第8話誘い、誘われ、いざなう先は。

初めて2人で迎える朝…美羽はふと目を覚ます。すると夜眠りにつく時には隣に居た筈の秋人がそこには居なかった。飛び起きた美羽…辺りを見回してもその姿は無かった。しかしそんな時、美羽の耳に聞こえてきたのはサーっというシャワーの音だった。ほっと安堵をした美羽は、ベッドの脇に落ちていた秋人のTシャツを拾いあげ、こっそりと着ていた。


「おっきいなぁ…」


しかしどことなく嬉しそうな美羽。実際に少し立ってみたりもしていた。鏡に映る姿を見てくるくると回ってみたり、背中を見てみたり…いろいろと試していた。その後に俯いて少し瞼を閉じ、深呼吸をしていた時だった。


「なぁに人の服着てんの?」


そう言いながら後ろからふわりと抱き締められた。いつの間にか秋人もシャワーから上がっていたのだ。濡れた髪と一緒にシャンプーの香りがふわりと鼻をくすぐる…


「しかもシャツだけで…チュ…」

「ン…まって…?」

「待たない」


そう言いながら後ろから首筋に口唇を寄せる秋人。きゅっと腰を抱いたまま焦らすかのように後ろから美羽を攻めていく。そうこうしているとするっとTシャツを脱がされる。


「あ…きと?」

「クスクス…服返してな?」

「ちょっ…!!」

「朝から俺的には萌える光景だけど?」

「…ッッ!」


下着こそ身に着けているものの美羽の上半身は露わとなる。照れてしまい真っ赤になる美羽の体を自身に向けて優しく抱きしめる秋人。


「そんなに照れなくても…昨日はあんなに積極的だったのに…」

「秋人のイジワル…!」

「何とでも?」


くすりと笑いながら額にキスを落とす秋人。ゆっくりと離れるとパンツも履き携帯を確認していると丁度電話がかかってくる。


「もしもし?」

『あーきーとーぉ!!!どこにいんだよ!』

「は?今?部屋」

『嘘付ぇ!!ノックしてんのにでねぇじゃん!』

「ちょっと部屋違いだな。で?海朝から何騒いでんの?」

『良いからちょっと出てこいよ!!』

「あぁ、わかった。すぐ行くわ。」


そういい電話を切った秋人。美羽は少し心配になり見上げて聞いた。


「秋人?どうかしたの?」

「いや、わかんねぇけど、海が半狂乱で怒り出した。ちょっと言ってくるわ」

「ん…」

「んな心配そうな顔すんなって。大丈夫だから」


そう言い残して秋人は美羽の部屋を出た。そのまま自身の部屋に向かう。案の定に部屋の前には海が居た。


「秋人!これ!」

「周りに迷惑だ…とりあえず部屋入れ…」


そう言い促した。海が取り出したのは1枚の手紙だった。その差出人の名前は書かれていないものの容易に察しはついた。


「美羽っち、大丈夫かな…」

「美羽なら今の所大丈夫だ」

「なんでそんな事解んだよ!心配じゃないのか?」

「さっきまで一緒だった」

「だからって昨日の夜に何かされた事隠してたら!」

「それもない。」

「なんでそんな事言い切れるんだよ!」

「一緒だった」


さらりと告白をする秋人。しかしその目は平良から貰った手紙に向けられている。一通り読み終えると海にそれを返した秋人。さらりと告白された平良は一瞬きょとんとしていたが時期ににっと笑うと嬉しそうに問いかけだした。


「何!?秋人…美羽っちのとこにお泊りだったの!?俺だって本当はここと一緒に居たかったんだけどやっぱ無理じゃんかぁ、いいなぁ」

「海、うるさい」

「シたのか?!」

「…バカ」


直球過ぎるほどにまっすぐに聞く平良に照れくさそうに答えながらもほかの2人にグループメールで問いかける。すると時期にコンコンっとノックが聞こえ、開けると春﨑と冬木が立っていた。


「それで?」

「詳しく聞かせてもらおうか?」

「これ」


そう言い秋人が差し出した手紙。


『S4の榎本秋人のマネージャ、葛城美羽はヤリマン。男を喰い物にしながらの性癖は悪さは天下一品。若い好みの男性にはレベル3を使って誘うのも日常茶飯事。沖縄での写真集撮影最終日の夜にもスタッフの男を喰い物にし尽している』


「ひどくねぇか?!」

「それで?美羽ちゃんは?」

「全く問題はない。夜にスタッフと一緒な訳もない。」

「いや、秋人が信じたい気持ちも解るけど」

「一晩一緒だったんだって!」


平良の言葉に視線が一点、秋人に集中したのも言うまでもなかったが、平静を保っていた。


「全く一緒だったのか?」

「あぁ。だから問題はない。デマだな。」

「だけど少し目を離したときとかは?」

「絶頂に墜として美羽が先に寝た。今朝も起きたのは俺のが早い。疑うなら、俺も共犯ってことになる。」

「…あぁ…そういう事…でもどうする?」

「放っておく。騒いだらさつきの思うツボだ…」


そうして4人は『まったく…』と頭を抱えていた。気付けば朝食の時間も過ぎており、食事会場に向かう。そのまま軽めに済ませて沖縄を後にすることになった。

東京に戻り、美羽はやはり気になっていた事を秋人に問いかけた。


「今朝…海君なんだって?」

「いや、大したことじゃない。呼んでも呼んでも俺が居なかったから腹立ててただけだ。」

「…そう?」

「あぁ、たまにある。それに一週間彼女と離れてて寂しくなったんだろ」

「か…のじょ!?海君いるの?」

「何驚いてんだ?まぁ…少し風変りだけどな。そしてそれ、バレてねぇから。」

「風変りって…」

「人妻だ。」

「…・・・!?!?」


余りに突然の事に美羽も驚きを隠せなかった。しかし笑っている秋人を見て問題はないのだと感じていた。それから数日の中、これといった変わりや変化は特に見られなかった。沖縄の撮影の前後で変わったことと言えば…本の撮影の空き時間でも秋人の美羽に対しての愛情表現が過剰になった…ということだった。そして今もそうだ。


「ちょっと…秋人…ダメだって…」

「大丈夫…監視カメラなんてねぇよ…」

「誰か急に入ってくるかも…」

「鍵かってある」


そう言いながらソファに座る美羽に上から覆いかぶさりながらも首筋に顔を埋め、ブラのホックを外し、手のひらは胸元を捉えている。しかし時間が来ればそこはプロというべきか…すっと離れ服を整え、スタジオへと向かう。


「…美羽?置いてくよ?」

「…ハァハァ…もぉ…」

「クス…」

『秋人さん入りまぁす!』


そうして美羽はいつも通り秋人の撮影を見守っている。しかし、数分前まで感じていた秋人の愛撫で体は多少なりとも過敏になっている。そんな時だった。この日秋人と一緒に取ろうとなっていたもう1人のモデルが入ってくる。


「翼君も来たね!」

「よろしくです!」

「今、秋人君撮ってるからね」

「相変わらずっすねぇ!」

「そういう翼君も相変わらず王子様だね」

「そんな事ないですよ」


そうスタッフと話しながら『翼』と呼ばれる男の子は美羽に近付いてくる。小声でそっと話し出した。


「秋人さんのマネの方?」

「あ…はい…葛城美羽と言います…」


そう言いながら美羽は名刺を差し出した。それを受け取る翼。そんな彼の後ろから翼のマネージャーも声をかけ挨拶を済ませている。


「翼?あんまり手ぇ出すなよ?」

「出しませんって!」

「なら良いが…」


そう言い残してマネージャーは少しその場を離れた。それを見て翼は再度声をかける。


「葛城さん…かぁ。美羽ちゃんって呼んでいい?」

「えと…葛城さんでいいです」

「仲良くなりたかったのになぁ。それとも秋人さんが怖いってか?」

「え…?」

「だって…同じ香水使ってるなんて珍しいし。もしくは秋人さんに臭いが混ざるとか言われて強要させられてるか…」

「同じ香水…使ってませんよ。それに強要もされてないです。人聞きの悪い事言わないでください」

「だとしたら、答えは1つかぁ」

「え?」

「付き合ってるでしょ。葛城さんと秋人さん。」

「…誰がそんな事…」

「色々と察する事は簡単だよ?メンズ物の香水の香りを纏って、同じのを付けてる訳でもないとしたら……ね?」


そう言い残して秋人と交代するべくカメラの前に立った翼。にっと誘うように美羽に視線を送りながら撮影に臨む。それまでの経緯を撮影中から見ていた秋人は少し不機嫌になりながらも美羽に問うていた。


「さっきさ、あいつと何話してたの?」

「秋人と私が付き合ってるって…言われて、そんな事ないよって言ったんですけど…」

「ふぅん…美羽?」

「何ですか?」

「翼には…あいつには気を付けろ。」

「え?気を付けるって…」

「さつきの双子の弟だ。」


その言葉を聞いて美羽の心はドクンと高鳴った。そして程無くして2人での撮影になる。カメラマンに対して視線を送ったり、要望に応えつつもスムーズに撮影は終わって行く。一通り終わり、全てを終えた時だった。ぐいっと美羽は肩を抱かれた。


「かっつらっぎさん!!」

「わっ!…えと…なんでしょうか?」

「俺、気に入っちゃったからさ!また会えたらいいね!これ!連絡先!!」


そういうと翼はするりとポケットにメモを入れて風のように去って行った。きょとんとしたままの美羽…秋人はと言うと言わずと知れたように目を合わさずに先に控室に向かっていった。ノックをして美羽はそっと入る。


「しつれいしま…キャ…」

「おっそい…」

「秋人…?」


入った瞬間にグイッと引き寄せられ扉に押さえつけると秋人は美羽の両手首を持ちまたしても首筋に顔を埋める。


「簡単に他のヤローに触れさせ過ぎんだよ…」

「そんな事言ったって…」

「言ったって…何?」


言い訳を聞きながらも美羽の両足の間に膝を割りいれる秋人。爪先立ちになりながらも美羽は感じ始めていた。


「拒否…できないよ…」

「なんで?」

「周り…人いっぱいいて…変に拒絶したら冷たいだとか、秋人の事も悪く言われそうで…」

「そっか。でも俺が悪く言われようと、美羽がほかの男に触れられんのが俺は嫌だけど?」

「秋人…ン…」


ぺろりと首筋を舐める秋人。そんな1つの行動に今ではもう、感じる以外に何もなくなっていた。美羽からも秋人を求めそうになった時だ。戸をノックする音がした。


「失礼しまぁす。これ、秋人さんの忘れ物ですか?」

「…いや?俺のじゃない。」

「そうでしたか、じゃぁ翼君のかな…あ、解りました。すみません」


そうしてスタッフは戻って行く。着替えをする秋人と身支度を整える美羽。最近こんな風に時間と隙が荒れば求め合う事も、一方的に秋人が求める事も、徐々に多くなってきていた。


その頃の翼は次の撮影場所に向かうべく、マネージャーの車に乗っていた。


「ねぇ、あのさ?」

「はい?」

「俺さ、あの子気に入った。動いていい?」

「あの子とは…?」

「うん、秋人のマネージャー。葛城美羽ちゃん。」

「また…ですか。あまり問題にならない程度にして下さいね?火消もなかなか大変なんですから。」

「はぁい!」


明るく返事をしながらもターゲットの相手に美羽を選んでいたのだった。

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