第17話それぞれの反応と、新たな仕事

美羽も一緒に秋人のマンションに戻って行った。しかし、秋人を降ろしてすぐに美羽は運転席に乗り込むとその場を去った。そう、どこで張り込んでいるか未だ解らず、これ以上に秋人に迷惑や負を与える訳にはいかないと考えたからだった。事務所に寄る事も考えたがそんな最中に美羽の携帯に連絡が入る。近くのコンビニに停めてすぐに美羽は折り返した。


「もしもし、葛城です」

『俺。今どこ?』

「申し訳ありません…今回は…秋人が…」

『美羽ちゃん?大丈夫。俺だけは先に聞いていたから。手の打ち様はいくらでもある。』

「え?…た…くみさん?」

『だけど、今から事務所に来るのは避けた方がいい。結構集まりだしてるから。俺の方で何とかしとくから、今日この後何にもないなら自宅に戻るか、秋人送って帰るか…した方がいいな』

「…本当にすみません…」

『美羽が謝らなくていい。秋人が暴走しただけだから。それを止めようなんて考えたって、突然秋人が言い出したことなんだから…美羽は悪くないからな?』

「そう…かもしれないけど…」

『気にするな。1人フォローするも、2人フォローするも変わらないからな』


電話口では小さく笑っている宮村の声が聞こえる。2人…?そんな疑問が美羽の頭に過ったものの、あえてその場では聞かなかった。取りあえず、宮村のいう様に美羽は自宅に帰った。荷物を置いた直後だった。秋人から着信があった。


「もしもし?」

『美羽?すぐ出たって事は帰った?』

「さっき着いた。…ねぇ秋人?さっき匠さんから電話あったけど、昨日、匠さんに今日の事話してたんだね?」

『あぁ、そう。流石に1人だけで強行突破しても、事務所の長が知らないなんて事になってたら立場上悪化する以外ないでしょ?』

「…でも…私何も聞いて無かった…」

『いったら美羽却下って言うでしょ?』


そう見透かされていた為か、美羽には黙っていたと秋人は言った。そうだけど…とぽつりと答えるしかできなかった美羽も想定内だった。


『俺はこれから先も美羽と一緒に居たいって思ってる。それにちょうど今のタイミングでさつきの妊娠報道が出てる。だとしたら俺にも相手が居るからさつきの事とは関係ないって言い切る事にもなる。』

「…秋人…」

『それとも美羽は嫌だった?』

「嫌じゃない…だけど、タイミングってものがあるんじゃないかなって思っただけ」

『そのタイミングが俺の中じゃ今だったんだよ。』


そう言う秋人の声に迷いは全く感じられなかった。美羽も本当に嫌だったわけじゃない…それ故に強くいう事は出来なかった。

それから美羽は不安だった。S4としての仕事・秋人単独としての仕事…すべてがどうなるのか…と。美羽の業務用の電話には連絡が入ってこなかった。宮村始め、事務所からの連絡もこの件に関しては全くと言っていいほど皆無状態だった。ネットニュースを見ても秋人の提携先殿事は書かれていない。たとえ書いてあったとしても続行の文字しかなかった。嬉しい反面、いつひっくりかえされるか…それだけが心配だった。秋人の代わりと言っては申し訳ないが、さつきの方はそれどころじゃなかった。妊娠説から始まり、あざと女子代表と罵られ、秋人を騙した女…裏切り者…ありとあらゆるレッテルを貼られ、芸能界自体の引退に追い込まれていた。そして、お腹の子の父親も家庭あるマネージャーが相手という事もバレてしまったのだ。さつきのマネージャーもまた、職を失う事となった。しかし、ワイズの社長である安田は『自己責任だ』として、秋人たちに責任を問わせるつもりはないとした。


そうして小春のある日…

美羽のもとに1件の仕事が入ってきた。それは秋人のソロ写真集の話だった。しかし、なぜか説明をしたいと申し出られたのは秋人と美羽が必ず一緒に来てほしいというものだった。


そうして仕事を受けるかどうかの時。美羽は耳を疑った。


「ちょっと…待ってください!私が…ですか?」

「そう。やってくれるか?」

「そんな…だって私では…」

「俺は良いけど?」

「秋人ッ!!」

「それなら榎本君は了承済みと…どうにかいきませんか?葛城さん」

「だって…私が写真撮るなんて…そんな光がどうとか…できないですし…」


そう、出版社の企画案はこんなものだった。あれほどにまではっきりと公言し、しかもファン層は減るどころか広くなる。ましてや以前よりも表情が優しく、柔らかくなったと評判も上々。そんな秋人の素顔を撮った写真集を発売したい…そう考えた結果、『プロじゃなくてもいい…彼女目線の写真集を撮ろう』と考えたのだった。


「私、写真って言ってもスマホとかで撮るしかできないし…」

「最近のスマホは画質良いですからね…」

「一眼レフとか無理だし!」

「それでもデジカメが使えたら問題ない物用意しますよ」

「クスクス…美羽の負けだな」

「企画倒れしても私責任取れませんよ?」

「問題ない。スケジュール、いつなら空いてる?」

「少し調整してからのお返事でもいいですか?」

「構いません。出来れば今月末までにお返事いただければ…」

「…解りました。」


そうして企画倒れになる事を恐れながらも美羽はこの仕事を引き受けた。撮影場所は春先の京都。少し肌寒い物の自然は綺麗な時期に入る頃だった。旅費、3泊分の旅館やホテル代、全て出版社側の持ちだった。本人達が負担する者と言えば、道中の飲食や各自が好きで買うお土産代のみでいいという好条件。カメラ等に関してもまったく考えなくてもいいと言ったものだった。京都に3泊、ただで行けるのと同じだった。大まかな日程表だけもらいこの日は2人揃って引く事にした。


「なぁ美羽、受けてみない?」

「でも…写真の知識も何もないド素人が撮った写真が売り出されるのよ?」

「何か問題でも?」

「普通大有りでしょ!!!!」

「クハ…そんなに否定的にならなくても。俺は好きだよ?美羽の撮る写真。」


そう言いながら互いのラインのアルバムを見始める。その足で撮影現場に入り、その撮影の合間にも美羽は宮村に相談する。そうして宮村からもあっさりとGOサインが出る。そうした中で撮影の日程調整をするべく電話をあっけていた。粗方調整も付いて、出版社の担当に連絡を入れる。


「もしもし…」

『はい、お待たせいたしました。』

「先程の件…お受けさせて頂きます。」

『本当ですか?!ありがとうございます!』

「いえ、でも本当に私何もカメラとかそんな知識や腕なんて…無いですからね?」

『大丈夫ですよ!ありがとうございます。それでは、事務所の方にもまた改めて連絡させて頂きます。宜しくお願い致します』


そして切れた通話。しかしながらも美羽は戸惑いを隠しきれずにいた。それでも良しと言ってくれる出版社の言い分が大丈夫なのか、と不安にもなっていた。2人きりの泊りがけである京都旅行、もとい、撮影日程の楽しみもまた、どこからしか否めないのも事実だった。


そうして、その旅行の日程が決まり出発までの日数もまた、同様に足早に訪れたのだった。

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