲んだマスターにその時言われた一言が「お前にはバーテンダーの才能がないな」だった。
それからは一度もカウンターに立たせてもらうことはかなわなかった。
できることならあのマスターを見返せるような、恩返しできるようなバーテンダーになりたかった。
そのためにカクテルのことを自分なり勉強して、ある程度のカクテルの知識は頭に詰め込んで次に備えていたはずなのに……。
それも今はもう意味が無いな。
《やりなおしたいか?》
ん?なんか聞こえた気がする
《もう一度問う、やりなおしたいか?》
やはり女の人の声が、暗闇のどこかからか響いて聞こえてきた。
聞いたことがあるようなないようなそんな柔和な女性の声だ。
「……やりなおしたって一緒さ、後悔のないような人生なんて何百回、何千回繰り返したって人間にはできねえよ、死んだらなよなよと後悔の繰り返しさ、だから……やり直すっていうか生まれ変わるなら人間以外で生きてみたいな!」
《その選択に後悔はないか? お主の死に様は本来なら神王レベルだ……よいのだな?》
「……よくわからんけど神とか王とかそんな大したもんにはなりたくないね」
《よかろう……》
そうするとその声はどこかへと消えていった。
そして、その直後ずっと暗闇だったところに小さな光が現れた。
「あそこをいけってことか…」
俺は疑いと嫌な予感しかなかったが、この暗闇よりはましだと思いその光をくぐり抜けた。
そして、俺の嫌な予感は間違っていなかった。
なにしろ、俺は異世界[ユグドラ]の魔族[アモン]として転生してしまったのだから。
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