1-5 わずかな希望からの絶望

 全員が絶望しながら、コンビニ店員を眺めていた時、自動ドアが開くと同時にこの場とは一切合わない入店メロディが鳴り響く。


「そこまでだ!動くな!!」


 突如響いた声の主は、自動ドアが開くと同時に飛び込んできた一人の警察官だった。


 警察官が入ってきた瞬間恐らくここにいる人質全員思ったはずだ、助かった、と。 やっとこの地獄のような非日常から解放される。


「やべえ!サツくるのはやいだろ!兄貴どうするんだよ!」


「動くな!それ以上動くと本当に撃つぞ!」


「う、うってみろよ!撃った瞬間にこの人質のなかから一人撃つからな!」


  警察官と強盗のやり取りが、 動揺しているからかおかしい。

 撃たれたら誰かを撃つなんてことはできるわけがないのだが……。


そんなことを考えているとコンビニ内に再び銃声の音が響く。


俺は警察官が本当に撃ったのかと思ったが、実際に撃ったのは天井に向けて、銃口を向けた強盗だった。


「なに、茶番劇やってんだ、ちゃんと計画通り動いたのか?」


強盗はおびえることなく警察官に銃を向けた。


先程まで険しい顔つきをしていた警察官は、表情を崩すと、嫌な顔つきでニヤつきはじめた。


「安心しろ、野次馬は皆警察官が入っていったと思って町中に溶け込んでいったよ、サツがくるのにはまだ時間かかるだろうよ」


待てよ、さっきから警察官と強盗の会話がおかしい。

そもそもこんな普通に会話するものだろうか。


警察官は銃口を向けられて両手はあげているものの手に持った銃はそのままで、やけににやついていた。


「まさか……」


「皆さん! 助かったと思ったでしょ?思ったよね? そりゃあ警察官入ってきたもんね~、俺だって人質だったら思うよ、いや、そう思いたくもなるよね、こんな怖い強盗が相手じゃさ」


警察官は俺たちににこにこと愛想を振り撒きながら強盗を指差しながら話しかけてきた。

先程までとキャラが違いすぎる。


「でも残念!!俺もこいつらの仲間でした!いうなればこの格好は……コスプレ? ……あれ? ウケない? ここ盛り上がると思ったんだけどなぁ。てか、俺のために盛り上がるべき場所!」


警察官は両手を上げたまま体をのけぞらせ、大声で笑い始める。


やっぱり……会話のおかしさから何となくそうじゃないかと思ったが、やはり警察官は警察なんかじゃなく強盗の仲間だったのだ。


「ねぇ、俺が話してるのになに寝てるの? 死にたいの?」


警察官の格好をした強盗は、気絶している女性に近づくと、銃口を気絶している女の人に向け、なんのためらいもなく引き金を引く。


「え…………?!?ぎゃー!!!!」


女の人は撃たれた足を押さえ転がり回ったが、強盗に頭を蹴られそのまま沈黙した。


「女でよかったね、男だったら殺してたよ?」


警察官の格好をした男はにこにこと気絶している女の人の頭を撫でると、嬉しそうに跳び跳ねながら冷えきった目をした強盗の隣に戻っていった。


その光景はこの中で違和感しかなかった。


「あんまり無駄撃ちするな」


「同じ仲間を撃った君がよくいうよ!」


「それは、あいつがごちゃごちゃ余計なことまでしゃべるからだ」


「おっかないねぇボスは」


そして、強盗三人はコンビニ店員に銃口を向けた。


「用意できたか?」


「はひぃ!」


コンビニ店員は強盗に金が入った袋をおびえながら渡した。


「よくできました」


そういうと強盗二人はゼロ距離で、銃口をコンビニ店員の目に突きつけ、また引き金を引いた。


「あーーー!!!!!!!!!」


コンビニ店員は一瞬奇声をあげたかとおもうとその場に倒れる。


「さてと……車の鍵をもらっちゃおうかな」


「お前、誰かからとってこい」


「へい、兄貴」


命令された強盗はへこへこしながら、人質の前に立つ。


「さてと……車の鍵を持っているやつはおとなしく俺に差し出せ、さもないとこの鉛玉がお前らの頭をぶち「お母さん……トイレ……」


強盗が意気揚々と話していたときに、この場にはもっとも似合わない幼子の声がした。


三人の強盗はとっさに声がした方に銃口を向ける。


「なんだ!?」


「あらあら、どこに隠れていたのかなぁ」


「さなえ!出てきちゃダメでしょ!」


……思い出した! さっきドリンクコーナーで物をねだっていた女の子だ! 咄嗟に隠していたのか……。


「お前の子供か…」


「どうか、どうかその子だけは……」


「残念だったな、出てきたのが運のつきだ」


……そうか!!

どこかで見たことあると思ったら昨日散々友人に見せられた画面の子じゃないか!

ということはあの子は……あいつの子供か!


俺はそうとわかった瞬間に気がつくと体が動いていた。

頭では出ていくな、動くなとガンガン危険信号がなっているのに、体はそれを無視して飛び出していた。


仕方ないだろう昨日の今日であんなに父親にのろけられていた子が、目の前で死にそうになっているんだ、そりゃあ助けたくもなる。


それに俺の頭は半分麻痺していたのだと思う。大量の血を見たせいで、たくさんの銃声を聞いたせいで……。


俺は自分でも驚くべきスピードで女の子を抱え、母親の方に放り投げるとせめてもの抵抗で手に持っていたまだ買ってすらいなかったペットボトルを、警察官の格好をした男に投げつけた。


強盗は俺の突然の行動に戸惑ったのか一瞬固まっていた。


チャンスだ!

俺は自分が出せる限りのダッシュでコンビニの一番奥のドリンクコーナーへ向かった。


今日はよくお世話になるな……。

そんなどうでもいいことが頭をよぎり振り向くと、そこには既に案の定三つの銃口が俺を狙っていた。


「死に急いだな」


「にげろー!!」


俺は大声でそういうと同時に二つの現象が起こった。


一つはすでに思考を停止させていた人質達が、俺の号令で訓練された兵士のように皆一斉に外へ飛び出したこと。


もう一つは……3弾の鉛玉が俺の体を貫いていたことだ。


そのまますぐに死ねたらよかったのかもしれない。


しかし、撃ちどころが悪かったのか俺はまだ生きていた。


そして、体に走る激痛以上の痛み。


「カ……あー……」


もう痛みでもがく力すら残っていない。


「正義のヒーローきどりかい?」


「兄貴まだ生きてますよ」


「たく、人質みんな君のいう通り逃げちゃったじゃないか、これで計画はパーだ」


「死んで詫びろ」


全く理不尽な話だ。

俺はいいことをして強盗は悪いことをしているはずなのに俺に詫びろとは……まったく何が正義なのか信じられなくなる。


それがこの世での俺が最後に考えたことだった。


そして、次の瞬間俺の頭に鉛玉が貫き、俺は絶命した。

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