第18話新たな試み、そしてソノサキ

東京駅からおよそ2時間半の移動中、秋人はいつも通りにくつろいでいた。普通の取材であったり撮影であったりするときならば、美羽もまたやる事・気持ちの持ち様などもかっては解っているものの、今回に限ってはそうもいかない。余所余所しいというか…心が落ち着かない様子のままだった。


「なぁ美羽?なんでそんなに落ち着かねぇの?」

「だって…もしいい写真取れなかったら…」

「関係ねぇって…クスクス…美羽の思った通りの俺をそのまま撮れば…」


そんな時だった。新幹線の向かい側から歩いてくる女の子達が居た。そんな女の子たちはやはり目敏く、秋人の存在に気付いた。


「…あ…あの!もしかして…S4の秋人さんですか?」

「え?あぁ、そうだけど?」

「ファンなんです…頑張ってください!」

「ありがとう」


完全なる営業スマイルだったものの、女の子達は嬉しそうだった。


「珍しいね…」

「何が?」

「答えるの…」

「だって超ヒソヒソ声だったじゃん?」

「それだけ?」

「まぁね。邪魔されたくない…」


そう答える秋人。ただ聞かれたことに関してだけ答える秋人に対して美羽もまた少し嬉しかった。今までならば無視をするか、聞こえないふりをするか、声をかけるなオーラを全開にしているか…そのどれかだったのだ。それにも拘わらず今回に関しては女の子達が何の躊躇いもなく声をかけてこれたのだ。そうこうしながらも落ち着こうとしていた美羽。色々と日程の確認をしていた。


「美羽?」

「何?」

「そんなに気負う事ねぇと思うよ?」

「気負っちゃうよ…秋人はいいかもしれないけど…」

「んなことない。美羽と3泊4日…2人きりだぜ?」


小さく笑いながらも秋人も嬉しそうだった。車内アナウンスが聞こえ、京都駅に着く事が知らされた。荷物を持って、出入口に向かう。駅のホームにはやはり多くの人が入れ替わりに待ち、行き交う人もたくさんいた。


「はぐれんなよ?」

「子供じゃないもん」

「はいはい」


そうして新幹線の扉が開きぞろぞろと降りていく。そんな群衆の中に美羽と秋人もいた。しかし混み合っている為か、プラットホームでは秋人の事に気付くファンは誰も居なかったのが幸い、すんなりと通り抜ける事が出来た。とりあえず…といい、用意されている旅館に向かう事にした。指定された旅館には少し距離があったものの、歩きながら風景を楽しむには歩きやすい気候だったため2人は歩く事にした。色々と見て回る。その間にも美羽はカメラを向ける。秋人はやはりどんな時でも撮られ馴れているはずだった。どうした事か…美羽がカメラを向けた瞬間に照れ始めた。


「秋人?」

「いや…なんか恥ずかしいな…」

「そんな事言われても…撮られ馴れてるんじゃないの?」

「美羽に撮られたことなんてないだろ…」

「そりゃそうだけど…」


そう言いながらもとりあえず食事にしようか…と言う事となり、何がいいか…検索しだした。京都で何があるか…リサーチはしていたものの実際に来てみるとあまり思いつかないものだ。


「にしんそば!!」

「祇園まで行かなきゃない」

「じゃぁ…おばんざい!」

「旅館で食えるんじゃねぇ?」

「むぅぅ…」


そうしながらも結局は、駅にほど近いカフェで昼食を摂る事にしたのだ。そう、京都に来たら行ってみたいと美羽が言っていたお店だった。


「だけど美羽?本当に昼、パンケーキでいいの?」

「ほかにも食事メニューあるし…私ここのパンケーキ1回でいいから食べてみたくって…」

「そっか…ならいっか」


決まると店内に入って行った。案内されて時期に美羽は店員に尋ねた。


「あの…すみません…突然なんですけど…」

「はい?」

「私、東京のクリスタル・レインボー事務所の榎本秋人のマネージャーでして…今度榎本のソロ写真集の発売が決まりまして…その際に載せる写真の中にこちらの店舗や商品の写った写真を掲載してもいいかどうかの確認の為にお話がありまして…店長様か責任者の方はいらっしゃいますでしょうか?」

「少々お待ちください!!」


美羽が声をかけた店員は急いで中に入って行って何やら話をしている。そうして出て来たのは名札に店長の文字がある女性だった。


「お話はお伺いしました、あの…うちの料理でよろしければ願ってもないほどなんですけど…いいんでしょうか?」

「ぜひ…!もしかしたら載るかどうかと言う最終決定は編集者にいよりなんですが…写真をその発売目的に際しての許可を頂ければと思いまして…どちらの店舗に行くか、弾丸的なところもあるので事前アポなしで本当に申し訳ないのですが…」

「いえいえ!それで…あの…つかぬ事をお聞きしますが…」

「はい?」

「今榎本さんって…」

「はい、居ります。挨拶…!!」

「いえ!そんな…挨拶なんて…!でも本当に良かったら載せて頂いて全然かまいませんので…!!」

「ありがとうございます!」


ぺこりと頭を下げた美羽。ここ京都でもやはり噂は入っているはずだからこそ、受け入れてもらえるか…心配ではあった。それでもこうして写真を使う事、掲載に際しての許可を頂けたこと…ひとまず安心した。

席に戻ると秋人はくすりと笑っていた。


「相変わらずだな…全部事前に決めておいてアポ取っちゃえばよかったのに…」

「だって、その時で食べたいの変わるかも知れないじゃん?」

「そうかもしれないけど、突然行って『だめです!』なんて言われたらショックだろ…」

「そうしたら食事を美味しくいただくのみ!!」

「…クス…美羽らしい」


そう笑っていた。そんな一面もまたみうは被写体として、カメラに収めていた。しかし、時には一眼のデジカメで、時にはスマホのカメラで…と撮り替えていたのだ。そうして料理も届いた時、パンケーキを見て子供のように心騒ぐ気持ちが手に取るように見て取れた。


「なぁ美羽…」


来たっ!そう思いながらも美羽はそれとなく聞いてみた。


「なぁに?」

「そのパンケーキ…うまそうな…」

「ほら!食べたくなってきた!!」

「ちょっと頂戴?」


そう言いながらも美羽からフォークを取り上げて一口すかさずに口に運ぶ。うん、うまい!と一言もらし、もう1切れを切り出した。そうして美羽に笑いながらもそれを差し出した。


「あ!まって!」


そう言いながらその瞬間もカメラに収める。


「撮るかな、そういうとこ」

「いいじゃない!そんなに見れないし…最悪は…」

「ん?」

「何でもない!」


そう言いながら差し出されるままに美羽もそれを頬張った。2人して美味しく食べ終えた後に、会計をするときになって店長は戸惑いがちに1枚の色紙を差し出した。


「お店宛に…1枚だめですか?」

「クス…いいですよ。お世話になりましたし…」


そういいサラサラと色紙に日にちと店名を書き入れて手渡した秋人。そうして『ごちそうさま』と言い残してその場を後にした。旅館に向かうと案外にも早くに到着した。挨拶をして、2泊お世話になる旨を伝えると、仲居さんたちもまた嬉しそうにしていた。部屋に通された時に一通りの説明に加えて撮影の許可も出ている事を伝えられた美羽。


「…ありがとうございます!」

「すみません…」


そんな仲居の言葉に安心した美羽。旅館・ホテルに関しては出版社側から撮影の許可を申請してくれていたのだった。そうして荷物を置いて少し休憩すると時期に2人は外出する事にした。携帯と、一眼と、貴重品のみもって…

色々と見て回る2人。風景を入れて撮ってみたり、横顔、正面、あえて背中…本当に様々な秋人を美羽は切り取って行く。時折困りながらも、それを秋人がサポートしながら。その様子は本当に仲の良い恋人同士が京都に旅行に来ているような様子でしか映らなかった。美羽は始めは緊張しかなかったものの、少し秋人と過ごしていく中で緊張はほぐれ、自然体でいる事が出来たのだった。


「秋人!」

「ん?何?」

「これ…見てみて!」


そう言いながら土産物屋の前で立ち止まる美羽。そうして顔をのぞかせる秋人。そうして選んでいる時ですら写真を撮って行く。なかなかのんびりとした恋人同士のデートとは違うのがこういうところなのかもしれない。そうしながらも所々で足を止めては色々と風景を楽しみ、会話を楽しみ、2人の時間を楽しんだ。写真の中にはなるべく美羽自身が映り込まないように…としていた為か、ほとんどが秋人のソロ写真となっている。そんな時だった。


「美羽?」

「なぁに?」

「携帯、貸してみ?」

「へ?…はい、どうするの?」

「そっちじゃない、美羽の!」

「私の?」

「そう、そっち」


そう言われて美羽は自身の私物の携帯を秋人に手渡した。辺りを見て誰も居ないと解ると秋人は美羽の肩を抱き寄せて2人での写真をカシャリと写す。


「ちょっとまって!?私今変な顔した!」

「大丈夫だって、問題ない!」

「だけど…ほら!」


そういい撮られたばかりの写真を見るとやはり突然だったため納得のいっていない顔の美羽。笑いあいながらも秋人と一緒に何枚もの写メを撮っていた。そのうちに何人もの人の行き通りが多くなる所に出ると、秋人はいつもの顔に戻っている。しかし美羽と一緒と言うのもあってか、表情は穏やかだった。


「あれって…」

「うそぉ!!!!」

「でもそうじゃない?」

「完全に無防備すぎるじゃん!!」

「でも…そっくりさんかも知れなくない?」

「だからってあんなに似てる人いる?!」


そんな声がちらほらと聞こえるようになっていたものの、美羽も秋人も完全にスルーしていた。そう、自分たちは仕事なのだ…という強い思い込みだった。


「あのぉ…もしかして、S4の秋人君ですか?」

「そうですけど?」

「うっそ!本物?!今日はオフですか?!」

「いや、今度出す写真集の撮影にね。」

「そうなんですか?もしよかったら写真1枚とってもらってもいいですか?」

「なんなら採用されるか解んないけど撮る?」

「それってもしかしたら私たち写真集に載っちゃうって事?」

「そうなるね。」

「キャー!」


黄色い歓声の元美羽はカメラを向けた。それで女の子達は素直に離れていく。遠巻きにカシャリと何枚か写真を撮ったりもしていたが2人はやはり反応を示すなんてことはなかった。昼食は済ませている為、この辺りでどこが風景がきれいか…そんな事を考えていた。しかし、祇園の街並みは特別に風景などを探さなくとも、それだけで十分に圧巻な風情を醸し出している。

色々と見て回り、様々な空気や人に触れ、匂いを感じ、本当にゆっくりとした時間を感じる事が出来た2人だった。いい加減歩き回った後にはバスで旅館近くまで戻って行った。そこから歩いて、秋人と美羽は宿に着く。


「お帰りなさいませ…」

「あ、ただいまです…」

「京都はいかがですか?」

「どこを回ったら面白いか今夜一晩考えてみようかと…」

「でしたら、花見小路などはいかがでしょう?」

「花見小路?」

「えぇ、京都祇園は真ん中に位置しておりまして、電柱が1本もないんですよ。それに足元を見ればコンクリートやアスファルトじゃないんです。」

「アスファルトじゃないって…」

「石畳になっているんです」

「そうなんですね!明日行ってみよう?」

「そうだな、ありがとうございます。」


秋人も美羽も嬉しそうに話している。明日の楽しみが出来た。携帯を見ながら秋人は小さく笑ってもいる。そんな時だった、美羽は思い出したかのように鞄を裁くった。


「どうした?なんか忘れた?」

「…えっと……あった、はい…」


そう言いながらそっと差し出したのは細長い箱だった。きょとんとした顔の秋人は目をぱちくりとさせながら美羽に問うた。


「美羽?これ何?」

「これ…本当はもっと早くに渡したかったんだけど…半年位遅くなっちゃって…」

「半年って…もしかして誕生日?」

「ん…」


少し俯きながらも美羽は気恥ずかしそうに秋人に差し出した。リボンを解き、堤を開ける秋人。中から出てきたのはチェック柄のボウタイだった。照れくさそうに秋人は首もとにあてた。


「どう?」

「似合うと思う!…とはいっても、似合うの知ってたけど…」

「え?」

「誕生日の少し前にそう言うの使っての撮影あったの覚えてる?その時にこういうの無いからあるといいなぁって言ってたから…あの時から気分とか変わってたらどうしようかとは思ったけど…」

「そんな事ない…!今回の撮影で使ってみようか?」

「それは秋人に任せるよ…どっちにしても私物オンリーの撮影だし。」

「なら早速明日使おうか…いや、3日目のホテルに向かう時にしよう!」


そう言いながら嬉しそうに笑っていた秋人。そんな秋人の表情を見て美羽も嬉しくなった。室内での写真も何枚か取ろうとする美羽。一段高くなっている所に秋人を座らせて外を眺めてもらったり、談笑している様子を収めたりと写真を撮る事にもだいぶ慣れてきていた。そんなファインダーを覗いている美羽に向かって秋人は手招きをした。


「美羽…おいで?」

「え?」

「写真ばっかり撮ってないでさ…ほら…」


そういい無邪気にも手招きをして呼び寄せる。そんな秋人に吸い込まれる様に美羽はゆっくりと近付いて行った。そんな美羽を抱き締めると秋人は嬉しそうに笑っている。


「やっと来た…」

「だって…仕事だし…」

「ほどほどに休めって…」

「そうは言っても…」


そういう美羽の口唇をそっと自身のそれで塞いだ秋人。ゆっくりと離れると外耳元でささやいた。


「好きだよ…美羽…」

「…バカ…」

「馬鹿でもいいよ…美羽が傍に居てくれるなら…」

「もぉ…」


そう言いながらも観念したかの様に美羽も秋人の背中に腕を回した。しかし、時期に食事が運ばれてくる時間になる。そうして2人揃って一緒に食事を楽しむ…そんな普通の時間ですら今までにはそんなになかった2人にとって、嬉しい時間になった。

食事も大満足となった2人…部屋に備え付けられている露天風呂にそれぞれ入る。秋人が入っている間にも背中越しの写真等、カシャリと収めていった美羽。カメラマンってこんなに大変なんだ…そう思いながらも1枚…また1枚と増え行く秋人の表情に嬉しくなっていた。そうして変わって美羽が入っている時だった。今度は秋人が美羽の写メを撮り出した。と言っても、秋人の撮影するカメラはプライベートの塊である自身の携帯だった。にやにやとしながら、美羽の入浴シーンを撮影している。そんな事には全く気付いていない美羽は満点の星空をゆったりと眺めていたのだった。


そのまままたりとした時間を過ごして夜を明かした2人。翌朝も早めに出発して教えて貰った花見小路へと向かった。石畳が何だかレトロで、両サイドに並ぶ店舗も本当にどこか懐かしい感じが漂っている。この空間だけが過去にトリップしたようにも感じていた。様々な種類の店舗が立ち並び、食事処も色々と種類がそろっている。そう言った所で、景観に関しては全くぶれる事のないきっちりと統一された感じに収まっていた。五感をフルに働かせて小町を堪能していた2人だった。その間にもたくさんの写真を収めてく美羽。収めながらも美羽自身もフルに楽しんでいた。宿に戻って来た2人は色々と宿の中にある小さな土産物を見ていた。路上に立ち並ぶ店舗にある物もあれば、この宿にしかない物もいくつかと並んでいた。そうして、そんな一部始終も美羽は撮っている。流石に大浴場の中の写真は撮れない為迷いながらも色々な場所で撮影を試みていた。夕飯時、相変わらずおいしそうに食べる2人。そんな時だった。秋人の携帯に着信が入る。


「もしもし?」

『もしもし?あっきぃ?今いい?』

「まぁ…いいと言えばいいけどどうした?」

『明日はまだ京都に居るんだよね?』

「そうだけど?何?」

『俺とか…合流してもいい?』

「ちょっと待て、俺一応仕事で来てるんだけど?」

『知ってる、写真集のでしょ?』

「解ってんだな、…で何で来ようとしてる訳?」


そういう秋人の顔は、嫌がっている様子は見受けられなかった。少し心配になった美羽は秋人をじっと見つめている。それに気が付いた秋人は電話口に断った。


「ちょっと待って?…なぁ美羽?」

「なに?」

「明日って1日1人来てもいいかな…無理なら無理って言って?」

「1人って…もしかして…」

「海。」

「良いとは思うけど…なんで?」

「来たいんだって。仕事はたぶんオフなんだろうけど」

「オフならいいんじゃない?一緒に楽しさ満開で京都で過ごすのも。」

「…解った。……もしもし?美羽はいいって。何時に来るの?」

『やった!昼ごろかな。皆で揃っていくから』

「は?海だけじゃないの?」

『うん、3人そろっていくよ?』

「はぁ…解った。」

『明日はどこに行く予定?』

「明日?嵐山の方のホテルになるけど?」


そう言いながら秋人は海と話をしている間も美羽はゆっくりと食事を済ませていく。


「………解った。なら早めに連絡して?」


そうしてようやく電話は切れた。そしてやっとの思いで食事を再開する秋人。そんな秋人に美羽は問いかける。


「海くん、どうしたの?」

「こっち来るって、3人で。」

「さ…!んにんで?」

「クス…そう、そんで日帰りで戻るっていうんだけどな。何か邪魔しに来たいのかな…あいつらは…」


そんな事を話しながらも美羽と一緒にクスクスと笑って話していた。

翌日、少し遅めにチェックアウトをした時だ。フロントに居た仲居から申出があった。


「あの…もしよければなんですが…写真1枚撮らせて頂いてもいいでしょうか?」

「写真?」

「はい、御無理は言いませんが…」

「いいですよ?」


すんなりと受けた秋人。仲居の1人がカメラを持った時だった。美羽はそっと声をかける。


「もしよければ入ってください?私撮りますよ?」

「え…でも…」

「榎本や写真がお嫌いでなければ…ですが…」

「そんな滅相も…お願いしてもいいのでしょうか?」

「もちろんです」


そうして写真薬になっていた仲居もまたカメラのフレームに入って行った。それに便乗して、美羽も写真を1枚カメラに収める。嬉しそうに2枚撮ると仲居一斉にお見送りをしてもらえたのだった。

そうして旅館を後にして、ローカル線に乗り、嵐山に向かう。京都の名所をぐるりと回る所だ。やはり乗っている間も色々と声を掛けられそうになるもののどうしたものか、声を掛けられずに済んだ。じっと見つめている美羽に気付いた秋人は声をかけた。


「…美羽?どうした?」

「それ…ありがとう…」

「ん?…あぁこれ?似合ってるでしょ。」


ふふっと笑う秋人にうん、と嬉しそうに笑い返す美羽。そう、秋人の首元には昨夜美羽が渡したボウタイがしめられていたのだった。嬉しくも、少しだけ歯がゆい感覚になっていた美羽だったが、嬉しさの方が断然的に勝っていた。そうして嵐山に着いた頃、秋人はふと携帯を差し出した。


「やべ…」


そうひと言呟くとかけだした。


「もしもし?ワリ…気付かなかった…」

『いいよ、どう?今どの辺?』

「海、そっくりそのままお前らに返すよ」

『俺たちね、今さっき着いた所だよ?嵐山の機関車的なのに乗ってきた!!』

「…もしかして俺らのと同じ便かな」


そうして、あたりを見回すと先に気付いた海がぶんぶんと手を振っていた。


「あいつ…目立ちすぎるだろう…」

「でも、良く解っていいよ?」

「時にはた迷惑だな…」


そうは言いつつも2人とも笑いながら3人の元に近付いて行った。会うなり秋人は海に問うた。


「しっかし、なんで急に来た訳?明後日には会えるだろ、嫌でもさ」

「だけど…俺…」

「ん?……なぁ、こいつなんかあったの?」

「彼女に別れ切り出されたんだって。」

「また…なんで?」

「心愛が…旦那の単身赴任先に行くから…って…」

「そりゃ仕方ないよ。そうだろ?」

「……ちょっと待って?海くんの彼女なんだよね?」

「そうだよ?!心愛はすっごい可愛いの…」

「さっき…聞き間違えたかな…旦那の単身赴任先って…」

「うん、アメリカだっけ?」

「ニューヨークのクイーンズ……すっげぇ遠いの…」

「あの…!遠いとかじゃなくて…」

「あ、そっか…美羽は知らないんだっけ?海の相手。」

「旦那もちなんだよね」

「……?!それって駄目なパターンのじゃないの?不倫になっちゃうでしょ?」

「不倫にはさせないけど。」

「させないって言ったって…実際にしてるのと同じじゃない?」

「体の関係は一切ない。何よりも、心愛が悲しい思いをしたらそこで終わり。もし突然の別れが来たってどっちにしても相手を追わない…そう決めてたんだよ…」

「だけど…それでもやっぱり駄目じゃないかなって思う…どうなんだろう…」

「美羽っち…それでもさ、会っちゃったんだよ…俺と心愛…出逢って好きになって、そうしたら傍に居たいって思う様になっちゃうでしょ。」

「……海くん…」


そう言いながらも笑って話している海に美羽は問いかけた。


「…その彼女って…いつアメリカに出発になるの?」

「明日。」


突然な告白に加えて急すぎる出発日。それを知った美羽は海に対して『お見送りは?』と聞いた。


「行く予定ないよ…」

「なんで?」

「だって行ったら心愛…泣いちゃうでしょ。きっと。それだったら遠くの場所から見送った方がいいに決まってる。だからさ…今日は一緒に居た方が気分まぎれるなって…みんなには迷惑かけちゃうことになって悪いんだけど…」


そういいペコリと頭を下げる海。そんな相手に何も言えなくなってしまった美羽は小さなため息を吐くしか外なかったのだ。そうしていてもどうしようもない…と切り出して秋人は一緒に観光めぐりをする事を提案した。その方が気分もまぎれるだろうから…と。

嵐山の町並みは本当に静かな所だった。秋になれば紅葉がきれいだろうと言う想像もまた容易くできる程だ。自然が果て無く続き、空気も穏やかだ。時間の流れもまたゆっくりと過ぎて行く。美羽は4人が揃った中であっても写真を撮り続けた。初めの頃に抱いていた不安は今はもうなかった。ただ変わりにあるのは、秋人の表情を、いつもは見る事の出来ない柔らかさを…一瞬でも多く伝えたい…それだけだった。


「美羽ちゃんって…不安になったりしない?」

「不安って…何にですか?」

「秋人に対して…さ?この間みたいなこともやっぱり今後もあると思うんだよ。」


そう切り出して来たのは冬木だった。特定の彼女を作らない冬木だったが、それに対しても美羽は疑問に思うところがあった。


「…それって、やっぱり和さんが特定の彼女作らない理由と関係してるんですか?」

「ん…ー・・それは関係ないかな。僕が生涯で愛する人はたった1人だから…」


その言葉にまた美羽はあんぐりとしてしまった。特別に愛する人がいて、それなのに来るもの拒まずで相手をする…芸能界ってそういう人の集まりなのか?と…しかし、それに対して冬木は続けて話をしていた。


「僕の1番大切にしたい人はね、もういないから…」

「え…?」

「解りやすく言えば…さ?もう死んじゃったから」


ふわりと笑う冬木。そんな冬木を見て美羽はしょんぼりと肩を落とした。そんな相手を見て冬木は美羽の方をそっと抱き寄せた。


「美羽ちゃんが泣く事じゃないよ。大丈夫だから。」

「でも…なんか……本当にごめんなさい…」

「大丈夫だって…それに本気で手ぇ出してる訳じゃないし。食事行ったり、話し相手になったり。まぁ中には相手からキスされたりもあるけどね?」


ははっと笑う冬木に対しても美羽はやはり謝っていた。それを見ていた秋人は傍に来ると美羽の頭をぽんっと叩いた。


「美羽にはこの京都の最終日はキツい内容になったか?」

「…うん、だけど、色々と知る事が出来て…嬉しい気もある…」

「そか、……カズ?あんまり美羽の事泣かすなよ?」

「解ってるって…」


そう言いながら秋人は他の2人の元に戻って行く。昼食も一緒に取り、その瞬間も撮影していく。買い物中のさなかに美羽はおせっかいと思いながらも平良に声をかけた。


「海くん…」

「ん?何?」

「おせっかいなのは解ってるけど…やっぱり明日間に合うなら行った方がいいと思う…」

「美羽っち?」

「何かお土産もって…大好きだったのは本当の心なんでしょ?」

「そりゃ!!本気だよ…今だって…」

「だったら直の事、行って、抱き締めて…大好きだよって最後に伝えるのもありだよ?」

「それで心愛の事傷付けたら…」

「傷つく事は無いと思うよ?私なら、最後の最後に会いに来てくれたら嬉しいと思うもん。電話だけとか、別れ話が最後で何て…好き合ってるのにそれじゃぁ淋しから…」


そう言われて説得された平良は小さく笑って『ありがとう…』と伝えた。そうしてそれからと言うもの、一生懸命に土産物屋で目を凝らして探し始めた。

時間は経つのも早く、合流していた3人は東京に戻る時間も迫って来た。近くの駅まで見送ると美羽は平良に手を振った。


「頑張ってね?」

「ありがとう…」


それだけの会話も済ませると3人は一足先に東京に戻って行った。そして2人はホテルに向かう。最終日はホテルでの撮影。旅館とはまた違った画が撮れるに違いなかった。

ホテルに着くと、すぐに部屋に案内された。ロイヤルスウィートを用意されている為、中も広々とした印象だった。


「美羽…?」

「なぁに?」


返事をしながらも一眼を向けようとした時だった。次の瞬間に美羽は秋人の腕の中に居た。


「写真もいいけど…最後の夜位俺の我儘聞いて?」

「え……っと…」

「今までの2泊…相当俺我慢して来てんの…気付いてる?」

「あ…きと…?」

「最後の最後まで俺…我慢しようと思ったけど…やっぱり無理…すげぇ抱きたい…」


そう言うと答えを待たずに美羽を抱き上げてベッドに連れて行った秋人。ドサリと降ろすと上に覆いかぶさり組み敷いた。


「でも…秋人…」

「ん?」

「……ッッ」


言葉なんて出なかった。ただ目の前の秋人が愛おしくて、本当なら今すぐにでも壊してほしいほどだった。ゆっくりと近付いてくる秋人の顔に同調するように美羽も瞼を閉じる。フワリと重なる口唇…変わらない秋人の香り…髪の柔らかさも、体の重さも、依然と何ら変わりはなかった。それだけでも嬉しかった…


「美羽…愛してる…」


耳元で囁きながらも愛撫を止めようとしない秋人の舌は瞼から頬、耳…首筋へと順を追って降りていく…


     アッ…ンァ…


   ハァハァ…     ンァア…  クチュ…


零れ落ちる吐息と少しずつ甘さを帯びてくる喘ぎ声…この時間だけは何にも変える事ので居ない程の至福の時間だった…それは美羽にとっても、秋人にとっても同じ事だった。

そっと秋人の右手が美羽の秘部に触れる…そこはすでに蜜壺から溢れ出た愛液でしっかりと潤っていた。秋人の一物もまた大きく膨れ、固くなっている。


「美羽…ごめん…我慢できそうに…ない…」

「秋人……ッッ」


ズボンを降ろし下着を脱いだ途端に零れ出た一物は美羽の太ももに当たる…ゴムを手早く付けると秋人は美羽の太ももをぐいっと持ち上げた…


「少し早いけど…いい?」

「…ん…」


その返事を聞いた秋人はそっと秘部に宛がうとゆっくりと大きく、固くなったそれを中に挿し入れた…ゆっくりとしたピストンに合わせて美羽の吐息も、甘く響く鳴き声も大きく漏れ出した。


   アッ…アッンアァアン…ハァハァ…


    グチュ…ズッ…クチュ…クチュ…


水音と擦れ合う音、それに加えて互いの熱が混じり合う……長い事なかった2人だったが、変わらずに美羽の秘部は秋人の一物を受け入れた。それから、秋人が果てるまでに長い時間は要さなかった…


「美羽…ッッ……イク…ッ!」


それだけ言うとクッと力が籠り、ゆっくりと美羽の上に項垂れた秋人。肌は重なり合い、ゆっくりと秋人は美羽の中から力を無くしたそれを抜き出した。ゴムの中には、白濁とした秋人の欲望が多量に収まっている。


「痛くなかった?」

「大丈夫…」

「ほんと?」

「ん…」


そうして横になると秋人の胸に顔を埋めて巻き付いた美羽。仕事だと解っていても、やはり秋人の腕に抱かれては忘れそうにもなってしまう…

もう少し…あと少し……と互いの温もりに安心しきっていると秋人は疲れからか眠りに就いていた。そんな愛おしい相手の寝顔を美羽は自身のスマホでカシャリと収めた。そうして翌朝に早く目覚めた秋人。美羽をそっと抱き寄せながらもその温もりを実感していた。辺りはまだ少し薄暗い中だった。そんな時、ゆっくりと美羽も目を覚ます。


「おはよ…」

「…ん、おはよう…」


そう言いながら秋人の背中に腕を回して美羽はきゅっと巻き付いた。そんな相手に愛おしさを感じながらも秋人はゆっくりと話し始めた。


「ねぇ美羽…俺さ、ずっと話そうと思ってたことがあって…」

「なぁに?」

「結婚しよう」


突然の秋人の言葉だった。全く前触れもなければ、そんなそぶり何ていうのも全くと言っていいほど感じられなかった。それなのに、突然のこの告白に美羽は正直驚いた。


「秋人…本気?」

「冗談でプロポーズなんてさすがにしないだろ…」

「だってそんなそぶり…!」


ガバリと起き上った美羽。それにつられて秋人も起き上がるとそっと抱き寄せて耳元で再度秋人は自身の思いを伝えた。


「結婚…しよ?」

「私で…いいの?」

「美羽じゃなきゃ意味がないよ?まだいろんな超える事、しっかりとした時期とか…もしかしたら仕事上で式とか新婚旅行とか…そう言うのは少し遅くなるかも知れないけど…それでも美羽と一緒に未来を歩いていきたいって思うから…」

「ありがとう…」

「じゃぁ…」

「はい、喜んで…」


そうして秋人のプロポーズを笑顔で受けた美羽。額をコツリとあてて、吐息がかかるほどの距離で笑い合っていた。ゆっくりと、優しく…口唇を重ねる2人…窓からは小さな光が入り込み始めていた。


朝食を済ませ、宿を後にし、京都の土地にも別れを告げた2人。そのまま東京に新幹線で戻って行く。そんな道中で秋人の携帯にメールが入る。


「どうかした?」

「ハルからだ。迎えに行くけどって。…や、遠慮しよ。」

「どうしたの?」

「仕事終わってからになるから夕方だって。」


仲間からの気持ちを想いだけしっかりと受取り、断りの返事を入れる。秋人は美羽にどうするかを問うた。


「私、このまま編集社に寄ってから帰るよ。遅くなるといけないし。」

「俺も行こうかなぁ?」

「それは任せるよ。でも、今日オフで明日からまた仕事でしょ?帰ってゆっくりしたら?」

「それもいいんだけど…」

「私なら大丈夫だよ。タクシーで行くし。」


そう言われた秋人は小さく笑って解ったと返事をしていた。色々と携帯で撮った写真を始め見ていた。これほどまでに写真を撮った事は未だかつて無かった為、何か不思議な感じになっていた美羽。自身の携帯においても同じ事だった。一気に秋人の写真が増えた。


「なぁ美羽?」

「なに?」

「それ…待ち受けにするのやめない?」

「何で?」

「なんか俺が恥ずかしい」


秋人がそう言うのも無理はなかった。昨夜に撮ったばかりの秋人の寝顔の写メだったからだ。それでも美羽は嬉しそうに笑いながらひと言、『ヤダ』と言っていた。

そんなこんなで新幹線も東京に着き、2人はそれぞれ別れて行く。秋人は駅で別れた直後に電話をかけだした。


『もしもし?』

「匠さん?俺、秋人です。今京都から帰りました。少し話があるんですが…お時間頂けますか?」


そう、結婚の意思を告げようとしていたのだった。一方の美羽は編集社に向かっていた。東京の駅からでもそれほど多くの時間はかからずに着く事が出来た。


「すみません、…」


そうして受付で待つ事5分程か、編集の担当者は降りてきた。顔を見るなり満面の笑みで迎えてくれる。


「葛城さん、お帰りなさい。今日京都から帰ったはずじゃ…」

「そうです。ただ、少しでも写真のお渡し、早い方がいいかと思って…」

「すみません、ありがとうございます。どうぞ?」


そうしてエレベーターで案内される。そのまま少し話しをしながらも上がって行き、一眼のデジカメを渡した。スマホでも撮っていた写真の一部はメモリーカードに落としこんで一緒に渡している。それを実際に見ながら担当者はぽつりと声を漏らした…


「これは…どうしような…」

「え…あの…使えそうにもないですか?」


美羽は焦りを隠しきれなかった。どうしよう…3日も貰っていたのに撮った写真がほとんどダメだったとなってはどうしようもない…しかし、その直後に担当者は編集長を呼んだ。これは益々に問題なのではないか…美羽は途方に暮れはじめていた。


「…・・これなんですが…」

「…なるほど…そうか…」


編集長もソファに腰を下ろした。次いで出た言葉で美羽は一気に救われる事となった。


「予定ページに収まらなさそうだな…」

「そうなんです。」

「……あの…」

「葛城さん、やはりあなたに頼んでよかった。こんな表情の榎本さん、僕らや仮にプロの人間に頼んでもこんな写真は撮れないだろう。本当にいい写真ばかりで…問題があるとすれば、写真の選定にかなりの時間がかかりそうだって事位かな?」

「あの…それじゃぁ没写真ばっかとかでは…」

「そんなことはないよ。ありがとう」


ホクホク顔の担当者と編集長の表情に美羽も安堵の表情に変わった。写真を預けて、美羽は一安心した後に秋人に報告を兼ねてメールをした。そのまま地下鉄に乗り、家路へと帰って行った。



……・・・それから3か月後…・・……



美羽の両親の元にも、挨拶に向かった秋人。本気で付き合っているという事、結婚させて頂きたいという旨…すべてを話し、納得の了承を得る事が出来た。それから数日後、秋人の写真集の発売日を無事に迎えた。結局、ページ数を最大に削ったとしても、1冊にまとめるのは困難だったため、『side white』と、『side black』とツータイプを用意することとなった。温かく、笑顔が多く見えた昼間の写真をホワイとに、旅館やホテル、入浴シーンや、ベッドインしている様子の物などはブラックにおさめる事にした。予約数も聞けば類を見ない程にまで数字は上がっているとの前評判。発売記念会見でメディアを通しての発表会の時間も迫ってきていた。


「秋人、もう時間だよ?」

「ん、解ってる。」


そうして案内されて秋人はメディア関係者の前に姿を現した。一気にフラッシュはたかれる。そうして発表会見は始まった。


「本日はお集まりいただきましてありがとうございます。本日の質問内容に関しては発売されます『akito~常に僕は君のモノ~』に関してのみとさせて頂きますので、宜しくお願い致します。」


そうして始まった。質問内容は本当に様々だった。今噂されているマネージャーとの単なるノロケ写真集じゃないのか?といったような批判も混じったようなものから、自身の気に入っている写真について等、本当に様々だった。中にはS4との写真もあったりと本当にプレミア感が満載である事を押し出した。そうして一時間程の発表会も終わった後に秋人が退場する際、美羽との事も矢継ぎ早に聞かれていた。しかし、笑顔ですり抜けていく。そうして一旦は裏に下がった秋人。そうして何事もなく無事に終えたと思ったその矢先だった。司会者は突如変わり、そこには宮村が立っていた。美羽はどうしたのかと、半ばパニックになりかけていた。


『…続きまして、私ども、クリスタルレインボー所属のタレント、榎本秋人の交際、及び婚約会見に移りたく思います。お時間の許される方はどうぞこのままお待ちくださいませ。』


一気に会場はざわついた。宮村が手を回し、編集社に掛け合い、会場費等も持つという事も考慮の範囲に収めて写真集の発売発表会のすぐ後にこの記者会見をすることにしていたのだ。この事は内々のみで、メディア等には一切の告知無の物だったため、帰ろうとしていた記者たちもその場に残っていた。中には携帯で会社に連絡を取っている者もいた。それと同時に、美羽もまた、この場で知らされた者の1人だった。


「ねぇ秋人!これって…」

「そういう事。」

「そういうって…」


そうしてひと言美羽に残すと秋人は再び壇上に上がった。マイクを持ち、記者達に向かって一礼をし、微笑みを浮かべながらゆっくりと話しをし出した。


「突然の弾丸発表に残ってくださり、ありがとうございます。私、榎本秋人は兼ねてよりマネージャーを務めて頂いております彼女との婚約を正式に決定しましたのでここにご報告させて頂きます。」


そうしてもう1度ゆっくりと一礼した。先程の写真集の時と同じか、それ以上にフラッシュはたかれた。それと同じくして、質問も半端なく飛び交った。


いつからの付き合いだったのか、その間にSATSUKIとの事もあったがどうだったのか、結婚はいつなのか、相手は妊娠しているのか……ありきたりだったが1つ1つの質問に丁寧に答えていく秋人。そんな時だった。ある記者から美羽の事に触れられた。


「今はやはり、写真集発売の発表会後という事もあっていらっしゃるとは思いますが…」

「まぁ…」


その回答に戸惑うと秋人は宮村の方を見た。ニコリと笑うと宮村は一旦奥に入り美羽に表に出れるかを聞く。そうして時期に戻ると秋人に耳打ちをした。その短い会話の後に秋人は『失礼します』と席を立ち、裏に居る美羽を連れ出した。頭をぺこりと下げると美羽も秋人の横に立った。


「お初にお目にかかります、クリスタルレインボー、榎本秋人のマネージャーを努めさせて頂いております、葛城美羽と言います。宜しくお願い致します。」


初めてマイクに自身の声を通す。緊張が手に取るようで宮村も少し可笑しくなってしまっていた。色々と質問をされながらも微笑ましく見つめている宮村と、メディア達。当の美羽は1人混乱に近い物があったとはいえ、秋人もまた嬉しそうだった。こうして予定よりも少しオーバーしながらも記者会見は終了した。なんだかんだと言いながらも、初めてにしては上出来な会見だったと笑っていた秋人ともうすでにくたくたの美羽だった。


「悪かったな、美羽」

「匠さん…グルでしたね?」

「グルとか言うなって…でもまぁ、良かったんじゃない?」

「そうかなぁ…でも、ありがとうございます。」


ぺこりと美羽は宮村に頭を下げた。こうして一気に秋人との関係が明らかになるものの、ネットやファンの反応は悪くなく、意外に祝福モードだった事は幸せを感じていた。

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