1-2 友人と俺
休日2日目、俺は久しく会っていなかった友人と連絡を取り、会うことになった。
ラフな格好で家の近場の公園のベンチに座って待っているとのんびりとした歩調で、友人が公園に入ってきた。
友人は俺を見つけると、手を振りながら小走りで近寄ってくる。
そんな友人に力なくひらひらと手を振り返す。
「よう羅生!久しぶりだなぁ」
友人はカラカラと笑いながら俺の隣に腰かける。
「ああ、俺はお前が全然変わってなくてビックリしてるよ」
こいつとは中学からの仲でいわゆる腐れ縁というやつだ。
しかし、こいつも悪いやつではない。
俺はつくづく人に恵まれていた。
「外見は変わってなくても俺の周りの環境は変わったぜ?」
「なんだ?ついに漁師やめたのか?」
「ついにってなんだよ、今でもバリバリだよ」
こいつは父親が遠洋漁業をやっているため、その職を引き継いで一年の大半は海で過ごしている。
「しかし、何年ぶりだ?高校卒業してからだから……7年ぶりか!そりゃあお前もふけるわな!」
友人は俺の肩を叩きながら大笑いする。
漁業で鍛えられた馬鹿力は伊達じゃない。ちょっと……いやかなり肩が痛い。
「ふけてない、ちょっと髭が伸びてるだけだよ」
「いやいや、頭のほうもちょっと……」
友人はにやつきながら俺の頭をつついてくる。
「人が不安になるようなことをいうな!」
俺は友人の手を払うと友人をおいて立ち上がり、歩き始める。
「おいおい、冗談だって~」
友人は相変わらずにやにやしながら俺を追いかけてきた。
そこから少し歩いて俺達は近くの喫茶店に入り、しばらく昔話をしていた。
中学で馬鹿やった話、高校でも似たようなことをして親、先生にこっぴどく叱られた話、どこにでもある他愛のない会話である。
一瞬会話が途切れた時、唐突に友人は携帯を取り出すと画面を俺に見せてきた。
画面に映っていたのは満面の笑みでこちらに手を振っている幼女の姿だった。
「なんだこの子、誘拐でもしたのか?」
「あほか、俺の愛娘だよ」
「まじか!」
確かに言われてみれば目の前の友人に似ているようにも見えた。
「今年で4歳になるんだよ~」
友人は本当に幸せそうに笑いながら携帯の画面を見つめる。
「鼻の下が伸びて猿みたいになってるぞ」
「失礼な! 誰が猿だ!」
なんかのろけ話をしてくる友人が全体的にいらっとしたので、とりあえず毒を吐く。
しかしそんなことを気にする様子もなく、友人は話を続ける。
「 しかし、子供はいいぞ~? お前も早く結婚しろよ」
「そんなことをお前に言われる日がくるとは思わなかったよ」
その後も友人の娘と奥さんののろけ話を延々と聞かされながら時間は過ぎていった。
日が沈みかけてきた夕暮れ時、カフェを出た俺達は最初に待ち合わせていた公園で、また少し他愛のない話を続ける。
「……さーて、そろそろ帰るかな!」
友人はゆっくりと立ち上がり大きく伸びをする。
それに合わせるように俺もゆっくりと立ち上がる。
「もうそんな時間か」
「なんなら俺ん家泊まるか?」
「いや、久しぶりの家族水入らずの時間だろ。邪魔する気は無いよ」
「遠慮する必要ないんだぜ?」
「いやいや俺がいたらヤれることもヤれないだろ?」
そう言って俺はニヤッと笑う。
「やらねえよ! もうそんながっつく歳でもねえ」
「猿なのに?」
「猿じゃねえっつうの!」
つまらない会話で2人してバカみたいに笑う。
「ま、そっか……。じゃあまたな! 今度はいつ会えるかわかんねえけど」
「また明日から海なのか?」
「ああ、今度は3ヶ月だから短い方だ」
「そうか…ま、そのうち会えるだろ」
「おう、そのうちな」
こうして俺は友人と別れ、帰路に着いた。
明日は明後日のためにコンビニに行って買いだめでもするか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます