1-4 非日常なコンビニ
二日目の休み、俺は三日目に家に引きこもるための食料調達をするため、近くのコンビニへと向かった。
「うお、さみいな!」
家を出た瞬間に冬の始まりを告げるような、体にたたきつける冷たい風。
俺はその寒さから逃げるように足早にコンビニに向かうと、まず店内奥にある飲み物のコーナーへと向かった。
「暖かいのにするか冷たいのにするか迷いどころだな……ジンジャーエールだな」
誰も返してこない独り言の問いかけに虚しく1人で答えを出す。
「おかあさーん!これかってー!」
「それはまた今度」
「えー……」
すぐ隣で母親に物をねだっていた女の子が肩をおとして俺の横を通りすぎていく。
どこでも見る平和な一場面だ。
「んー……あの子どっかで見たことあるような…? 気のせいかな」
どこかで見たことがような面影に一瞬違和感を覚えたが、すぐにその違和感は消え去り気にならなくなった。小さい町だしどっかですれ違ったかな。
俺は飲み物コーナーをあとにするとパンコーナーへと向かう。
そこで、コンビニ内に乾いた音が響いた。
『きゃー!!』
コンビニ内にいた人々の悲鳴が重なる。
コンビニ内では聞こえるはずのない声。さらに普通では聞くことが無いはずの音。
ゲームやテレビでしか聞いたことの無い音が耳に飛び込んできた。
「嘘だろ……銃声?」
音がしたカウンター方向に目を向けると目出し帽を被った三人組が、それぞれ銃をカウンター、店内に向けて立っていた。
「動くなぁ!!」
「今すぐ金を用意しろ!!」
「お前らは全員ここに集まれや!」
それは平穏な日常が壊れるには十分すぎるほど、唐突な非日常の訪れだった。
そうして戸惑っている間に俺達は狭いコンビニの中で一ヵ所に集められる。
「なんて現実味のない……」
あまりの未体験な現状に頭が混乱しているのか、俺はやけに冷静なままだった。
もちろんびびってはいる。超怖い。
「そこぉ!ごちゃごちゃいってんじゃねえぞ!」
外はまだこの異常事態に気づいてないのだろうか。
こんな怒号やさっきの銃声で誰か気づいてもいいと思うのだが……。
「さっさと用意しねえかぁ!」
さっきから怒声をあげている男が、必死にレジ内の金を集めている半泣きの店員に、怒鳴り散らす。
そういえばさっきお菓子を買ってほしいと駄々をこねていた女の子が見当たらない。お母さんは……いるみたいだ、どこにいったのだろうか。
遭遇している事態が異常すぎて、そんなことばかりを考えてしまう。
「あのぉ……」
「なんだてめえ!!殺されたいのか!」
強盗に話しかけるとは勇気のある……。
手をあげて弱弱しく声をあげたのは休憩中だったのだろうか、サラリーマンのようだった。
「なんでコンビニなんですか?もっと襲うなら銀行とか……」
「警備がここなら甘いだろうが!ごちゃごちゃいってんじゃ」パーン
耳に飛び込んできたのは、ついさっき聞いたばかりの1発の乾いた銃声と、何かがつぶれて地面に落ちる音。
「喋りすぎだ」
「う、嘘だろ……」
仲間であろう強盗は、サラリーマンの質問に答えていた強盗になんのためらいもなく発砲したのだ。
「死んだか? .......お前もうるさかったな」
地面に横たわり既に息絶えていた強盗を一瞥した奴は、ゆっくりとサラリーマンに銃口をむける。
そしてまたなんの迷いもなく涙目で手をあげて縋るような目で強盗を見つめていたサラリーマンを射殺した。
この出来事で人質たちはさらに恐怖におびえうめき声を漏らす人もでてきた。
この強盗に心はないのか……。
目出し帽から出している奴の目とふと目があう。
その双眸はどこまでも暗く、そして光など見えず完全に冷えきっていた。
「集めたか?」
乾いた声で店員に話しかける強盗。
「まだ、もう少しお待ちください」
店員はもはやボロ泣き状態で札束を集めていた。
「遅いな……死にたがりか?」
目が冷えきっていた強盗は俺達から銃口を離し、その銃口をコンビニ店員に向ける。
「ひぃ!」
「怯えてなくていいからさっさと用意しろ」
そして強盗は静かに引き金に手をかけた。
誰もがあの店員はもう助からないと理解しながらも、同時に誰もその場から動くことはできずにいた。
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